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半年後。 「あなたは、今日は5階のそうじをお願いね」 元気な声がおそうじがかりの部屋から聞こえてきます。 「カラ!レオノール女王がお呼びよ。相談したいことがあるんだって」 アデルの声です。 「あら、今日は忙しいんだけど、、、わかったわ」 カラは5階の鍵の束を新入りのおそうじがかりたちに手渡すと 女王の部屋へと向かおうとします。 「あとは私がやっておくから、ゆっくりしてらっしゃい」 レジーナが優しく微笑みながらカラを送り出します。 「お待たせしました。レオノ
数日後 カラ、レジーナ、アデル、アビー、そしてフィンの5人は、 レオノール女王から勲章を授与されるために大広間にいました。 着なれないドレス、フィンはタキシードを着ています。 カラの名前が呼ばれました。 女王がいる祭壇へとカラがゆっくりと向かいます。 ふと横に目をやると、ヤヌーに代わり大臣となったのは 元々レオノール女王の下で大臣をしていたものの アビドラたちによって失脚させられたカンテ大臣でした。 「カラ、素晴らしい行いをしましたね」 大臣に声をかけられ
大臣の部屋にある椅子を使い、 シャンデリアに括りつけられた魔法の杖を取り外すと、 カラは窓の外で待ち構えていたフィンの背中におんぶされ 7階の女王の部屋へと降りました。 カラの到着を待っていたレオノール女王。 カラに感謝の言葉を伝えると、魔法の杖を手に取り呪文を唱えます。 醜い姿の獣は、一瞬にして紫色の煙に包まれました。 数秒後、煙の中から元の人間の姿へと戻ったレオノール女王が現れました。 気品と威厳を兼ね備えたその姿は、誰の目にもそれが女王であるとわかる
カラは再び集中し考えます。 私が大臣ならどこに隠す? 光り輝く宝石の付いた杖を隠すのに最適な場所。 わからない! カラは頭を抱え、天井を見上げました。 光り輝く宝石... カラが見上げた天井には、 それはそれは豪華なシャンデリアが取り付けられていました。 「何をしてる、そこをどけ!」 ヤヌー大臣は、部屋の前でそうじをしているアビーに向かい命令しました。 「申し訳ございません。 ただ大臣、 廊下に小さな針がばら撒かれているようで、 ここを今歩かれますと
キャビネットにもクローゼットにも、 絵画の裏にも、魔法の杖はありませんでした。 「どこにあるのよ!」 目ぼしい隠し場所を全て調べ終えたカラの焦りは頂点に達していました。 「冷静になって」 カラは自分に言い聞かせます。 「大臣の気持ちになるのよ。 命の次に大事な魔法の杖。 自分が大臣だったらどこに隠す? キャビネットやクローゼットじゃ捻りがない。 すぐに見つかってしまうじゃない。 ずる賢い大臣はそんなとこに隠さないわ。 それとレオノール女王が教えてくれた
7-13の部屋の前ではレジーナが、 勲章授与式が行われている大広間の前ではアデルが、 掃除をはじめました。 カラとアビーも8階に到着すると、廊下の掃きそうじをはじめます。 フィンが動き出します。 8階の大臣の部屋の窓までロープで降りると、 手際よく窓に小さな穴を開け窓の鍵を開けます。 そしてロープを体から外し部屋の中に入ると急いで部屋の扉を開けます。 カラとアビーが掃除しているのが見えました。 パンパン 二回手を叩きます。 カラはアビーに目で合図をすると
「でも、こんな広いお城の中から魔法の杖を探し出すなんてできるの?」 アビーの言うことはごもっともです。 「アビドラとヤヌーにとって命の次に大事な魔法の杖よ。 もし他人に見つかってしまったら、自分たちの立場が危うくなる。 だったら人の目につく場所や みんなが出入りするような場所には絶対に隠さないわ」 カラの推理にアデルが加わります。 「そうね。私は国王の寝室をそうじする担当なのだけれど、 監視の人間もいないし、触ってはいけない場所も特に無いの。 国王が使う他の
カラとフィンがおそうじかかりの部屋に戻ってきました。 そして「7-13」の部屋で起きたことをみんなに話しました。 「なんということなの。とても信じられない」 アデルは顔を強張らせています。 「ええ、信じられないわ。でもそれが事実よ。 大臣がわざわざこの部屋に来て鍵を奪った理由もこれで説明がつく」 レジーナが答えます。 「今の国王ってはっきり言って最悪。税金は高くなるし、生活は貧しくなる 一方。レオノール女王の時はそんなことなかった」 アビーはそう言うとカラの
