旅先10kmラン 函館市
家族旅行で訪れた函館。
異国情緒を感じる街並みとおいしい海産物。
そしてイザベラ・バードが北海道探訪の拠点として逗留した街。
北海道を訪れるのであれば、だれもが訪れるべき場所…なのでしょうが、北海道来訪4回目(?)をもって初めての函館観光を果たした僕。
別に避けていたわけではなく、ただただ観光の機会を逸していただけなのですが…せっかくなので函館の街を満喫するべく、旅先ランを敢行した次第です。
①函館競馬場
今回宿泊したホテルは函館競馬場の真向かいのビジネスホテル。
観光で利用している人も多いようで、中国人や韓国人と思わしき方々もチラホラ見受けられました。
今回は旅程の都合上、朝の6時にはホテルに戻らなければならず、想定走行距離から逆算すれば4時にはホテルを出る必要がありました。
というわけで朝の3時に起床し、入念に準備を始めたわけです。
とにかく時間をかけたのはトイレ。
ランの途中でトイレを探して彷徨うのだけは嫌なので、30分くらいトイレに立て籠もり、旅行先での暴飲暴食の”つけ”を払うことに専念しました。
…汚い話題で申し訳ありません。
日の出の早い北海道とはいえ、朝4時はさすがに深夜と変わらぬ状態。今回はライトや反射板の備えを怠ってしまい、少々装備に不安を感じましたが、まぁ何とかなるだろうと気楽にスタートしました。
②陸上自衛隊函館駐屯地
いざ走ってみると、とにかく走りやすいことに気付かされます。
歩道は殆ど凹凸がなく、意識せずともペースが上がっていくのを感じます。
凸凹だらけで坂道の多い、地元の走路とはかなりの違いを感じました。
朝の4時という事もあり、通行人はほとんど居ません。
快適な気分で走り続けると、大きな看板に行き当たりました。
「陸上自衛隊函館駐屯地 第28普通科連隊」
ライトアップされたその看板は、待ち明かりの少ない中でかなりの威容を誇っていました。
思えば冷戦当時、北海道は東側の国々に対する最前基地だったわけで…有事の際には戦場になることを避けられない土地柄なんだなぁと、改めて実感した次第。
冷戦は終わっても、世界では国家間の新たな対立構図が生まれ、ふたたび北海道は緊張の境界線上にあることを思い起こしました。
「戦争はまだ終わってない…ていうか」
不謹慎だとは思いますが電気グルーブの「地獄へ堕ちろ電気グルーヴ」が脳内再生されてしまいました。
③カックウ
海沿いの道に差し掛かる交差点で巨大な看板に行き当たりました。
「世界遺産のある街 函館」
北海道・北東北の縄文遺跡群が世界遺産登録されたのは2021年。
「カックウ」こと縄文後期の中空土偶の写真が添えられています。
ジャガイモ畑から偶然掘り起こされたという、なんとも北海道らしさを感じさせる「カックウ」ですが、迷書「土偶を読む」では栗の精霊を顕した土偶と紹介され、個人的には愛着を持っていた土偶です。
反証本「土偶を読むを読む」でその説を真っ向否定され、その後「カックウ」の顔を見るために複雑な想いが滲むようになったのですが…。
発掘場所が函館市内という事もあり、函館は「カックウ」を静かに推しているようで、街のいたるところでこの顔が出現するようになりました。
五稜郭タワーで、土方歳三のコスチュームでキャラ化された「カックウ」を見た時、「土偶はゆるキャラ」と謳っていた「土偶を読む」も、なかなかどうして的を得ていたのではないか…と、そんな思いに駆られてみたり。
④石川啄木小公園
大森海岸沿いの道路を走ると石川啄木の像が目につきました。
ここは石川啄木の散歩道として親しまれた場所とのこと。
大川海岸の向こうに見える函館山の灯りを頼りに、昼間の光景を想像してみました。
…過度に複雑でなく、またシンプル過ぎない地形。
…人の営みの温かさと自然の厳しさとを共に感じさせる風景。
石川啄木が生きた時代において、おそらくこの地は日本を感じさせるギリギリのラインだったのではないかと思います。
彼がそんな感慨を抱いていたかどうかは知らないけれども、北の厳しい潮風に吹かれながら思索にふける石川啄木の姿を想像すると、なんとなくそんな思いが頭によぎりました。
⑤名もない交差点
道を見失いました。
町中に入った途端、道案内のグーグルマップがバグり始めたのです。
いや…マップの表示を正しく理解していない僕の方にこそ問題があるわけで、マップは悪くない…はず。
目的地は北海道最古の神社「船魂神社」。
その前に「聖ハリストス教会」と「旧英国領事館」に立ち寄るルートなのですが、目的地に近づくにつれて細かく曲がり角を指定してくるので、すぐに道を見失ってしまいます。
とりあえず、少しずつ迫ってきた函館山の稜線を頼りに進路をとることにしました。
迷ったときは視界を広くもつ。
まぁ、何とかなるでしょう。
⑥セイコーマート
函館山を目指しながら走ると、大学生と思われる2人組の男子が、自転車で静かに僕を追い抜いていきました。
抜かれることに抵抗感のある僕ですが、自転車相手に青筋を立てるおじさんというのも如何なものかと思いなおし、呼吸を整えて走ることに集中!…と思ったら、思いっきり僕の興味を引く看板が目の前に現れました。
北海道を中心に営業するローカルコンビニの雄「セイコーマート」。
お酒の取り扱いに定評があり、学生時代に本当にお世話になった、思い入れのあるコンビニです。
あれ…お店開いてないよ?
