映画 ルックバック
アマプラで見た。とても素敵な令和まんが道。
短い時間なのに美味しいところがぎっしり詰まっていた。とても真摯な作りで、要所要所の泣くべきところできっちり泣かせてくる。才能をめぐる煩悶からバディもの、アクションにフィクションラインをねじるようなファンタジー、心情の伏線回収。作る人の掌がまるで「これは特別な作品になる」と言ってるような、よい作品が送り出される時の産声が満ちている。主人公の貧乏ゆすりが、その胎動に現実味を加えている。
何度もグッときたし、ふたりの登場人物の顔がなんかずっと揺れてたり震えてたりして、本当に生きてるみたいだった。誰にも勧められる、すばらしい映画だった。
この映画を見るのは、本当は二回目だ。
一回目は劇場で見た。ひとりで見た。
いちおう妻を誘ったけど、たぶん断られることもわかっていた。最初からひとりで見に行くつもりだった。
当時、webで噂になっていた原作の漫画をうっかり読んでしまい、けっこう食らってしまったのだ。
で、食らったはいいものの、別にその話を誰かとすることもなく、大人の嗜みとして、エモーションは折り畳んでしまい込んだ。あんまりはしたないのも、あれなので。
たぶん、僕みたいな大人はいっぱいいたと思う。
みんな、自分の話と重ね合わせてしまったのだ。
で、僕みたいな大人が劇場公開の報を知った時、やっぱりどうしようか悩んだと思う。
僕も2日くらい悩んで、結局ひとりで映画館に行った。
観客は30人ほど。結構多かった。カップルは半分以下で、あとはみんな一人だった。
予告が終わると、観客全員の首が上を向いた。
映画が始まる瞬間を、みんなで見た。
今アマプラで見た二回目ほどの感動はなかった。
最初から最後まで、ずっと確認作業をしているみたいだった。映画が終わるまでバカ丁寧に一生懸命あちこちを確認していた。なんだか目が力んでいた。楽しむような感じではなかった。泣かなかった。
エンドロールをみんなで見た。
やっぱりみんな、首が上を向いていた。僕も同じく。
足早に劇場を出ると9時を過ぎていた。
ロビーに座っていると、ほぼ全員、あちこちに座ってスマホに何かを打ち込んでいる。カップルはみんなロビーを通って外に出ていた。そこにまだ居座っているのは、全員一人の客だった。
みんな俯いていた。全員の顔にスマホの光が反射していた。
たぶんみんな同じだ。みんなやられて、背中を押し出されるようにして、ここに憑き物を落としにきたのだった。
僕もみんなと同じように俯いて、スマホを点灯させた。
SNSだ。この場で今書かなきゃ意味がない。
映画が良かったのかどうかは、あまり憶えていない。作品としては、二回目のアマプラ鑑賞のほうが断然堪能できた。けれど、劇場であんな体験をしたことは初めてだった。
誰と示し合わせた訳でもないけれど、とにかくあの日、持て余す自分をどうにかするためにそこまで足を運んで、この映画をみんなで見たのだ。そして、みんなで見ることでようやく、確かに憑物はそこに落ちたのだった。