企業人事が抱える女性活躍のお悩み3選を23卒内定者が考察してみた!vol.3
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お悩み③ 多様な人財を輝かせるために具体的にどうしたらいいのかわからない
今回は、多様な人材を輝かせるための具体的な施策として、男性育休の取得推進を例に考えていきます。これまで女性活躍の話をしてきたのに突然男性の育休取得の話になって困惑されている方もいるかもしれません。ですが、女性活躍とは「女性のみの活躍を推進する」ことが目的なのではなく、手段の一つにすぎませんよね。「女性の活躍推進を一つの手段として推進することで、結果的に多様な人財が働きやすい環境を整えて人財確保につなげる、社内でイノベーションを起こすきっかけを生む」ことが大きな目的です。そこで、誰もが働きやすい環境づくりといった大きな目的おいても、その目的達成のための女性の活躍推進という手段においても、女性以外の多様な人財の活躍推進に目を向けることは必要不可欠です。「働く全ての人」が働きやすい環境が整備されれば、女性社員にとっても働きやすい環境になるのではないか、と考えています。
まずは、男性の育休取得率の現状から確認しておきましょう。男性の育休取得率は女性と比較して低く、2020年の厚生労働省の調査結果では女性の取得率は81.6%、男性は12.65%と大きく差があります[1]。世の中の男性は育休を取得したいと思っていないのでしょうか。パーソルキャリアが実施した調査では、将来子どもができた場合に育休を取得したいかを男性社員に聞いたところ、「取得したい」と回答した20歳〜24歳は84.6%、25歳〜39歳は80.1%という結果が出ています[2]。これから子育てを迎える現役世代の男性の8割以上に取得希望があるなんて、結構多いですよね。
なぜ男性の育休取得希望者の割合が高いにも関わらず実際の取得率が低いのか、なぜ男性育休の取得推進が難しいのか。その要因を職場の雰囲気とロールモデルの不在の2点に分けて考えてみます。
要因① 職場への遠慮や雰囲気
内閣府の調査によると、男性が1ヶ月以上の育休を取得しない理由は、42.3%が「職場に迷惑をかけてしまうため」で最多でした。その次に収入の減少、職場の雰囲気、評価への影響の不安の順で挙げられました[3]。職場に迷惑をかけてしまう、という不安の裏側には、育休を取得する人が自分の職場では男女共に少数派で、自分が取得して迷惑をかけてしまうのが不安、だとか、業務が忙しすぎて有給すら取れないのに育休で長期間休んでしまったら迷惑だろうな、といった感情があるのではないでしょうか。取得しない理由の3、4位に挙げられた職場の雰囲気と評価への影響の不安も、育休を取得することによる職場からの自己評価を気にしている、他人からどうみられるかを気にしている傾向の表れでしょう。
ではなぜ、育休取得を希望する男性の多くは職場への遠慮や職場の雰囲気で育休取得を諦めているのでしょうか。それは、日本独特の働き方にあると考えます。もちろん業種によりますが、日本の働き方はチームみんなで協力しあって一つの仕事をこなす場合が多いです。この場合、社員一人一人の職務範囲は限定されておらず、誰か一人が休むとその穴埋めは同じチームの他のメンバーがする場合がほとんどです。自分が休むことで他のチームメンバーに迷惑をかけてしまって気が引ける、という方は多くいるでしょう。
育休取得経験がない、経験者が周囲にいない人は、有給の取得に置き換えて考えてみるとわかりやすいかもしれません。日本は有休消化率が低い国としても有名です。有給を取得しにくい雰囲気は、自己都合で休んで職場に迷惑をかけてはいけない、という日本の労働者に多くある思い込みからきているのではないでしょうか。実際に私の父も、有給を取得する時は申し訳なさそうにしており、息苦しそうだな、と感じます。
対処法① 「お互い様」精神の醸成
男性の育休取得を阻む要因となっている職場の雰囲気。変えるためには「お互い様」精神を職場で育むことが重要だと考えます。育休の取得に限らず、介護や病気の療養、余暇時間を楽しむために仕事を休むことは労働者の権利として保障されています。本来は組織内の誰かが突然休んでしまっても業務が回せるくらいの余裕を持って組織編成をすべき、ですが、すぐに変えることは難しいですよね。
そこで、働く一人一人の意識を変えるのが効果的です。まずは管理職などの上司が仕事を休むことに対して悪いイメージを持つのではなく良いイメージを持ち、積極的に有給を取得してみる。有給の取得が難しければ、まずはきっちり定時で退社する、業務が少ない日は少し早めに仕事を切り上げて帰宅し、自己研鑽や余暇の時間を作る、などできる範囲から始めてみるのはいかがでしょうか。自分を大切にすることは相手を大切にすることにもつながります。人は自分に余裕がない時は自分のことだけに必死になって、周囲で困っている人の声や様子に盲目的になりがちです。誰だって突然休まないといけない状況になるかもしれないし、そのきっかけがそれぞれ違うだけです。育休だからだめ、ではなく、お互いに必要があれば仕事を休んで自分時間、家族との時間を作ることが必要だから「お互い様」だね、と言い合えるような雰囲気作りをしていくことが求められています。
要因② ロールモデルの不在
