『ヒロヒト』(2018年〜新潮にて連載中)から解剖したい高橋源一郎ワールド
高橋源一郎さんと辻信一さんの『「雑」の思想』(2018年)を読み、高橋源一郎さんが雑誌「新潮」にて、日本近代の150年間を描くという壮大なスケールの作品『ヒロヒト』を連載しているという情報を得た。(『「雑」の思想』研究当時はまだ計画段階。)
早速、図書館に出かけ、地下書庫で「新潮」の2018年4月号を発掘する。
以下、第3回までのネタバレ含む感想兼高橋先生礼賛談:
エモい、エモすぎる。
滲み出る。著者の情熱なのか、殺気なのか、悲痛なのか、
自然を蔑ろにし、世界を単純化し、生物から生命力を奪っていく、だがそれでも僅かに残る破壊に抵抗する人々や自然の力への愛情、それらを寄せ集めた現代社会に対する著者の凄まじいエネルギーをみた、ような気がした。
昭和天皇(ヒロヒト)を物語の中心におき、粘菌研究繋がりで南方熊楠(ミナカタクマグス)も重要人物として登場する。著者的には、クマグスこそ、この作品の中で描きたい人物だろう。(と、『「雑」の思想』では熱く語っていた。)
明治時代〜昭和時代(=近代)の権化としてのヒロヒトと、反権力・エコロジー思想を貫く象徴としてのクマグスの対比。
連載第一回目で無邪気に植物について語らうプリンスではない「ただのヒロヒト」と、第三回で命令を下す機械的な「大元帥」としての陛下。
情緒溢れる人間ヒロヒトが、戦争の中で現人神・天皇へと変貌してしまった様子を、台詞による演出をたった少し変えるだけで表現してしまう、その才能に惚れた。
今ここにそのタネを書いてしまいたい!という思いもあるが、この衝撃は手にとって実感して欲しい。
メモ:
・異国の地に大集合する要人たち(事故後の福島原発、仏パリのカフェ)。
『恋する原発』でもみたことのある光景だな!実にコミカル。
・仁科教授が浅い夢の中で出会う「ショウキ」とそれを浄化する森について語る少女(ナウシカ)。仁科教授は、少女に「ショウキは放射線なのか」と問う。
・科学小説、立川賢『桑港けし飛ぶ』。その存在を初めて知ったが、かなり衝撃的。実物が読みたい…と思ったが、あいにくとウチの図書館にはその掲載雑誌「新青年」S19・7月号は、無いようだ。ぴぴしぇん。どうにかどこかで読めないものか、調べてみよう。
連載回が進むにつれ、文字と文字の合間に漂う、自然の力とそれに対抗しようとする人間の力、その衝突によって破壊される生命・モノの焼け焦げたニオイがだんだんと強くなってくる。
高橋源一郎ワールドが解剖できる超大作だ、2021年6月号で第二九回らしい。そこに追いつくまで、暫く図書館に通い詰めることになりそう。
5/21/21 Freitag あかつき冬辰丸
***写真は、地元から「お取り寄せ」したサンマの開き(の尻尾)。