存在しているはずなのに科学的に観測できないもの
今回は、“この世に存在するものは科学的に証明されたものだけ”なのか、それとも“科学で証明できてないものが数多く存在する”のか、この命題について紐解いていきます。瞑想とは自己の内面に意識を向け自我を消し去り外界と融合し、全てを知る超自我へと昇華していく方法であることは多くの瞑想法で共通しています。今回もこの世界の“真理”について知り、考え、想像し、瞑想していきましょう。
・惑星の軌道の法則を導いたケプラー
我々の住む地球と太陽系について考えてみると、ご存知のように太陽を中心に水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星というように天体が公転しています。この公転周期(太陽の周囲を回転する周期)には一定の法則があり、ケプラーの法則として知られています(*1)。
ケプラーの第1法則(楕円軌道の法則)、第2法則(面積速度一定の法則)、第3法則(惑星の公転周期の2乗は軌道長半径の3乗に比例する)というこれらの法則で太陽系惑星の動きに関して大きく理解が前進しました。この法則がケプラーによって世に公表されたのは1609年(*2)と今から400年以上前のことであり、その当時の貴重な文献の一部分を図1に引用します。日本では江戸時代初期の頃から宇宙に対する探究がここまで進んでいたことには驚かされます。
・太陽系の惑星の公転周期と法則
これらの法則も応用することによって太陽系の惑星・準惑星の軌道や周期はほぼ正確に観測することができるようになりました。実際に公転周期を計測すると、地球が1回公転する時間(地球の1年)の間に各惑星がどのくらい移動するのかを図2に示します。地球の1年の間に水星は約4.2周、金星は約1.6周、火星は約0.5周、木星は30度(1/12周)、土星は12度(1/30周)、天王星は4度(1/90周)、海王星は2度(1/180周)、冥王星は1.5度(1/240周)移動します(図2)。この図を見て分かることは、“内側の惑星ほど角(公転)速度が速く、外側の惑星ほど角速度が遅い”という法則が見えてきます。
これは惑星に対して外向きに働く力(遠心力)と惑星に対して内向きに働く力(重力/引力)が釣り合うためのバランスを取るためと言えます。水星のように太陽に近いと重力(距離の2乗に反比例)の影響を強く受けるため、速く公転しないと遠心力が釣り合わず、反対に海王星や冥王星のような外側の天体は太陽からの重力が弱いので公転速度が速すぎると太陽系外に飛び出してしまいます。
このように、各天体の質量/重力や位置関係が分かると公転周期を求めることができ、逆に公転周期や軌道の天体の質量から中心部分(コア)の質量や重力を求めることが可能になります。
・かみのけ座銀河団の質量を計算したスイスの科学者
時は1900年代に変わり、スイスのツヴィッキー(Fritz Zwicky)博士という天文学者がいて、この博士は大質量の星が起こす爆発“超新星(Supernova)*4”の研究の第一人者でした。この天文学者は研究の一環で“かみのけ座銀河団(Coma Cluster)”という銀河の集団について研究していました。各銀河の光度や運動を観測し、銀河団の質量を求めようというものです(*5)。
かみのけ座銀河団(*6)について図3に観測画像を示していますが、図3左は1937年のZwicky氏による観測図で図3右は現代の観測データに加工を施して得られた画像です。注意して頂きたいのは、この点や光の粒の一つ一つが星ではなく銀河であることです。観測している銀河団は3.2億光年離れた位置に存在しているため撮影範囲も膨大な広さになります。この点一個が直径10万光年ある我々の天の川銀河と同クラスであることを想像し、如何に広大な領域を観測しているかを認識してください。
この時期にはある程度計測方法も確立してきていて、その天体の明るさ(光度)から“太陽の何個分”というように質量を求める方法(*7)(太陽系惑星全て足しても太陽の1/1000程度というように銀河の質量はほぼ恒星の数で概算できる)が知られていました。また、ツヴィッキー氏も使用した運動力学的に解を導出するビリアル定理(*8)といった手法も確立されていました。
・計算したら衝撃的な結果だった
ツヴィッキー氏は当時の観測データから、各銀河の直径、中心点からの距離と回転速度、運動エネルギー、重力定数、銀河団の中心と辺縁の運動、3次元的回転モデル、ポテンシャルエネルギーなど、当時判明しているあらゆる要素を漏らさずにチェックして計算結果を導きました。図4にその計算過程の一部を示しますが、実際の研究論文では30以上の方程式を用いて解を導き出しています。興味のある人は式を紐解いても良いと思いますが、結論だけで良いという人は図4下の赤枠にのみ注目してください。
