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【特別企画】世の中を変える発明!注目技術ニューロフィードバックの歴史と最新動向

 今回はSpotifyやApple Podcastsで毎月10日は科学系ポッドキャストの日ということで、初めて複数の番組で共通のトークテーマをもとに、それぞれのアイデアや視点で喋る特別企画です。私たちニューロ横丁も「発明」をテーマに、この番組でも何度も取り上げている、ニューロフィードバックの歴史と最新動向をお話していきます。

『フランケンシュタイン』誕生の経緯とは?

 まず初めに、これまで何度も登場してきたニューロフィードバックについて、改めてどのような技術なのかをお話していきます。ニューロというのは、「神経の」という意味で、脳の信号のことを指します。フィードバックというのは、「本人に返ってくる」という意味で、ニューロフィードバックは、本人の脳の信号を本人に返す脳の技術のことです。

 具体的には、脳波やMRIのような、脳のスキャナー・測定装置でデータを取得し、それをリアルタイムで解析して、本人に「今あなたの脳の状態はこうですよ」と返してあげます。その一方で「理想的な脳の状態はこうなので、自分で頑張って変えてみてくださいね」と指示して、本人がさまざまなことを試行錯誤しながら、理想の脳活動を起こせるように訓練する技術です。

 好きなアイドルを応援する行為や、好きな人にアプローチをする行為、そのような行動の動機はどこからきているのでしょう?「好き」という気持ちが行動に移させると思う方もいるのではないでしょうか?でも実はこれは違うのです。

 18世紀、ルイージ・ガルヴァーニ(伊:1738-98)は、2種類の金属でカエルの足を挟むと、筋肉が動いて痙攣することを発見しました。それまで、人や動物が動くのは、「意思」という実態のないものだと思われていました。しかし、ガルヴァーニが「生物電気」と呼ばれる、生物に見られる発電現象を発見したことで、人は電気で動くのだと言われるようになりました。

 ガルヴァーニの甥にあたる人物で、ジョヴァンニ・アルディーニ(伊:1762-1834)という人物がいます。彼は叔父ガルヴァーニのカエルの実験を見て、「人は電気で動くのだ」と思い、死刑になった人の遺体に電極をつけて、「蘇生実験」と呼ばれる、電気刺激を行う実験を行ないました。電気を流すことで、遺体はビクッと動くのですが、19世紀の人たちは、遺体が電気で動くのを見て、「すごい!!」と興奮したそうです。これはヨーロッパ中で一大エンターテイメントになり、この実験を見ていたのが、メアリー・シェリー(英:1797-1851)という人物でした。彼女は今から200年ほど前に、世界で初めてのSF小説『フランケンシュタイン』(1818)を書き上げました。フランケンシュタインとは、電気で動く人造人間のことで、アルディーニの実験があったからこその作品だったのです。現在は、人は脳の信号を介して筋肉を動かすということがわかっているのですが、人が電気で動くという考えがあるのは、18世紀からの流れがあったからでした。

自分の脳波をコントロールして病気を克服!?

 また、アルディーニが活躍していた19世紀初頭、彼はメランコリー(うつ病)の友達を、電気刺激で治療したという記録が残っています。彼は、人間が電気で動くだけでなく、電気で精神現象や気分も変えられるのではないかということも考えていたのです。その後、1940年代のまだまだ精神障害に対する治療薬がなかった時代に、ECTという電気けいれん療法というものができました。これは、こめかみに結構な高電力の電気を瞬間的に流すことによって、患者さんを痙攣させて、主に統合失調症や、重度のうつ病などの精神疾患を抱えている人たちを治すというものでした。これもある意味、アルディーニの頃から100年経って、電気けいれん療法という形に変わっていったということができます。さらに1964年くらいに、痙攣するほど強い電気を流さなくても良いのではないか、ということで、0.25mAくらいの乾電池よりも低い電気を頭に流すと、うつ病が治るということが、イギリスから報告されました。しかし、それを誰も再現することはできず、しばらくの間、人間の精神を電気によって変えていくというアプローチは、止まっていってしまいました。

