「出社義務がなくなる今こそ、攻めのコーポレート部門を」NEWPEACEが総務でも人事でもない新部署を作った理由
コロナの影響もあり「出勤義務は不要だったのではないか?」とリモート勤務を全面解禁する企業が増えてきました。その一方で、「会社ってなんのためにあるんだっけ?」と組織の一員であることに疑問を抱く人も見かけます。
私たちNEWPEACEも、2020年6月から働き方を自由化し、出勤前提のスタイルを見直しました。社員がほとんどオフィスに来ない状況において、総務や人事といったコーポレート部門は何をすべきで、企業という一つのコミュニティの価値はどのように保つべきなのか。
新たな挑戦として、NEWPEACEは同年10月より「カルチャー&コミュニティ」いう部署を新設。専任となる社員・染谷英輝によって「攻めのコーポレート部門」への実践を始めました。
染谷英輝
業務委託としてNEWPEACEにジョインし、卓球用品メーカーのVICTASのビジョニングプロデュースなどをした後、2017年に入社。2018年よりコーポレートチームの専属になり、2020年10月より現職。
元々はプロデューサーとして入社した染谷が、どうしてコーポレートチームを経て「カルチャー&コミュニティ」の専任になったのか。そして、同部署がどのように機能しているのか。
染谷へのインタビューを通して、コーポレート部門の在り方と、私たちNEWPEACEが考える「企業のこれから」について紐解いていきました。
オフィスの扉を修理した夜、代表から電話がかかってきた
ー染谷さんは、2017年に入社するより前から業務委託としてNEWPEACEに関わっていて、社員の相談相手になったり、コミュニケーションの仲介役になったりするシーンがあったと聞きます。入社一年後のタイミングで「コーポレートの専属になってほしい」と頼まれたのには、どのような背景があったのでしょうか?
NEWPEACEオフィスのエントランスと執務スペースをつなぐドアがあるんですけど、いつも大きな音をたてて閉まるのが気になっていたんです。他の社員も、扉が閉まるたびに驚いて集中力が途切れている印象があったから、直した方がいいんだろうなあと。いつもそういう、他の人は行動に起こすほどじゃないことが、気になっちゃう性格なんです。
日曜大工も嫌いではないので、扉を直すためにAmazonで器具を買って、DIYで修理をしたんですよ。バタン!って音がしなくなると、みんなもワーッと喜んでくれた。まあ、些細なことですし、その場はそれで終わったんですけど、その夜、居酒屋で飲んでいたら代表の高木から電話がかかってきたんです。「染谷の価値って、ああいうところにあると思うんだよね。コーポレートチームの専任になってくれない?」と。僕はプロデューサーの仕事もまだまだ続けるつもりだったし、「あれ?そうなっちゃうの?(笑)」と驚きましたけど、引き受けることになりました。
ーこれまでプロデューサーとして活躍してきたのに、突然コーポレートと言われても、戸惑いの方が大きかったのではないでしょうか?
もちろん戸惑いました。でも、コーポレートチームの専任と聞かされるより少し前に、NEWPEACEで全社合宿をしていて、そこで高木が話していたことが頭に残っていたんです。「天職みたいなものを実感するときって、自分自身はそんなに頑張ったつもりはないのに、周りから感謝されたりしたときに表れるよね」と何気なく言っていて、その考えがしっくりきていたんですよね。
確かに、これまで生きてきても、第三者が客観的に見て「お前こういうの向いているよ」とか「こういう風だよね」と言ってくれたことは、大体は素直に受け入れることができていたから、高木が言うならそうなんだろうな、と納得感があったんです。ドアを修理したのも、自分自身が改善したいと思ったことを実行しただけなんですけど、そういうのに気付く視点や行動に移せる力を考えると、適材適所の配置だったと思っています。
片耳の難聴。スランプの乗り越え方
ーNEWPEACEとしても初めてのコーポレートチーム専任であり、前例のない仕事でしたが、モチベーションは保てましたか?
今では笑い話ですけど、コーポレートの専任として活動を始めてしばらくした頃、片耳が聞こえなくなったことがありました。頑張るぞ、と思ってはいても、総務や人事の経験もなければ、これまでその業務をやってきた先輩もいない。何をどうやったらいいのかが分からなくて、郵便の仕分けとか、トイレ掃除とか、目の前のできることをもがくようにやるしかなかったんです。
当たり前ですけど、それは高木が望む形ではなくて、彼からは「組織をデザインすることを意識してほしい」と言われたんです。でも、世間一般的にバックオフィスの印象があるコーポレート部門が、攻めに転じるイメージもなかった。「要は会社のことをやればいいんでしょ?」という感覚でいたら、やることがどんどん地味になっていったんですよね。
ゴミ箱を交換するためにNEWPEACEに入ったわけじゃないですし、この先の自分の働き方に明るい未来が見えなくて、悩みながら働いていたらある日突然、片耳が聞こえなくなった。まずいなあとも思ったし、誰にも言っていないですけど、「今の仕事だったらNEWPEACEにこだわる意味もないし、ほかの会社もアリだなあ」と考えてしまって、その当時は「辞める」という選択肢も頭の中に浮かんでいました。
ースランプから突破口を開いたのは、どういったきっかけがあったのでしょうか?
