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【レポート】手仕事のちょうどよい表現を引き出すための試行錯誤―新しくて懐かしい「杉のコッパン人形」が生まれるまでー
Good Job! センター香芝では玩具工芸舎と一緒に、福祉の現場で生まれるFukushi Toys(フクシトーイズ) シリーズを作っています。その第一弾として、新しい玩具「杉のコッパン人形」が完成しました。
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合わせてトークイベントが行われました
コッパン人形は誰にでもできる技法を使って、グループの中で楽しみながら生まれる世界に一つだけの玩具製品です。
材料になるのは、世界文化遺産である樹齢50年以上の春日大社境内の杉の木。木工製品を作った際にでた端材を再活用しています。
この杉のコッパン人形の完成を記念して、「福祉と玩具と工芸」の歴史や、可能性、玩具ができ上がるまでの経緯などを玩具工芸舎のお二人、軸原ヨウスケさんと長友真昭さんをお招きし、Good Job! センターの安部剛がトークイベントで語りました。今回は、軸原さんと安部によるトークから、コッパン人形ができるまでの経緯をご紹介します!
講師のご紹介
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軸原ヨウスケさん
岡山在住のグラフィックデザイナー。デザインユニットCOCHAEのメンバー。日本グッドデザイン賞受賞(2008)、グッドトイ選定(2013)、福武教育文化賞(2021)など受賞多数。新型こけしをはじめ従来の郷土玩具の「新しいかたち」を提案するドンタク玩具社も手がける。著書に『アウト・オブ・民藝』(共著、誠光社、2019年)など。
長友真昭さん
2023年より岡山県津山市の郷土玩具、久米土人形の復元を始める。なとも工作舎として、張子や土人形などの製作や岡山神社大絵馬の製作、ワークショップなども行なっている。
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名デザイナーが残していた昔の魅力的なアイデア
元々のはじまりは、こけし好きだったデザイナーの軸原さんが、好きが高じてこけしの本を出版したこと。それがきっかけで東北にご縁ができ、出会ったのが工芸デザイナーの秋岡芳夫さんが1946年に残したスケッチでした。(“ロクロノタメノガングイショー/ ろくろのための玩具意匠” 1946年)
このスケッチの中で秋岡さんは、ロクロ技術を使って制作できる木製製品のデザインをアイデアとして残されています。その数80点。魅力的な製品のアイデアが詰め込まれたものでしたが、残念ながら当時はこけしなどの玩具は贅沢品だったため製品化はされませんでした。(*のちにドンタク玩具社が職人さんたちと制作)
それを見た軸原さんはこのスケッチを足がかりに、自分も新しい玩具を作ろうと思い立ち、玩具のデザインを手がけるドンタク玩具舎を始めます。
郷土玩具は民藝じゃない?
その一方で、軸原さんは大正時代に始まった民芸運動の周辺にどういう人たちがいて、どんなネットワークがあったのかに興味を持ち調べ始めました。趣味や部活のような遊び感覚で始まったのが”アウトオブ民藝“という別活動です。民藝に分類されるものとされないものの境界線を丹念に読み解いてゆくこの活動を始めたのは、個人的な動機からでした。
”このアウト・オブ・民藝を始めた個人的な動機は、民藝と郷土玩具の距離の違和感がずっとあることでした。…. と、いうのも玩具の収集をしている人たちに会うと、
「自分達は民藝の人にすごく嫌われているんだ」
と言うおじいさんなどをたくさん見てきたからです” (By 軸原さん)
「みんげい(民藝/民芸)」というとても使い勝手のいい言葉が、実は逆に民衆が作り出した美を独占しているのかもしれない。と軸原さんは考えるようになりました。
民衆」は社会的に弱い立場にいる人たちかもしれない
軸原さんがさらに「民衆」について考えるきっかけをあたえてくれたのは、秋田で民具を展示に貸してくれた昔の生活用品の一大コレクターである油谷滿夫さんの言葉でした。
油屋さんは軸原さんに、「民」という漢字は、眼精を突き刺し、視力を失わせることなんだよ” と教えてくれます。
興味を持った軸原さんが白川静氏(*文学博士:漢字研究の第一人者)の解説書で調べてみたところ確かに民衆の「民」は確かに視力を失った人たちのことを指し、神への奉仕者と書かれていました。
”それで、民衆的工芸の「民衆」とは社会的に弱い立場にいる人たちではないのか、というふうに思いました。結局、高齢者だって結果的に社会的に弱い立場のひとたちですしね” (by 軸原さん)
福祉の現場で失われつつある郷土玩具を作りたい
民藝の歴史や道具にインスパイアされてきた軸原さんでしたが、今回のFukushi Toysの共同プロジェクトを始める際には、3人のキーパーソンの活動を思い浮かべていたそうです。
