Webディレクターのコミュ力・言語化力の鍛え方を考える/ディレクター談義vol.12
2022年1月22日(土)に開催したディレクター談義 vol.12は「Webディレクターのコミュ力・言語化力を鍛える」をテーマに、名村さん(@yakumo)と町田(@netacho)でお話しました。
この記事では、当日のお話やスライドを振り返りながら、改めて考えつつ展開していきます。
お話した内容を文字起こししたものではないので、細々と差分があるかと思います。また、私自身がコミュニケーションに関する専門家でもなければ、学術的なエビデンス等を持っているわけではなく、あくまでWebディレクターとして仕事をしたりする中での解釈である旨ご了承ください。
当日の音声アーカイブをお楽しみいただきたい方は以下よりご視聴お願いします。フォローやApplePodcastでの高評価いただけるととても嬉しいです!
「コミュニケーションの国語」を習ってない‥?
今回のテーマである「Webディレクターのコミュ力・言語化力の鍛え方」は、ディレクター談義vol.11で出た国語教育の疑問から出てきました。
例えば、メールやチャットなどの文章から、相手が伝えたい事と意図を読み解く「理解力」を鍛える国語と、自分が伝えようと思っている事を解釈のズレなく伝えられるようコミュニケートするための国語は、似ているようで違うのでは?と考えました。
日本語の特性「ハイコンテクスト」を理解する
日本語は世界でも筆頭のハイコンテクストな言語と言われているようで、ハイコンテクストである事と「理解」「伝達」に関する捉え方(文化?)を重ねたり、採点者目線で考えたときに、相手に的確に伝えるコミュニケーション技術は答えが複数存在するため、テストの点数=結果・評価の枠組みでは扱いが面倒だともいえます。(注:あくまで個人的に思ったこと)
【?】ハイコンテクスト:前提となる文化・価値観といった暗黙の了解や文脈(コンテクスト)が近い状態で意思疎通をはかること。逆にローコンテクストは、そのような前提がなくても伝わるコミュニケーション方法。
とはいえ「ハイコンテクストは時代にそぐわない悪のコミュニケーション方法だ!」ではなく、絵本・小説・漫画・映画などの物語や、心や情景を17文字で表す俳句など、ハイコンテクストだからこそ描ける解釈のひろがりの良さもあります。その面白さは忘れてはいけないのは理解しています。
とはいえ、仕事のコミュニケーションでそんなポエミーで情熱たっぷりに「どんっ!」とか言われましても、それこそいとおかしな炎上ものがたりがまつりごとのごとし日々に辟易なのであります。
特にWeb・マーケティング・ITに代表されるような新語が次々出てくる業界は、まさにハイコンテクストパラダイスと言えます。
「デザイン」「ディレクション」「DX」やアルファベット3文字や略語なども、たまに流れる笑い話のような認識ズレが起こっているのが良い例。
なぜそんな解釈のズレが起こってしまうのか。昔からそうだったのか?と考えると、色々なところで「ダイバーシティ(多様性)」と言われるように、技術進歩により文化や国や言語が、ネットや物流進化で世界中ものすごいスピードで流通すると、他人事だった多様な価値観が混ざり合い解釈が無限に広がるのは、まぁ自然な流れだよなと理解できます。
だからこそ、仕事(特に難解な単語の多いデジタルな領域)においてはできるだけローコンテクストで伝えないと、色んな所でコミュニケーションロスと罵り合いが発生します。「あいつはわかっとらん」と。
「分かってない」のは相手ではなく「相手が分かってないことを分かってない自分自身」かもしれません。それじゃぁいつまでたっても目くそが鼻くそを嘲笑いながら足を引っ張り合い揉み合いながらみんなでなかよく一つ(糞)になってしまいます。
Webディレクターのタスクの多くは「コミュニケーション」
