「一人一社制」が悪ではない。高校生の就職に、もっと選択肢を。
高校生の就職活動における「一人一社制」とは、企業へのエントリー解禁日から、一人の生徒が応募できる企業を一社とする制度のことです。生徒が他の企業にエントリーできるのは、その一社から内定を得られなかった時のみ。
このようなルールは、都道府県ごとに学校関係者、経済団体関係者、行政(文科省・厚労省管轄)が毎年会議を行い決定しています。例年の高卒採用スケジュールは、おおよそ下記のとおりです。
新規高等学校卒業者の採用選考スケジュール
<7月1日> 求人解禁(学校に集まった求人票を見て、企業を選ぶ)
<7~8月> 職場見学(選考の前に1〜3社ほど、職場見学へ行く)
<9月5日> エントリー受付開始
<9月16日> 選考開始
上記にあるように、生徒たちは7月〜9月の2ヶ月という短い期間で就職先を決定しなくてはなりません。また就職に関する情報量も限られており、様々な点で自由度が高いとは言えないのが現状です。
この現状を伝える記事が先日日経新聞に掲載されましたが、その反響の大きさから世間ではあまり認知されていない事がわかりました。
このような高校生の就職活動の現状についてどう受け止めているのか、NEWGATEを運営する株式会社スパーク代表の永田にインタビューを行いました。
一人一社制を変えるのではなく、
「一社」を選ぶための選択肢を増やしたい
ー 最近話題に上るようになった「一人一社制」ですが、永田さんはこの制度についてどのように考えていますか?
永田:選択肢も情報収集手段も限られていた時代の制度が、1950年以降、変わらず続いていることに違和感を感じています。また、高校生にとっても最適ではないと感じています。
企業選択という重要なターニングポイントにも関わらず、情報も期間も限られていることは大きな問題ですよね。
永田:ただ、一社に絞ること自体が本質的な問題だとは思っていません。その「一社」を選ぶ前に、できるだけ多くの企業について知る機会を設けることが重要だと思います。
「高校生インターン」などを通して、実際に企業の仕事を知ることも重要ですね。そういった社会との関わりを通して、高校生自身で就職先を決断できる仕組みになっていくといいと思います。
高校生に開かれている就職への扉は、求人票のみ
ーネットがここまで普及しているのにも関わらず、高校生たちが就職情報を集める方法のほとんどが「求人票」という事実には驚きました。
永田:求人票には、従業員数や勤務地、給与など、定量的な情報についてしか記載されていません。それだけを頼りに選ぶなんて、情報量があまりにも少ないですよね。
また、高卒求人数が年々増加している中で、教員がすべての求人を把握することは現実的に不可能です。教員にも生徒にも知られていない魅力的な求人票が学校にあふれているこの現状は、すごくもったいない事だと思います。そこでNEWGATEでは、高校生向けの企業説明会を開催することにチャレンジしています。
ーNEWGATEとして動いていく中で、新たに気づいたことはありますか?
永田:「高校生インターン」は、想定していた以上に価値のあるプログラムだと感じています。高校生が抱く企業へのイメージは「ブラック企業」だったり、「働く=ツラいもの」というネガティブな印象が先行してしまいがちです。しかし、インターンを通して仕事への捉え方が変わっていくのを実際に目にしてきました。
また、その仕事が自分に本当に向いているのかがわかり「自分の尺度」をしっかり理解することができるのも、インターンのメリットです。
永田:最近、うちにも定時制高校の3年生がインターン生として働いてくれたのですが、たった1日で働く姿勢に変化がみられました。学校と違い、ビジネスのシーンでは社員同士が意見をぶつけ合います。そういった活き活きとした社会の空気に触れ「働くって楽しそうと思えるようになった」と話してくれました。そう感じられるだけでも「高校生インターン」には意味があると思います。
他にも、幼稚園でのインターンを経て、学校での生活がガラッと変わった生徒さんもいました。
大体の高校生が参加する就職活動期の「職場体験」は、その会社の選考を受けることを前提に行われるものですが、そうではなくもっと前の段階から様々な企業の仕事に触れ、視野を広げることができる機会を増やしてあげられたらいいですね。
高卒採用を変えていくには、
民間、学校、行政が三位一体になるべき
ーNEWGATEでは「先生インターン」という、教員が企業で仕事を経験することを目的としたプログラムも行っていますね。
永田:はい、このプログラムもどんどん推し進めていきていと思っています。先生方のほとんどは民間企業で働いた経験がない人たちなので「生徒に自信を持って就職のアドバイスができない」と、進路指導に後ろめたさや不安を感じています。そういった先生たちが企業の実態を知ることができれば、進路指導の質があがりますし、いま企業ではどんな力が求められているのかを知ることで、授業の質も上がっていくことが期待できます。
永田:高卒採用を変えていくためには、現場である学校や私たちのような民間企業が協力することも大切ですが、最終的には行政も巻きこみ、三者で取り組んでいかなければ大きなうねりは生み出せないと思っています。
たとえば、高校生の就職活動の期間をもっと長くするなどの変革は、私たちだけの力では成し遂げられません。
「高卒だから」を、もっとポジティブに
ー今後NEWGATEは、どのように社会に働きかけていくのでしょうか?
永田:「高卒」への固定概念を変えていきたいと思っています。「高卒ってすぐやめちゃうよね」という声をよく聞きますが、それだけ世間ではまだ「高卒」にネガティブな印象があり、高卒採用に踏み出せない企業さんも多いです。その固定概念を覆して「高卒ってポテンシャルが高いよね」「高卒って長く戦力になるよね」というふうに、もっとポジティブなイメージに変えていきたいです。高卒で働いている私の教え子は、ポテンシャルも高く、何よりも志をもった子たちでした。
永田:高卒の離職率が高いのは、高卒の就職情報と就職期間が限られていることや、受け入れる企業の育成体制が整っていないといった、様々な要素が交わった結果です。だからこそNEWGATEを通して、高校生自身が自らの意思で社会への第一歩を決断できる環境を、これからも創造していきたいですね。
【高校生の就職活動を応援する、NEWGATEのプログラム】
①高校生インターン
学校の求人票にない業界でも、「こんな企業で働いてみたい」という希望を叶えるためのインターンプログラム。過去にデザイン会社や幼稚園、また農家へのインターンが決まった生徒さんがいます。
<インターン事例>
・川越市内の幼稚園で3日間のインターン
ー埼玉県立川越工業高校定時制3年、宮崎颯樹さん
・株式会社スパークで1日インターン
ー埼玉県立川越工業高校定時制3年、田中 瑠菜さん
・落合農園で1日インターン
ー埼玉県立川越工業高校定時制3年、桜井柊真さん、松村孝太さん
②学内企業説明会
求人票の中にある企業さんを学校に招待し、生徒たちにプレゼンを行ってもらいます。求人票だけでは伝えられない企業の魅力を知ることで、高校生の選択肢も広がっていきます。
ある工芸高校では、8人中の2人が、それぞれ3社のインターンに参加することが決まりました。
③先生インターン
教員の方々に向けた、短期インターンプログラム。
民間企業での仕事を体験してみたい、生徒の進路アドバイスの質をあげていきたい。そのような思いのある方と、希望業界の企業をマッチングします。
<インターン事例>
・春休み期間中にデザイン事務所でインターン
ー 都立工芸高校、川人武さん
プログラムに興味のある高校生や、学校の先生方、ぜひこちらのメールアドレスまでご連絡ください。
<Mail> all-spark@spark-8.jp