 そして今、ニューロテクノロジーという時代が出てきたのは最近の話になります。2000年にドイツのニッチェ先生という人が、髪の毛の上から生理食塩水に浸したスポンジを貼り1mAほどの電気を流したところ、陽極(プラス極)を貼ったところの、脳活動の興奮性が高まるということがわかりました。その後20年で、引用数3,000件を超えるほどのインパクトを持つ実験になり、少し電気を流すだけでそんなに脳が変えられるんだという衝撃を与えました。現在このように、電気刺激によって、脳の状態を変える簡易なことができるようになってきていて、さまざまな分野で応用が進んでいます。

 このように、神経に外部から介入していくことを、ニューロモジュレーションと言うのですが、少し怖いのではという意見も出ています。これもニューロテクノロジーの大事な技術なのですが、今回の本題であるニューロフィードバックというものは、ニューロモジュレーションのような刺激を使わないで、同じような効果は持てないかという考えから生まれました。

 ニューロフィードバックの歴史は、もう少し最近の話になります。1924年にハンス・ベルガー(独:1873-1941)という人物が、初めて人間を対象に、脳波が記録できるという前提になる部分を、実験にして明らかにし、大体1960年くらいに、初めて脳波のフィードバックという概念が生まれました。そのため、実は脳波の歴史は100年もないのです。そして脳波は、人間の脳活動や精神活動を反映させる記録方法であることがわかりました。

 以前も紹介したことがありますが、ベルを鳴らして餌を出すと、よだれが出るようになり、レバーを鳴らして餌が出るようになると、レバーを押すようになる「パブロフの犬」の条件付けの話がありますが、ハンス・ベルガーが発見した脳波と、イワン・パブロフ(露:1849-1936)やバラス・フレディック・スキナー(米:1904-1990)の学習理論を合体させたのが、バリー・スターマンという研究者でした。彼は1968年に、猫がじっとして運動していない時に、センサリーモーターリズムといって、運動野で13Hzくらいの脳活動が増えているということを見つけました。そこで彼は、猫が13Hzの脳波を増やせたら、餌を与えるという実験を行ないました。するとその猫は、数週間数ヶ月と経っていくと、だんだん13Hzの脳波を自分で出せるようになり、その結果、安静にする脳波を自分で出せるようになったため、睡眠効率が上がったり、リラックスした状態を作れるようになったのです。これが世界で初めて行われた、ニューロフィードバックの実験です。その後1972年に、彼は癲癇などの人を対象に、安静時に出るような13Hzを出す訓練をすると、発作が減るということを、初めて発表しました。ちょうど今から50年前の出来事です。

 ここから50年経ち、最近ようやくレビューが出て、やはり癲癇などに対しては、このようなニューロフィードバックを行なうことで、発作を抑えることができそうだ、というメタアナリシスや、複数の論文の調査結果が出ていたり、他にもADHDの症状が抑制できたり、などというものが発表されています。アルディーニのように、外部から電気を流さなくても、脳波を測って本人に見せて、それが上がったらご褒美をあげたり、上がるように努力をさせるだけで、猫も脳活動を変えられるのです。

人の気持ちは電気で動かせる

 しかし、50年前にこれが分かって、こんなにも革命的なものが、なぜ進まなかったのかというと、理由はいくつかあるのですが、1つはハードウェアの問題です。脳波のニューロフィードバックなども、1,000万円ほどするものを買って、1時間かけて頭に電極を貼り付けてやらなくてはいけないため、なかなかみんなが気軽にできるようなものではありませんでした。また、解析技術の面でも、ここ10年くらいで機械学習の技術が進んできたため、色々な脳の状態を可視化できるようになってきましたが、それまではせいぜいアルファ波やデータ波、13Hzのセンサリーモーターリズムといった、特定の周波数しかターゲットにできませんでした。それだけだと、そこまで脳機能への影響はなかったのですが、最近になって一層機械学習の技術が進歩して、周波数の割合やパターンで、人間の脳活動や、人間の精神活動が実現することが分かってきたので、特定の周波数だけではない、複雑な状態のフィードバックが可能になりました。これができたのはかなり最近で、柴田和久先生が2011年にサイエンスという雑誌で発表した、デコーディッドニューロフィードバックという革命的な技術です。