日本で育休を取得する男性はまだまだ少数派です。あなたの職場の男性で育休取得経験者は身の回りにいますか?まだまだ少ない現状があるのではないでしょうか。職場で誰もしたことがない新しいことをする時は誰でも勇気が要りますよね。男性育休も同じです。初めて何かをする人、それに追随していく人、少数派のポジションにある人は、いつの時代でも心細く感じるものです。もちろん育休はタイミングがあるため、一気にロールモデルを増やすことは難しいですが、そのタイミングがきた時に育休取得を希望する人を応援できるような組織になれば、ロールモデルは徐々に増えていくと思います。
対処法② 育休取得へのポジティブイメージの拡大
育休取得をキャリアアップのためには不利なこと、だとネガティブに捉えるのではなく、制度や環境を整えることを通じて、育休取得をポジティブに考えられる人を増やすことが効果的だと考えます。具体的な方法として、育休取得中のメンバーのサポート、復職後の評価制度の見直し、育休取得の積極的な奨励、育休・育児を通して得られる経験と学びの再現性の評価があると考えます。
女性の育休でも同じことが言えますが、長期間仕事を休むと復職時に浦島太郎状態になってしまい、職場復帰する際に不安な気持ちになる人も多くいると思います。それを防ぐために、育休中も本人の無理のない範囲で組織の状況や新たに変わった点など、組織環境について共有をしてみると円滑な職場復帰に繋がると考えます。
男性で育休を取得する人はまだまだ少数派だと考えられがちなので、育休復帰後の評価に悪影響がないか、なども気になるポイントです。育休を取得しているのは女性の方が比較的多いため、まずは女性の育休取得経験者の復職後の評価を再検討してみるのも重要だと思います。女性の場合は特に、育休取得後はマミートラックに乗せられてなかなか昇進できないということもよく言われます。女性の育休取得後の働き方、評価を見直すことで男性の育休取得希望者の不安感の削減に繋がるかもしれません。それに合わせて、評価方法を変える、働き方に柔軟性を持たせる、なども手段の一つとしてありそうです。
メンバーや同僚に対して積極的に育休取得の話題について話してみるのも効果的でしょう。ロールモデルが不在の場合はそもそも育休が取得できることを知らない場合もあります。せっかく制度があるなら使ってもらわないともったいない!という前向きな気持ちで制度の普及と取得の奨励をすることで、育休取得について知り、取得を検討するきっかけになると考えます。
少し視点を変えて、男性が育休を取得して育児に積極的に参加することによるメリットも考えてみたいと思います。子育ては、言葉の通じない子どもを相手に24時間休みなく続きます。子どもが何を求めているのか常に想像して行動するしかありません。子どもの相手をしながら家事をして、自分自身の生活もしなければなりません。子育てを経験することで、相手が何を求めているのか考えて行動する力やマルチタスク能力がつき、仕事にも活かすことができます。育児で得られる能力は、再現性が高く、復職後のスキルアップにもつながる貴重な経験となります。
このように育休取得へのポジティブイメージを向上させることで男性育休取得者のロールモデルが増え、育休を取得しやすい環境へと変わっていくと考えます。
これまで見てきたように、企業人事が女性活躍を推進する上で抱えるお悩みの裏には、女性だけではなく会社全体の問題も隠されています。例えば管理職比率が増えないお悩みの要因である人事評価制度とワークライフバランスの問題は働く多くの人が関心を持つ問題ですよね。女性活躍を考えることは、会社全体の、「働く全ての人」の働き方を考えることにつながります。女性活躍を女性のためだけだからインパクトは少ないだろう、と消極的に考えるのではなく、会社全体のための投資だと思って前向きに取り組むきっかけにこの記事がなれば嬉しいです。
【文章全体を通しての参考文献】
濱口桂一郎(2015)『働く女子の運命』文春新書
[1] 厚生労働省(2021)『「令和2年度雇用均等基本調査」結果を公表します 〜女性の管理職割合や育児休業取得率などに関する状況の公表〜』
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r02/07.pdf(2022年8月23日閲覧)
[2] パーソルキャリア(2021)『男性育休に関する意識調査第1弾 将来育休を取得したいと回答した男性は80.0%
子どものいる男性で育休を取得したことがある人は15.4% 取得しなかった理由の最多は「男性が育児休暇を取得するという考えがなかった」』
https://www.persol-career.co.jp/pressroom/news/research/2021/20211119_02/(閲覧2022年8月25日)
[3] 内閣府(2021)「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」
https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/pdf/result3_covid.pdf (2022年8月28日閲覧)
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