これらの計算の結果、予想を覆す答えが出てしまいました。図4赤枠に示す通り、かみのけ座銀河団全体の質量を各銀河の光度から算出すると「太陽質量の8.5×10^7倍」となるのに対し、運動力学的な計算法(回転速度や重力から質量を求める方法)では「太陽質量の4.5×10^10倍=4500×10^7倍」と全く異なる結果が出てしまったのです。
その差は実に500倍以上(!)。もちろんツヴィッキー氏は天文学者であり何度も過程を検証した上での計算結果であり、“超新星”といった大質量天体の専門家でもあったのでそういった存在も全て計算のうちに入っていたはずです。しかし、銀河の運動からするとこれだけの銀河団が高速運動しても離散させずに引きつけている“巨大な重力”が存在していると考えざるを得ません。しかし当時の高精度の望遠鏡でも光学的には巨大質量の原因となるものは全く観測されません。このときこの“何か正体の分からない質量や重力の原因”を“ダークマター(暗黒物質)”と呼びました。
・見えない“何か”をさらに裏付ける研究
その後の1970年、ヴェラ・ルービン博士(*9)というアメリカの女性天文学者がアンドロメダ銀河に関する奇妙な研究データを発表します。アンドロメダ銀河(*10)は地球から約250万光年離れたところにありますが、夜空の視界が良ければ肉眼でも見える銀河です。直径は約22万光年で我々の天の川銀河(直径約10万光年)からすると直径が2倍以上ある巨大な銀河です。
ルービン氏はこのアンドロメダ銀河を観測し、その回転速度と質量を導きました(*11)。すると、またもや予想と異なる結果が出てきました。図2の太陽系の公転速度一覧に示した通り、通常ならば“内側の天体ほど速く公転し、外側の天体ほど遅く公転する”はずです。ところが、ルービン氏らの観測データでは図6左に示すように、“アンドロメダ銀河の外側部分の星々も内側の星々と大きく変わらない速度で公転している”という結果が得られたのです。
さらに、“運動から計算される銀河の質量”/“光度から計算される銀河の質量”の比を求めたところ、やはり“運動力学的な質量”が“光学的な質量”よりも10倍以上大きいという結果が出ました(図6右表赤枠)。先のツヴィッキー氏の研究結果と同様に、このルービン氏の研究からも「銀河が高速回転しても星を引きつけておける大きな重力を持つ何か」が存在していることが示唆されました(図7)。
・重力の正体はブラックホールでもなかった
近年では2019年に日本の研究チームが謎の質量の正体について“微小な原始ブラックホール”である可能性を検証していましたが、この説も“ブラックホールの可能性は否定的である”という結論に至っているようです(*12)。結果としては“観測されたブラックホールの数が想定するよりも非常に少なかった”ということと、“観測されたブラックホールでは謎の質量の0.1%程度にしかならない”という内容でした。
・どこにも見当たらない
一定の範囲を超えて大きな質量を持つ星は内部の核融合反応によって太陽のような自ら光を放射する「恒星」になります(*13)。これら太陽のような恒星に比べると地球や木星といった惑星の質量は微々たるものであり、「恒星の質量の総和が推測できればその(見えている)天体の質量の総和を推測できる」という考えで間違っていません。
そして恒星は可視光線、赤外線、紫外線、ガンマ線といった何らかの電磁波を常に放射しています。なので、そのような天体があれば何十億光年先のあらゆる波長の電磁波をも検知できる大型の天体望遠鏡で何らかの信号をキャッチすることが出来るはずです。しかし奇妙なことに天体望遠鏡や人工衛星でもそのような天体や物質は未だ観測できていません。
・正体不明の物質(?):ダークマター
このように“全く見えず視覚的に捉えることが出来ない”という観点からこの正体不明の質量は“ダークマター(暗黒物質:dark matter)”と呼ばれています。“ダーク/暗黒”と言っても善悪の概念ではなく“見えない/正体不明”という意味でこう呼ばれています。正体不明の巨大質量というとブラックホールも頭に浮かびますが、先述の通りブラックホールのような空間を歪めるほどの大質量の可能性は今のところ否定的です。
“見えない”ということは“光を発しない/光を反射しない/光を遮らない”、つまり“光や電磁波と相互作用しない”という性質を意味しています。しかしながら、“銀河の運動を見ると質量が見かけの質量の10倍〜500倍ほど大きい”というこれまでの研究結果から“確実に何かが存在していることは間違いない”と言えます。もしかしたらアンドロメダ銀河も科学的に観測されている写真(図8左)ではなく、全てが見えたら実際の姿は図8右のような様々なものが写っているかもしれませんね。