 今までのニューロフィードバックは、特定の脳活動や特定の周波数に対したものでしたが、そうではなく、ある状態というものを機械学習で解読できるようなモデルを作り、その結果をフィードバックすることで、本人の状態を変えていくという技術です。そしてここからが本題で、彼が世界で初めてデコーディッドニューロフィードバックを出してから、5年後の2016年に発表したものがあります。

 好きでも嫌いでもない異性の顔を見ている時に、好きな異性を見ている時の脳活動と、嫌いな異性を見ている時の脳活動をあらかじめ学習しておいて、何百人という異性を10点満点で評価させ、その時の脳活動をf MRIというスキャナーでとっておきます。そうすると、好きな異性を見た時だけの特有の脳活動のパターンが学習できます。それを本人には内緒で、好きな人を見た時に起こる脳活動に反応して、緑のボールが大きくなる仕組みの画面を提示させ、好きでも嫌いでもない異性の写真を見せた後に、「このボールを大きくしてください」と言います。そして、被験者は緑のボールの正体はわからないまま、頑張ってそれを大きくする努力をしていきます。そうするとだんだん、好きでも嫌いでもない異性の顔を見た後に、好きな異性の顔を見た後の脳活動を、自分でも起こせるようになっていきます。そして実験が終わる頃には、好きでも嫌いでもなかった人が、「あれ、少し好きかも」というように変わっていくのです。これがデコーディッドニューロフィードバックの力です。

 「好き」という感情は気持ちからやってくるものだと思われがちですが、実は脳の中をコントロールすることで、そのような感情も変化させていってしまうのです。心の原因が脳の情報処理であるという因果関係を示せるところが、科学としても非常に面白いところであって、アイドルの見過ぎで現実世界を生きるのが困難になった人を助ける技術になるかもしれませんし、マンネリ化した熟年夫婦のリフレッシュになるかもしれないし、人間が異性を魅力的に思うという精神現象一つですら、脳の情報処理であって、それがちゃんと脳活動として定義できれば、ニューロフィードバックで望む方向に変えていくことができるのです。これが今、2022年に私たちが生きている現代でできるようになってきたことで、この100年、50年、色々な人たちがやってきてくれたおかげで、私たちはそのテクノロジーを、まさに今普及させることができているのだと思っています。

まとめ

 このニューロフィードバックの技術を使って、個人的には痩せられるように何か試してみたいです。人の役に立ちたいというところでは、トラウマがある人の緩和や技術に興味があるのですが、私が一番やりたいのは、ニューロフィードバックというのは何かというと、今まで人間が扱えなかった情報やできなかった努力の仕方、「私はこういうふうになりたい」というような、克服したい自分の弱点や悩み、辛さがあって、そういうものを変えていきたいという人が、努力するための情報媒体であると思っています。「だったら私世界の見方をこう変えればいいんだ」という、世界のものの見方や気の持ちようというものを、科学的にそれを変えられるようにする情報媒体として脳情報はあると思っていて、そのようなニューロフィードバックや、脳の情報が使えるようにすることを、世界中の人に広めて、そのような情報媒体でみんなが「こんな面白いこと、努力すれば、トレーニングすればいいじゃん!」という考えが出てくるような世の中にしたいと思っています。

  今回は発明というところで、私たちのテーマは「ニューロテクノロジーの発明」でした。人が一体何で動くのかというと、電気で動くというところが、200年くらい前から言われてきていて、それがフランケンシュタインだったり、今のニューロモジュレーション技術として電気刺激技術になっていきました。ニューロフィードバックという技術も、今から100年前に脳波というものが発見され、その後猫を対象にニューロフィードバックを行なって、猫が自分の脳活動を変えられるということが見つかり、それがさらに複雑にできるようになってきたというのが、この10年くらいという歴史を、みなさんと一緒に振り返りました。

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📻今回のエピソード

ポッドキャストでも聴くことができます。是非お聴き下さい。

🎙ポッドキャスト番組情報

日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。

  • 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜

  • パーソナリティー:茨木 拓也(VIE STYLE株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花

  • 配信スケジュール:毎週火曜日と金曜日に配信

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