コーポレートチームを兼務していたCOOの村上と話し合って、「前例のない部署だから、まずはやりきるしかないよね」という話になったんです。それから「コーポレート・グロースハック」と銘打って、社内に関わるあらゆるカイゼンを100個やりきってみることになった。「ドア100個直すの?」という気持ちもあったんですけど(笑)、積み上げていけば、何かが変わるはずだよね、と。
僕は6歳から大学までずっとテニスをやっていて、いわゆるスポ根的なところがあります。やることが一度明確になれば、それをストイックにやりきるのは得意な方ですし、今回も、悩むのは後にしてまずは100個やりきろうと思いました。その一方、もしもこれをやりきって、それでも景色が変わらなかったら、その時は居場所はないなと思いました。
デスク周りのコンセント整備、配線処理、軽食/ドリンクの常備(デロンギの導入)、セキュリティ強化(金庫/各種鍵の管理)、オフィスに時計を設置、社内BGM導入、共有PCのセットアップなど、思いつく限りのカイゼンを実施していきました。
結果的に、インターン生にも協力してもらいつつ、2カ月半で130個近いカイゼンを行いました。そこから、組織の風向きが変わったんです。今までは「染谷の仕事だし、勝手にやっているんだろうなあ」とどこか他人事のように見られていた気がしたんですけど、130個のビフォア・アフターをリストにした頃から、「冷蔵庫にアイス入れておきました」とか「ゴミ散らかしっぱなしになってるのよくないぞ」とか、これまで僕がやってきたことを周りがやるようになってきた。見ていた人たちが参加するようになったっていうのが、結構大きいんです。
こうしてコーポレートチームに移っても認められて、価値を発揮できたことが、僕のなかでのブレイクスルー・ポイントになっていたのだと思います。そこからは、このメンバーのために何ができるかを積極的に、自信持って動けるようになり、今に至っています。
リモート時代にコミュニティを活性させるには?
ーリモート勤務者が増えてくると、社員によるコミュニティを活性化させるのは難しいようにも感じます。
緊急事態宣言のタイミングもあって、NEWPEACEも4月に全員で実施するはずだった合宿がなくなったり、ミーティングもリアルでは集まらなくなったりと、大きな変化がありました。とくに合宿は、本来は30人弱のメンバーを丸2日間拘束するプログラムが組まれていたので、簡単にリモートには切り替えられないです。
また、合宿のような場所で意外と肝心なのは、懇親会だったりします。まだ規模が小さかった頃のNEWPEACEは、少人数だからこそ気軽にみんなで飲みに行けましたが、今はそうはいかない。お互いへの理解を深める時間をどうやって作ろう? と考えていたときに、月末に行う締め会のケータリングを友人に頼んだけど、外出自粛要請があってキャンセルしなきゃいけないアクシデントが発生した。
注文のキャンセルも迷惑をかけてしまうと悩んでいたときに、社員の家に配れば良いんじゃないかというアイデアが閃いたんです。配ることで食材もロスしないし、友人も困らない、しかも社員全員で同じ料理を食べられる。結果的に、社員の住所を聞いて、Googleマップで最適なルートを割り出し、Slackで実況中継しながら実際に都内を走り回る企画になりました。
離れていてもみんなで同じ料理を食べると、一体感が生まれてくるし、配達を実況中継していると、みんなのテンションがどんどん上がる。「食」はコミュニティの結束を高める上で欠かせないコンテンツになると思いました。
現在は「Vision Meeting」と呼ばれる月一回の全社会議と、「Mix Wednesday」という自然に集まれる日を毎週水曜に設定しています。ただ、家や近所のカフェだって仕事はできる時代で、何も用がないのにわざわざオフィスに行こうとは思わないかもしれない。そこで、出社した人でちょっと贅沢なランチに出かけるとか、人数が多ければケータリングを用意するとか、「出社すればみんなに会える」という機会を、意図的にデザインするようにしています。数少なくなっていくメンバー間のタッチポイントを、無駄にはできないです。
攻めのコーポレート「カルチャー&コミュニティ」誕生
ーコーポレートチームは2020年10月に「カルチャー&コミュニティ」という新組織に変更されました。染谷さんの仕事も変わりましたか?