看板を見直すと「24」の文字が…ある。
24時間営業ということだよなぁ…と思って近づいてみると、看板には「6時から24時まで」という表記が…。
24の部分だけむやみにでかいのは、きっと何か事情があってのことなのだろうと、優しい気持ちで通り過ぎることにしました。
とはいえ、6時開店では立ち寄ることはかなわないなぁ…と少しだけ淋しい気持ちにはなりました。
⑦坂
そうこうしている内に函館山の麓に到着しました。
目の前に現れる坂に胸が高鳴るのを感じます。
函館の街は平坦で走りやすかったのですが、あまりにも平ら過ぎて物足りなさを感じていたところ。
一歩ごとに足に負荷がかかる。
脹脛がちょっと喜んでいる。
気落ちが高ぶり、呼吸が荒くなる。
一気に坂を駆け上がると、セイコーマートの近くで僕を追い抜いて行った、男子二人組が坂の上で座り込んでいました。
どうやら日の出を待っているようでした。
振り向くと函館の街をバックに深い紺色と茜色のグラデーションが広がっています。
この景色を二人だけで共有…とか、ちょっと青臭くていいなぁ。
邪魔しないように、早々に立ち去ろう。
⑧旧英国総領事館~聖ハリストス教会
Google先生を頼りに坂を上り下りしていると、ようやく第1目的地の「旧英国総領事館」にたどり着きました。
函館の一等地に建てられた領事館は、今でこそ小ぶりな印象を受けますが、なかなかお瀟洒な佇まいに、在りし日の英国の品格を感じてみたり。
それにしても、この辺の石畳は本当に見事。
坂道と石畳…なぜかイスタンブールを思い出しましたが、イスタンブールはここまで美化に気を配ってなかったなぁ…と、そんなことを考えていたら、石畳につまずいてしまいました。
転倒は免れましたが、ヒヤッとしました…。
石畳の街を走り続けると、程なく第2の目的地「聖ハリストス教会」にたどり着きました。
ハリストス教会の近くには、大きめのカトリック教会もあり、界隈では日本離れした風景が広がっています。
函館には教会だけではなく、大規模なお寺も散見されます。
様々な宗教組織が函館という街をいかに重要視していたのかが伺えました。
「函館信心大戦」
…という不謹慎なコピーが思いつきましたが、そっと胸にしまうことにしました。
⑨船魂神社
源義経が平泉から逃れて蝦夷地に落ち延び、そこでアイヌの神となった…と言ったら、ほとんどの人が鼻で笑うか、僕の正気を疑うかもしれません。「源義経は成吉思汗也」
…というトンデモ話は割と有名ですが、義経が北海道で神様として祀られているという事実を知っている人はあまりいないようです。
いつから義経が北海道で祀られ始めたのか、詳しい時期は定かではありませんが、少なくとも江戸時代には義経信仰が持ち込まれた形跡があるのだとか。
目的地として訪れたここ「船魂神社」にも義経伝説が残っています。
内地からの移民によって、豊漁や開運祈願などを祈願して建立されたこの神社。
北海道最古の神社とされているこの地で、義経の北海道上陸時の伝説がの残っているところを見ると、やはり函館が義経信仰の発信地点だったのだろうなと想像してみたり。
⑩GOALS
目的地全てを回ったところで約8km。
10kmには少し距離が足りません。
もう少し走ってみることにしました。
とはいえ6時にはホテルに戻らなければならないので、来た道を全力で戻るしかないのですが…。
とりあえず10kmいったところで記録を取って、一区切りとしようと考えていたら、「GOALS」の文字が…。
海沿いにある小学校がSDGsへの取り組みをしているようで、校門には「17のゴール」のアイコンが掲げられていました。
ここで10km到達…だったら面白いよな…と思いながら通り過ぎたわけですが、100メートルもしないうちに、スマホのアプリから
「10キロ地点到達」
の音声案内が…。
写真撮っておけばよかった…と後悔しても時すでに遅く、来た道を戻る余裕もなく…。
小ネタを取りこぼした自分に軽く絶望したところで、函館のランは終了となりました。