(レオノールが書いた文章のつづき) この国には遥か何千年んも前から伝わる魔法の杖があるのよ。 このことは国王一族しか知らず、 その隠し場所も国王一族以外には明かされていない。 この魔法の杖を使えば、国を滅ぼすことだってできる。 自分の権力のために使えば大変なことになる。 そう考えた歴代国王は、 この杖の存在を一族以外の誰にも口外せず また自身がその杖を使うことなく隠し続けてきたの。 でも、アビドラは違った。 自らが国王になれないことに怒りを覚え、この杖を奪
「うまく喋れないのね。文字は書けるかしら?」 カラは胸ポケットに入れていた万年筆を取り出し、 窓にかけられたコットンでできたアイボリーのカーテンをちぎると テーブルの上に置きました。 「あなたのこと教えてちょうだい」 カラの言葉に反応するように、化け物はゆっくりとテーブルに向かい 椅子に腰かけ、紙に何かを書き始めました。 爛れていて皺だらけの手から書かれた文字は、 とても醜い化け物が書いたとは思えない、とても綺麗な文字でした。 長い時間をかけて化け物は何かを
月明かりに照らされた部屋の中はそれでも暗く、 かろうじて部屋の大きさと家具が数点置いてあることが わかる程度でした。 部屋は4歩もあるけば反対側の壁にぶつかるほどの広さで このお城の中では小さい方の部屋でした。 中央に椅子が二脚と、テーブル言一卓置かれていました。 そして、壁際には質素ななシングルベッドが1つ置かれていました。 「誰かいる?」 カラの問いかけに反応する者はいません。 唸り声は確実にしたし、それに鍵穴越しに目も合った。 誰か、いや獣かもしれな
フィンは、城の天辺に着くと 腰ににロープを回し、城の塔の先にある金具に ロープをしっかりと固定しました。 いつもと違うのはもう一人、フィンの背中に人間がいることです。 「大人でもちぎれないロープだから大丈夫だと思うけど 暴れたりするなよ!」 「大丈夫よ、フィン。本当にありがとう。 それに私、すごくスリムだから!」 フィンはふてくされた表情でカラの腰にもロープを回します。 「アビーまでお願い!って、女は後先考えないんだから!」 フィンが独り言を呟きましたが、
仕事を終えてお城から帰るところだったフィンが 窓拭き係の部屋の前で待ち伏せしていたアビーに連れられ カラたちがいるおそうじ係の部屋にやってきました。 「なんだよ急に!今日は帰って妹と遊ぶ約束をしてるんだ」 フィンはなぜ自分が呼び出されたのか、 4人の女に囲まれ何を言われるのか、 戸惑いを隠せませんでした。 「ごめんなさいね、フィン。教えて欲しいことがあってね」 レジーナはそう言うと、今日、カラの身に起きたことと 半年前に大臣がこの部屋にやって来た時のことをフ
レジーナによると 半年ほど前、突然大臣がおそうじ係の部屋にやって来て、 (普通は大臣がおそうじ係の部屋にくることなんてありません) 7階の鍵の束を渡すよう言われたというのです。 そして、鍵を1つ外すと、自分のポケットにしまい 「今後7階は全ての部屋を使わないことにした。 なので、そうじをする必要はない。 もし7階に立ち入るようなことがあれば厳しい処罰を下す」 と告げ、部屋を出て行ったというのです。 「すごい剣幕だったわ。50年ここで働いていてこんなことは初め
お城のおそうじは思ったより大変でした。 床を掃き、モップがけ、窓を吹いて、 豪華な調度品も一つずつ丁寧に拭いていきます。 「とても1日で20部屋は無理だわ。」 カラは、他のみんなが1日に20部屋もそうじしてるなんて、 どういうことか想像がつきませんでした。 陽が落ちはじめ夕方になりました。 カラは、12部屋目ののそうじを終えたところでした。 「あと一部屋そうじしたら、終わりの時間ね。 20部屋無理だったわ。 レジーナさんに怒られるかしら。」 そんなことを
カラは部屋の中央に置かれたイスに座りました。 「はじめまして。私の名前はレジーナ。 このお城のおそうじ係として、もう50年以上働いているおばあさんよ。 今日からよろしくね、カラ」 「よろしくお願いします。でも、50年以上なんてビックリ。 そんなに働いているんですか?」 カラは驚きを隠せませんでした 「ええ。14才の時からずっとここで働いているわ」 「私も14才なんです」 レジーナのゆっくりと優しい話し方は、カラの緊張を解いてくれました。 「他の仲間も紹介し