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【佐竹健のカルトーク】第二夜 屋敷に住んでいる人の実態

 どこの町にも、必ずと言っていいほど大きな家がある。それは寝殿造や武家屋敷を彷彿させるものだったり、明治・大正期のような和洋折衷の建物だったりする。

 こうした家に住んでいるのは、政治家や社長だったり、ヤクザの組長だったりする。金があるので、たくさんの土地を持てるからだ。

 また、公家の冷泉家(藤原定家の子孫の家柄。代々和歌を教えることを家業としていた)のように、「代々この屋敷に住んでいる」ということもある。

 そういったことはわかっていても、町中を歩いているときに大きな屋敷を見ると、

「どんな人が住んでいるのだろうか?」

 と気になってくるものだ。

 同時に、本当に屋敷に住んでいる人が皆、社長や政治家、ヤクザの組長なのだろうか? その屋敷で暮らしている人は、先祖が地主や豪商、あるいは士族や華族なのだろうか? と考えてしまう。


 昔友達と町中を軽く散歩したことがあった。

 近所の神社へ行ったあと、商店街を通り、友達の家へと向かう。

 その道すがら、木で作られた塀のある大きな屋敷の目の前を通った。入り口にある鉄の柵のような門からは、立派な日本庭園と警備が厳重そうな家屋があった。

「立派な家だね」

 家を見た友達は、引きずっていた自転車を道端に停めて言った。

「うん。こんな家に一体誰が住んでいるんだろう?」

「警備も厳重そうだから、ヤクザの組長かなんかじゃないのかな?」

「だとしたら怖くない?」

「そうだね。凸したら、刺青入れたガタイのいい男が現れてどやされるやつだよ」

「うわ、怖」

「ここの前にいて怪しまれたら大変だから、さっさと帰ろう」

「うん」

 そうして、私と友達は足早に立派な邸宅の門前を通りすぎて行った。

 後でその屋敷の近所に住んでいた知り合いに、あの屋敷の持ち主について聞いた。近所に住んでいた知り合いは、公務員と答えてくれた気がする。もう昔のことなので、正確なことは覚えていないが。


 屋敷で思い出したが、高校の一時期、私は諸事情あって屋敷の片隅で暮らしていた。

 暮らし向きは窮屈だったけれど、興味深い部分もそれなりにあった。

 屋敷の全貌はというと、北には道路と入り口があって、その間には小さな堀がある。山々と田んぼが見える東側には川、西側と南側には竹やぶと土塁がある感じだ。加えて周りの民家よりも地盤が1mほど高い。

 ちなみに昔は北側の堀も大きく、川を渡った先にも屋敷地があったと聞いている。察するにその屋敷地は、今屋敷のある場所が本丸だったなら、川の向こうにあるそれは、二の丸だったのだろう。

 さて、そんな御大層な屋敷の住人であるが、この御主人がそこそこいいものをよく食べていたこと以外、暮らし向きは一般人とそれほど大差ない。強いて言うなら、墓参りが面倒だったこと、戦前の手紙があることぐらいだろうか。ちなみに私の暮らし向きは、江戸時代でいうところの「部屋住み」だったので、いいものではなかったが。

 普通、墓参りのときは、お寺や霊園にある墓地でお参りをして帰るのが一般的だ。だが、屋敷に住んでいたときは、かつて館の二の丸や廓があったと思しき場所にある墓地にもお参りするのが定番だった。もちろん、寺にある墓地に行くのは当然だ。

 この風習について、当時私は何の違和感を持つこともなかった。だが、いざ離れてみると、

「どうして二つ墓地があるんだろう?」

 と考えること機会が何回かあった。

 興味を持ったのでネットで調べてみると、両墓制(遺体を埋める墓地と供養の墓地を設ける形式)という古い葬儀形式に似ていることが分かった。きっと、敷地内にあった墓地に遺体を埋葬し、寺の墓地では供養用の墓があったのだろう。

 戦前の手紙についてだが、私の曽祖父(直接の血のつながりはない。つまりは養子)が旧日本陸軍にいたときに、

「元気でやってます」

 と生家の家族に伝えたものだった。

 本来であれば、この手紙は区の郷土資料館や九段下の昭和館や、靖国神社の遊就館にあってもおかしくはない。大正末期から昭和初期の様子を物語る史料としての価値があるからだ。それなのに、屋敷の仏壇の上に飾ってある。

 これについては、曽祖父の写真を探しに、祖父が父の生家へ行ったところ見つからなかったかららしい。

 昔から屋敷に住んでいる人には、金持ちばかりではない。ただ、その家には形の有無を問わず、古いものが伝わっている。

 金持ちから貧乏人、旧家の当主から一般人まで、屋敷に住んでいる人にもいろいろいる。屋敷に住んでいるからといって、金持ちや旧家の当主が住んでいるわけではない。

 広い屋敷を見て、どんな人が住んでいるのかな? と思ったら、このことを思い出してほしい。

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