・“見えているものが全て”と思わないこと
我々は普段目で見ているものを信じ、科学的に証明されたことを信じて生活しています。ただ、ツヴィッキー博士やルービン博士らが示したように、“確実に存在していそうなのに科学的に姿を捉えられないものがある”ということが“科学的に証明された”と言えます。もちろん常に“新たな発見”は“それまで科学的に証明されてなかったことの証明”の連続です。一流の科学者達にとっては誰かに「そんなこと科学的ではない」と言われても「だから何なのだ?だから探究するのだろう」と全く取り合わないでしょう。
我々が見ているアンドロメダ銀河は実際の1/10以下かもしれないし、かみのけ座銀河団も本当の姿の1/500しか見えてないかもしれません。もちろん、我々の住む日常の世界も同じことが言え、もし物質として知覚できない世界(形而上学的世界)が見えたとしたら全く違う光景かもしれません。普段我々が認知している世界が如何に狭い領域かを認識し、瞑想によって宇宙の真の姿を理解し真理に近づいていきましょう。
(著者:野宮琢磨)
野宮琢磨 医学博士, 瞑想・形而上学ガイド
Takuma Nomiya, MD, PhD, Meditation/Metaphysics Guide
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。
*1. ケプラーの法則−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ケプラーの法則
*2. Johannes Kepler, Astronomia nova (1609), pp. 165–167.
*3. Fritz Zwicky−Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Fritz_Zwicky
*4. 超新星−天文学辞典. https://astro-dic.jp/supernova/
*5. Zwicky F. ON THE MASSES OF NEBULAE AND OF CLUSTERS OF NEBULAE. The Astrophysical j. 86.3.p217, 1937
*6. かみのけ座銀河団−Wikipedia.
https://ja.wikipedia.org/wiki/かみのけ座銀河団
*7. Kuiper GP. The Empirical Mass-Luminosity Relation. The Astrophysical J, 88,p.472, 1938
*8. ビリアル定理−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ビリアル定理
*9. ヴェラ・ルービン−Wikipedia.
https://ja.wikipedia.org/wiki/ヴェラ・ルービン
*10. アンドロメダ銀河−Wikipedia.
https://ja.wikipedia.org/wiki/アンドロメダ銀河
*11. Rubin V and Ford WK Jr. ROTATION OF THE ANDROMEDA NEBULA FROM A SPECTROSCOPIC SURVEY OF EMISSION REGIONS*. The Astrophysical J, 159,p379, 1970
*12. Niikura H, et al. Microlensing constraints on primordial black holes with the Subaru/HSC Andromeda observation. Nature Astronomy 3, p524–534 (2019)
*13. 恒星−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/恒星
画像引用:
https://ja.wikipedia.org/wiki/かみのけ座銀河団#/media/ファイル:Ssc2007-10a1.jpg
https://ja.wikipedia.org/wiki/アンドロメダ銀河
https://cdn.britannica.com/05/94905-050-1830515C/Whirlpool-Galaxy-NGC-5195-Sc.jpg
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