話をディレクションに戻しましょう。厚生労働省 日本版O-NET(職業情報提供サイト)に掲載されていた「Webディレクターのタスク」を改めて見ると、その多くが言葉を扱う業務であることがわかります。
言葉を扱うということは、それを他者に伝える必要があるということであり、つまり仕事の多くはコミュニケーションであると解釈できます。いまさらですけども。
で、改めて「コミュニケーション」とは何か?をWikipediaで調べると
と書かれていましたが、今回は仕事におけるコミュニケーションを考えたかったので、「伝えること」「伝わったこと」の相互伝達までの全体を「コミュニケーション」として捉えます。
「コミュニケーションで伝えるもの」は情報・気持ち・考え・様子など。
それを「どのように伝えるか?」は話す・書くといったアウトプット。
そして「伝わったかどうか?」は伝えた相手の反応。つまり聴く・見る。といった反応から推し量るものと考えます。
これを図にしてみました。
この全体像にある「伝える(話す・書く)=アウトプット」「伝わる(聴く・見る)=インプット」を鍛えることがコミュニケーション力を鍛える。ということかな?と考えました。
ただ「では、いっぱい話して大量に書いて、相手から聞いて観察しまくったら良いっすね!?」だと光が差し込んだ気が全くしないので、もう少し噛み砕いてみることにしました。
バーバル(言語)とノンバーバル(非言語)のコミュニケーション
先ほどのコミュニケーション4要素「話す・書く」「聴く・見る」は大きく2つに分けることができます。
バーバル(言語)コミュニケーションと、ノンバーバル(非言語)コミュニケーションです。
バーバルコミュニケーションは話したり書いたりといった「言語化し伝えるコミュニケーション」で、情報・考え・知識・価値観・意思・感情といったものが含まれます。
ノンバーバルコミュニケーションは「言葉になっていないけど伝わるもの」で、声の大き・話し方・表情・身振り手振り・しぐさ・視線・話すスピード・相槌・抑揚・態度・理解・知識・敬意・絵など。
これらを分解すると、鍛え方も少しずつ見えてきそうな気がします。
が、特にノンバーバルの方は幅が広く深く、ある意味で芸風とも言える領域のもので、自分なりのスタイルを模索する必要があり、鍛え方を考えるのは難しそうです。
ひとまずノンバーバルは認識までに留めておき、今回はバーバルコミュニケーション=言葉の鍛え方について考えることにします。
なぜ「言葉」を鍛えることが重要なのか?
Webディレクターに限らず、デスクワーカーはどんな所で言葉を使うのか?を書き出し、さらに時間軸で2分類することでなんとなく整理することができました。
同期型(リアルタイム)で使用する「言葉」
直接話す、電話で話す、Zoomで話す、チャットで伝える
→非言語も含まれるコミュニケーション
非同期型で使用する「言葉」
メール、ドキュメント、提案書、データ、プロジェクトツール、チャット
→図などもあるが、使うのは圧倒的に言語。
仕事では特に「言った/言わない」の齟齬や長期プロジェクトでの途中参加でのコミュニケーションロスを減らすためにも、メールやチャットやWiki等で経緯(ログ)を文章化し、残しておくケースは当たり前になったかと思いますが、コロナ禍も重なり直接話をする機会が減ると、非同期型でのコミュニケーションの重要性がこれまで以上に増したのではないかと考えます。
そのような状況下で「ちゃんと伝わらない」「やり取りの手数が多い」といったコミュニケーションロスが頻発すると、双方から「全然伝わらない!」「何を伝えたいのかわからん!」といった小さな軋轢や不信感や伝言ゲームを発生し、クライアントも含めた非効率を招きかねません。こわいです。
では、その「言葉」はどうやって鍛えるのか?
