【特集⑤】持ちつ持たれつの権力とメディア このままでは、このままでは…
プーチンは誰も信用しない
批判者排除の行く末は誇大妄想
3月下旬、ロシア当局がウォールストリートジャーナル(WSJ)紙の記者をスパイ容疑で逮捕した。ロシアの言うスパイ行為とは次のような記事を掲載することだろうか。
昨年12月23日付けのWSJ紙は「孤高のプーチン、猜疑心に囚われ、一握りの強硬派しか寄せ付けない」と題し、プーチンの「真実」に迫っている。昨秋、ウクライナ東部の小さな町、リマンを巡る攻防戦。前線にモスクワから極秘の電話が掛かってきた。プーチンだった。「絶対に退くな」。直々に命じたのである。プーチンは前線の将軍たちも信じない。だから自ら前線に命令を下すのだ。
プーチンの朝は、7時に手書きの戦況報告に目を通すことから始まる。プーチンはサイバー盗聴を恐れてネットを使わない。それだけで情報は数日遅れるが、情報は前線司令官からKGBの後身、FSS(連邦安全局)に上げられ、最強硬派で鳴る安全保障会議の議長を介して、プーチンに渡される。その間、手書きされる過程で「良いニュース」が強調され、「悪いニュース」は糖衣でくるまれる。「プーチンは自分がKGBのスパイだった昔、上官にウソの報告ばかり上げていたことを忘れたのか」。WSJ紙の皮肉は痛烈だ。