#32 頑張らなくて大丈夫!ネガティブな感情は、心を休める大事なサイン?【ニューロ横丁11軒目:感情②】
ずっと楽しみにしていた予定がいざ当日になると、「ちゃんと予約できているかな?」「体調崩さないかな?」など、楽しみよりも不安や心配の気持ちが勝ってしまうことはありませんか?
この現象は「トラベルブルー症候群」という名前も巷ではあるみたいです。本日も「感情」についてお話していきます。
感情が湧き出る「文脈」とは?
感情というものは、ダイナミックな変化の中に生まれてくるものです。例えば、ずっとやりたいことや、欲しいものがあった時に、このような文脈があるからこそ、それが叶うと快感という感情が生まれます。
また、それが叶わないと、失望や鬱という感情が出てきます。反対に、とても不安に思っていたことや、怖いことが起きそうな時に、それが実際に起きると、痛みや悲しみの感情になり、大丈夫だと安心という感情が芽生えます。何をしようとしていて、その結果がどうなり、それが予測とどう異なっていたのかという文脈が、私たちの感情を形作っていると思います。
では、トラベルブルーの場合はどうでしょう?楽しみな気持ちよりも、旅行先で具合が悪くなったらどうしよう、と心配をして、実際本当に具合が悪くなってしまうなんて事を経験した人もいるかもしれません。
「シロクマ効果」と言って、シロクマのことを絶対に考えるなと言われると、シロクマのことしか考えられなくなるように、頭の中で抑制すればするほど、反対にそちらに思考が向けられてしまう現象に似ているところがあります。
前回、生理の時にカップルで喧嘩をしてしまったり、イライラしてしまったりという話がありました。古典的には、感情は理性に従うべきものとされているため、感情が湧き出てしまうことは、良くないと思われがちです。しかし、感情それ自体に従うことに意味があるような気もしています。
例えば、ネガティブな感情を持たないと、人は頑張り続けてしまうかもしれません。アイドルを応援している人だったら、一生懸命働いたお金をアイドルのために使って、応援をしているのですが、ある時ふと「ただのアイドルとオタクだ」と気づく時が来るとします。そうすると、脳が「もう頑張らなくていいんだよ」と教えてくれて、それが落ち込みや抑うつな気分と繋がってきます。
鬱はネガティブな感情になってしまうことですが、「もう頑張らなくていいんだよ」という脳からのサインとして、鬱な人の感情には意味があると思っています。
感情にはラベリングをすることが大切!
また「大丈夫だよ」「きっとできるよ」というような、実際の言葉が感情に与える影響というものはどうでしょう。先ほど鬱の例を出しましたが、熱が出ているときに外で遊ぼうと思わず、「大人しくしていよう」という体の防御反応として、熱が働いているのだとしたら、鬱は頑張りすぎている時に、これ以上頑張るのはやめようと教えてくれる、熱のような役割を果たしていると思います。
ただ、その感情に自分で気づけないことは、リスクがあると思われていて、そのような人たちは失感情症(アレキサイミア)と言われています。自分が今どんな感情になっているのかが分からない状態で、そのような人たちは色々な精神障害にもかかりやすいです。そのため、自分が落ち込んだり、ポジティブな感情になっている時に、言葉でラベルをつけてあげることは、とても大事なことです。
一時期、松岡修造さんの日めくりカレンダーが流行したのを覚えていますか?あれも人のポジティブな感情を言葉にしているものと言えます。この気持ちを「やる気」と言うんだな、というように感情にラベルがつけられるようになると、名前がついたことによって、自分の感情を制御しやすくなると考えられています。
同じ症状でも、名前の分からない病気に侵されるよりも、「あなたはインフルエンザですよ」と病名を言われてしまった方が安心するのと、少し似ているかもしれません。
感情は文化によって異なるところも面白いところです。シャーデンフロイデという言葉を聞いたことがありますか?これはドイツ語の単語なのですが、あえて日本語にするとしたら、自分の嫌いな人が残念な結果になった時に、その不幸を喜ぶ嬉しさのことです。
人の不幸は蜜の味と言ったりもするのですが、国によっても感情のラベリングは異なってくるものです。虹も名前をつけることで、7色にしか見えなくなってしまうのと同じように、感情にも文化によってラベルをいくつ付けられるかで、感じるものが違って見えてくるかもしれません。このような意味でも、感情と言葉は関係があると思います。
嫌なことを楽しく取り組む方法とは?
自分の苦手意識やネガティブな感情を持っているものに、どうしても取り組まなければいけない時があると思います。このような時に、少しでもポジティブな感情を持って取り組むことができる方法はあるのでしょうか。しかし、ネガティブな感情を持っていると分かっているのに、それをやるというのは、熱が出ている時に外で遊ぶのと同じように、危ないことだとも思います。
私の考えとしては、無理して嫌なことをやらなくても、好きなことを伸ばせば良いと思います。嫌なことには嫌な理由があるはずです。その感情にしっかりと向き合い、得意、不得意があっていいと思えるようになったら良いですよね。嫌なことを頑張ってやるより、好きなことに時間をかけている人の方が、きっと輝いています。
まとめ
感情というのは、何かが起きるとこういう感情になる、というような対応だけではなくて、期待があって予測があって、その誤差で人の感情は変わります。ワクワクしていたことが実際に叶ったら、嬉しくなるし、叶わなかったら悲しくなります。反対に、怖いと思っていたことが実際に起きたら痛くて、それが起きなかったら安心感やホッとした感情になります。
このようなダイナミックな期待と結果によって感情は生まれてきます。そして、その感情自体は、表面的に見ると、理性を邪魔する悪いものとして古代ヨーロッパから考えられているのですが、感情自体には意味があって発生しているものなのです。
風邪の時に出る熱のように、ネガティブな気持ちも、その時は頑張らなくて良いんだよと、本人にお知らせしてくれるような症状であったり、ポジティブな気持ちも、このような昂った気持ちをもう一度得られるように頑張ろうという、うまくいったことを人に継続させるような力を持っています。このように、何かしら意味があるから、私たちの脳の中には、感情の情報処理が組み込まれているのです。
📻今回のエピソード
ポッドキャストでも聴くことができます。是非お聴き下さい。
🎙ポッドキャスト番組情報
日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。
番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜
パーソナリティー:茨木 拓也(VIE STYLE株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花
配信スケジュール:毎週金曜日に配信
🤝VIE STYLE採用情報
現在、全方位的に世界に挑む仲間を募集中です🙌