ということで、「言葉の鍛え方」を町田、名村さんとそれぞれ3つずつ考えてみました。とはいえ、課題なんて人それぞれ違いますし、毎度のことながらこれらが絶対解ではないことはご承知いただければと思います。
町田が考える言葉の鍛え方3つ
1. ブログを書く
あくまで壁打ちすることが一番の目的なので、Slackで自分用のチャンネルで書くとかもOKですが、やはり公開型にするのが良いです。できるだけ「誰か」を具体的にし「何を伝えるか?」をイメージしながら言語化し、読み返しながら「いや、これ意味わからんかなー」と自分でツッコミ、添削を繰り返す。これを繰り返し、改善する。
届けたい人が具体的な程いい理由はデザインと似てます。たとえば「自分に近い目線に立つ同期の誰か」や「同じ業界で働くあのひと」や「年齢は少し離れてるけど、この思いを届けたいあのひと」「このことを知ってもらい、分かち合いたいクライアント」など。
2. SNSを使う
バーバルコミュニケーションを鍛えるSNSは、個人的にはTwitterがおすすめです。140文字以内で伝える仕組み上、短い文章で「つまり?」を伝えるトレーニングになります。日々のことで気づいたこと、本の感想、共感した内容を自分なりの言葉に置き換えて言語化するのも良いと思いますし、「いや、それフツーその視点で切り取ります?w」みたいなのも発想のトレーニングになりそうです。
ついでに同業の横つながりもできると楽しさも倍増しますし、伝わる/伝わらないの反応もなんとなく見えるかと思います。
※ただし、同業の人とのコミュニケーションが増え過ぎると、心地よさがある分言語や情報の偏りが生じる可能性が高いので、ある程度「そういう特性もあるよね」と冷静さを持つ必要がありそうです。
3. 人と話す
特に受託型ビジネスの場合、お話する相手は職種も価値観も使用する言語も違ってくるため、専門的な言葉が全く通じなくなります。なので、異業種の人との会話をする機会に自ら飛び込むのは「伝え方」をかなり鍛えられるのでおすすめ。
例えばビジネス軸の異業種交流会や学習系のコミュニティに参加したり、他には恋人やパートナー・家族と話をしながら「これ、どう言い換えれば伝わるだろうか」「よく聞くけど、これってどういう意味?」をわかりやすく伝えるためにどうする?という事を普段の生活に取り入れてみると、少しずつ、確実に言語化力を鍛えることができるのではないでしょうか。
※特に交流会は自己紹介が最初のハードル!「専門用語を使わず、自分がどういった仕事をしているのか」を伝えるのは良い機会になります。
名村さんが考える言葉の鍛え方3つ
名村さんがピックアップされた以下の鍛え方3つは、ディレクター談義でお話した内容やスライドを踏まえつつ、私の方で言語化しました。名村さんがお話された内容そのものではない旨ご了承ください。
1. 無意識で話さない
特に専門性の高い業種の人にありがちなパターンですが、専門職の人が「何気なく使ってる言葉」は、他業種の人にとっては「宇宙語」である事が多く、伝える時にその認識の距離感を意識せずに話してしまうと、最悪の場合「この人は難しいことを言って煙にまこうとしている」「知らないことをバカにしてる」といった悪印象を持たれてしまうことがあります。
できるだけ「この言葉、相手は知らないかもしれない」「この単語はなんとなく理解してるようだけど、認識にズレがあるかもしれない」といったことを意識し、伝えるように心がけると良いと思います。
2. 良い言葉にふれる
人間の感情は環境に大きく影響されるといった事が言われるように、苛立ち・焦燥・罵倒・否定・卑下・嫌味・恨みなどささくれ立った言葉に触れ過ぎていると、次第に環境に適応し(慣れ)て、最悪自分自身もそういった言葉を使うことに慣れてしまいます。
名村さんのメッセージでは、この補足として以下のようにも書かれていました。
ディレクター談義の後日ではありますが、こんな記事をTwitterで見かけました。
スラング的な意味で使った言葉が別の視点で見たときに全く違う解釈になってしまう、講演会で話した内容を悪意的な切り取り方によって真逆の意味で拡散される、といった不幸もありそうですが、いずれにせよそういう類いの言葉を見つけては我先に槍や棍棒を持って襲いかかる機会を今か今かと待ってる人達もいるかもしれない世界を僕たちはサバイブしているのが現代だったりします。
それを考えると、言葉を受け取る側が「受け取る」のか「打ち返すのか」の立ち振舞いの問題もあるかもしれませんが、他人は変えられないので自分を変える。
逆をいえば、ポジティブに変換したり、冷たい言い回しをしたくなった時に少し配慮を加えたり、クッション言葉を加えたりすることが上手くなり、習慣化すると、思考そのものも斜に構えたものではなく「うん。まぁそういうこともあるよね‥」とまるで釈迦のような懐の深さをもつ事も可能となるかもしれませんが拡大解釈かもしれません。