この部署の目的が大切なんですけど、「カルチャー&コミュニティ」は、NEWPEACEのカルチャーを醸成することと、NEWPEACEメンバーによるコミュニティをより良い場に活性させていくことに重点を置かれています。
NEWPEACEには、企業ビジョン「多様性が爆発する社会をつくる。」を実現するために定められた3つの行動指針「NEWPEACE WAY」があります。この中には、「Always family - 健やかなる時も病める時も、味方であり続ける ※」という考え方があるんです。
※Always family
自らの価値観をさらけ出すことや変化することは、リスクテイクであり、時に苦痛を伴います。そのような挑戦型の組織において、お互いに守り、支え合うことが自然とできる、心理的安全性の高い家族のような集団であることをみんなでつくります。
Always familyを実践するためには、カルチャーの醸成とコミュニティの活性が不可欠です。
たとえばバックオフィスの仕事には、「トイレが汚れていたら掃除する」「法的な手続きを代行する」といった受動的に社員の要望を満たす「サポート」の側面と、能動的に会社に働きかけ、コミュニティの活性を促進させる「サクセス」の側面があります。「カルチャー&コミュニティ」は、後者の仕事を推進していく部署であり、僕の仕事も、今後さらにそちらにウエイトを置いていくことになります。
ドアの修理に対して「染谷がいて助かった、ありがとう」という気持ちは生まれても、「もっと私もこの組織に貢献したい」という想いまでには至らないと思うんです。これからはメンバーが貢献したくなる組織を作るにはどうするかをもっと深刻に考えなきゃいけないし、それにつながるように「サクセス」の業務の設計を意識しています。
以下の事例のように、福利厚生の側面から会社のカルチャーを表現する施策も、実践しました。
・Family Lunch
月1回、みんなでお昼を食べる会。ケータリングではなく料理当番を持ち回りにしていて、担当する人がメニューを考えています。好きな食べ物や、郷土料理、家族との思い出がつまった料理などを選んで、そのエピソードを共有してもらうことで、リラックスした雰囲気で自然とコミュニケーションを取る機会をつくっています。
・NEWPEACE esa(Wiki)
オフィスに関する業務全般をやっていると、オフィスに一番詳しいのが僕になっていきます。最初はそれで良いんですが、ちょっとしたわからないことも全て尋ねられると、僕の業務が進まない。僕の頭の中にある情報を誰でも見られるところに保存しておく必要があるなということになり、派生するプロジェクトとしてWiki制作がスタートしました。今では全社会議の資料などもesa(情報アーカイブツール)で作成する文化になりました。
・6curryのやさしさ
NEWPEACEから分社化した6curryというコミュニティ運営型の会員制カレーショップがあるんですが、いわゆる社員食堂のようにNEWPEACEメンバーが使えるようになりました。不定期ではあるんですが、社員用に分けてカレーを用意してくれて、ランチ時に自分たちで温める。注文記録を示し、お金を専用貯金箱に入れる。オフィスグリコならぬ、オフィス6curryです。僕は最初の投げかけだけやっていて、ネーミングや運営方法などは6curryメンバーの協力で実現しました。気がつけば、これも立派な福利厚生です。
ーそもそも「カルチャー&コミュニティ」という考え方自体、これまでの株式会社にはなかった概念ですよね。
名称自体は新しいですし、人に説明するのも難しい部署ですが、たとえば民泊サイトの「Airbnb」には「グラウンドコントロール」と呼ばれる部署があって、この人たちは徹底的に社員の幸せを目指した体験作りを考えているんです。GoodpatchにもPeople Experienceチームがあり、ビジョンやミッションを達成するために強いカルチャー作りを行っている。先進的な企業においてはこうした概念がすでに存在しており、実装しているので、それをNEWPEACEにどのようにインストールして、僕が実践していけるかを考えています。
NEWPEACEは、社員それぞれの「Why(どうしてそれをやりたいか)」をとても大切にしている会社です。全社会議では社員一人ひとりが自分のWhyについて発表する時間があって、最近はそれぞれのWhyの解像度が上がって、すごいシャープになってきている。社会課題に対して強い当事者意識を持っていて、それを解決するために、まさに一人ひとりがビジョニングをしています。
(※)ビジョニングとは
ミッションやパーパスなど企業の“社会的意志”を体現したアクション。それらを一貫性を持って展開することでブランドは創られていく、という新たなブランディング手法。アクションとは、事業開発から組織変革、広告やPR/IRなど全ての企業活動を指しており、様々なイシューに立ち向かう中で自社の社会的意志を反映させることで、VUCA/SNS時代にブランドを形成していく。
でも、ビジョニングをしていく行為って、摩擦も生むし、孤独だし、不安に苛まれる瞬間が多いんですよ。あまりにもいろんな壁が高い中で、「でも自分はこの問題を解決したい」と思ったとき、不安になったり、無力感に駆られたりします。
そういうときに、NEWPEACEにいることでひとりにならず、不安を取り除けたり、安心を得られたりするようにしたい。そうした居場所を作ることが僕自身のビジョニングであるし、メンバーがビジョニングカンパニーNEWPEACEに所属する意味や価値を見出してくれるポイントになるかなと思っています。
リモート勤務が増えたときに生まれる「なんでこの会社で働いているんだっけ?」という疑問。その答えを会社として用意してあげないと、個々のモチベーションを保つのは難しい時代です。NEWPEACEメンバーを力強く支える「カルチャー&コミュニティ」染谷の話が、これからの企業のあり方についてのヒントとなれば幸いです。