それは、民衆の暮らしのために玩具を作った山本鼎(やまもとかなえ)、玩具の未来のために創生玩具を作った有坂与太郎(ありさかよたろう)、そして農民の日常のために農民芸術を作った宮沢賢治(みやざわけんじ)の3人。その3つを合わせて福祉で何かできないか、とは軸原さんがずっと考えていたことでした。
また、廃絶を続けまくる郷土玩具を福祉施設で作って、活用したいとの思いがありました。
初めてGood Job!センターに行った時には、みんなすごく楽しそうに作業をして、かつ、作ったものが売り物として成立していることから、ここは喜びにあふれた現場だなとも感じていたそうです。
"Good Job! センター香芝はいろんな人たちが見学に来るんですよね。誰でも見学ができて、皆さんも惜しみなくどうやって制作しているかを教えている。だからGood Job!センターさんだったら廃絶した玩具を復刻できないかなと考えていました。そして、郷土玩具をいろんな福祉施設でつくる運動もできそうだなと” (By 軸原さん)
個性あふれる表現を引き出し、まとめるための試行錯誤
こうして新しい玩具を作るために軸原さん&長友さんの活動する玩具工芸舎と障害のある人たちが働くGood Jobセンターの間で2年間のやりとりが始まります。
玩具を作るにあたって目指したのは、個人のアイデアや持ち味が発揮されながら、全体としても統一感とクオリティのある新しい郷土玩具でした。ただ、さまざま個性や特性を持つ人たちが作り手となるため、「誰が作っても可愛く仕上がるものを作る」というのは、かなりの難題でした。
実際に何度も軸原さんにはGood Job!センターにきていただき、ワークショップを開いてもらいながら、数々の失敗と改善の試行錯誤を繰り返してきました。
メンバーたちは軸原さんが用意して下さった資料を見ながら制作したり。玩具人形の絵付けに、回転しながら絵付ができるろくろを使ってみたり、レコードプレーヤー(!) を運び込み絵付の台として試作したりもしました。
面白かったのは、絵付け前の人真っ白なこけしの素地人形をみんなに渡したときのこと。
” 材料の値段が高すぎる- と言うのが皆さんに伝わって、失敗できないプレッシャーからみんな緊張し出したんです” 笑 (By 軸原さん)
結局、伸びやかな絵付けができないという理由から、すでに出来上がったこけしの形の使用は取りやめになり、代わりに木の素材を丸棒や八角形など、さまざまな形加工したものを材料として用意して、制作しました。緊張しながら渾身の一本を描くよりも、気負いなく何本でも書ける方が、制作する方もいい意味で肩の力が抜けるため、いい感じの絵付けが生まれるそうです。
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また描くものも、「好きなものを書いてください」とお願いするとアニメを描く人が多かったため、
”幼少期の自分を作りましょう。というプロジェクトにまずはしてみました” (By 軸原さん)
けれど、どうしてもみんな描き込み過ぎてしまう傾向が…!
誰でも作れて、誰が作っても同じように可愛い。でもどれも個性的
そこで、軸原さんと長友さんは世界の民藝の魅力的な要素を書き出しました。例えば、顔の表情では、目のパーツが‥(てんてん)で鼻のパーツは ー(棒)などです。
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理由は、世界の民藝品はどれも素朴で、いい意味で誰でもできるつくりだから。今回は、国境ボーダレスな普遍的なものを作ったら面白いのではと考え、その民藝要素を書き出して、それを障害のあるメンバーに事前にレクチャーしてから制作もしてもらいました。
また長友さんのアイデアで胡粉を下地に使い、人形としての精度を高めました。
そうして数々の試行錯誤を経て、今回のコッパン人形がやっと産まれました。
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作られていた木端人形(こっぱ人形)から
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軸原さんと一緒に、制作に関わったGood Job!センターの安部さんも、
すごくちょっとずつ、ちょっとずつ、改良しながら やっと今回誰が作っても可愛いし、販売できるものがようやく出来上がりました (by 安部)
と、今回やっとお見せできるものが出来上がった喜びを伝えてくれました。
見た目も愛らしく、制作のしやすさ、製品のまとまりの全てに心を配った新しい郷土玩具。その努力と言葉の通り、懐かしいようで新しい素朴で可愛い木の人形が出来上がっています。
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コッパン人形は夏頃、こちらのECサイトにて販売の予定です。販売にむけて鋭意肩の力を抜きながら、製作中です。お楽しみに!
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