ほかに演劇もおすすめされていました。演技はその人自身になりきる、つまり憑依することで「相手(登場人物)の気持ちになって考える」「自分では持つことがない感情」を意図的に、体を使って取り込む機会なのかと思うと、すごく面白そうです。
3. 文書術を知る
名村さんが3つめにおすすめされていたのは書籍。
どれも実用的な印象ですね(町田は読んでないの。)
あと、名村さん ✕ 文章術と言えば、やはり「誰がどう見てもそうとしか受け取れない文章術」。
セミナー版も、年に数回開催されているとのことなので、課題感を持っている方やご興味ある方はセミナー参加されると良いかと。※概ねドアキーパーで受講受付されるケースが多い模様。
言葉を「道具」として捉え、上手く扱うための学習方法を考える
※ここからは、言葉の鍛え方についてというより「いかにして学習するか」の方法論の話になるので、眠いと思います。
名村さんもよく口にされている「ディレクターの武器は言葉」。
この考えを発展させると「武器」つまり「道具」と捉えられます。そしてその道具もいろんな形があり機能も材質も多彩で、なんなら特定の状況に特化したモノもある(ナイフに例えるとわかりやすそう)。だから入手しただけじゃ扱えなくて、ものによっては初心者向け/上級者向けといったレベルに応じた道具もあります。
この「道具」をいかに使いこなすか。上手く扱うにはどうすればいいか?と考えると「知る」「使う」「考える」を行き来することが大事かなと考え、以下のような図になりました。
1. 知る[input]
道具を知ること。要は知識。とはいえいきなり全てを理解することは難しいし、何より使ったことがない道具は実感を伴わないので理解するには難しい。なので、最初は一歩踏み出すための最小限でいいと思います。なんなら1ターン目は飛ばしちゃっても良い。
※昔、新しいゲームソフトを買った時に家に着くまでマニュアルを見て感じる「書いてあることは分かるけど、触ってないからいまいちよくわからん‥」の感覚に近いなーと思ったけど、最近のゲームはだいたい動画も出てるからそういう昔話よくわからんかもですね‥すみません。
2. 使う[output]
得た知識を用いつつ道具を使ってみる。最初は上手くいかないかもしれませんし、いきなり上手く使えるかもしれません。何にせよ、実際に使ってみることで得られるフィードバックは多いでしょう。
3. 考える[think]
ここが大事。実際に使ってみて「満足した」「もう完璧理解」ではなく、使ってみてどうだった?使いこなせたか、改善点はないか、どこが良くて良くなかったのか。道具は使ったあと、内省(振り返り)することがとても大事です。ただ、いちいちこと細かく振り返るのは難しいので、一言にまとめる程度でも十分かと思います。意識するだけでも大違い。
以上の3ステップをまとめると、入手した道具をただ単純に使い続けるだけでなく、使った後「もうちょっといい方法は無いかな」と振り返り、ステップ1に戻り新しい知識を仕入れ、また実際に使って、また振り返る‥。というこの3ステップを繰り返すことで、道具の熟練度はどんどんと増していくと考えました。
‥と、このサイクルって何か今まで見たモノに似てないか?と思ったきに、2つの学習モデルが浮かんできました。
経験学習
経験学習モデルは、単に経験主義(知識を仕入れず手数で勝負してしまう)な方法ではなく、経験を通じて得た気づきを振り返り、新しい知識を得たりモデル化を試しながら実践をする4つのステップを繰り返すことで、より良い学習サイクルを生み出すという考え。(学術的に誤りがあったらすみません。)
ダブルダイヤモンドモデル
続いては、2005年に英国デザイン協議会で初導入された課題解決方法の1つ「ダブルダイヤモンドモデル」。
まずは「やってみよう!(チャレンジ)」を導入に、4つのフェーズ「探索」→「定義」→「展開」→「提供」で発展と収束を繰り返しながら、アウトプット(結果)ではなくアウトカム(成果)を目指す方法。
日本語で図解されているものもありました。
さらに調べていく中で、学校教育にダブルダイヤモンドモデルを取り入れてみたレポートを見つけました。
主に課題解決やプロダクト開発に使われるダブルダイヤモンドモデルを、「イノベーションを生み出すクリエイティブな思考方法を、学校教育の現場で実践してみると創造性を育む学びに繋がるだろうか?」という問いから実践をされたお話で、非常に面白かったのでご興味のある方はぜひ。
他にもHCD(人間中心設計)プロセスやPDCAサイクルも少し取り上げましたが、まぁ言ってることは概ね同じなのではないかと思うのでここでは割愛。
まとめ
今回のディレクター談義は、少々込み入った話の掘り下げをしまったためにやたらめんどくさーい話に発展してしまったなぁと軽く反省しています。あ、いや内省しています。
と、こんな感じで振り返り記事も長くなってしまいました。おかげで記事公開が次のディレクター談義の1週間前になってしまいました。(軽く宣伝)
ってこんな長ったるい文章書いてたらまた参加者減りそうな‥まぁいいか。