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短編です。

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自作の短い小説、童話をまとめました。
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記事一覧

眠るための廃墟#ネムキリスペクト

 晩夏、万雷の蝉しぐれ。  これで終幕とばかりにがなりたてる蝉に耳を裏返され、雑木林の道…

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我等の騎士と錬金術師{序}#三つの願い

➖序文➖ むかしむかし、ある国のある街のある路地裏に乞食娼婦がいました。 ある時、娼婦は…

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くちばしのある貴婦人#単孔類

◇夜◇  ウピの嗅覚は夜に雑じるいろんな、『廃棄地帯』で起こる悲喜交々を感知した。そこに…

アイウカオ
6か月前
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月と痩せ犬#墓標

「昏燈街で死体が出たよ」 「だからってそれが伯父貴だとは限らないでしょう」 「碌でもない…

アイウカオ
4か月前
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逆/光/遊/歩 #note創作大賞2022

手を繋いで眠りたいだけなんだ。 私にとって恋愛はそういうものだけど。 セックスしないと恋人…

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ベターデイズ2[ショートショート]

裕季の彼女と付き合うことになった。 「信じられねーよ」 初デート(これは裕季と彼女の)の後…

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ベターデイズ[ショートショート]

「唐揚げをお腹いっぱい食べて死にたい」 まさゆきくんのために私は何の変哲もないトリの唐揚げをもりもり揚げていた。 午前中から狭い台所には油の匂いが充満している。 唐揚げだけでなく、ついでに白米とキャベツの千切りに胡瓜とトマトのスライスも添えて出した。 「栄養バランスいいっすね」 と出されたものを頬張りながらまさゆきくんは口をモゴモゴさせた。 「でも今から死ぬのに栄養とか関係ないか」 と平たい声で付け足した。 私はずっと栄養バランスを気にしてきたから、死を目前にしたその解放

昏い森を踊る体/後編[短編]

 常盤さんがその話をしてきたのは、私が比嘉さんに体の左側だけが勝手に踊るという話をした数…

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昏い森を踊る体/前編[短編]

 夜更けにしっとりと降る雨の気配で目が覚める。それはそんな感覚に似ているのだ。 音もなく…

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氷花姉妹[短編]

❄︎月子の告白 夫には好きな人がおりました。 無口で朴訥と言われる夫でしたが、気の優しい…

35

夏休みのえーえん[掌編]

さっそくファンタオレンジのキャップをひねってシュワっといって、その音でもっと喉が乾いてる…

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鏡面人魚姫[掌篇]

読書灯を消して夜を招く。 読みさしの頁の白さは直ぐに溶ける。 部屋は次縹色に浸される。寝台…

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オイスター[短編]

 雪が降って、閉じ込められて、ほんとうの親族が続々とやってくる。               …

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11月の歩兵[短編]

その野をいく。 乾いた風が背をおして、草を搔きわけ、丘陵をかけのぼる。頭上いっぱい、空だけが広がって青い球を内側から見ているようだ。 光はあふれかえって雲はゆっくりゆっくり流れて、空には飛ぶ鳥の影ひとつなくて。 歩兵は独り、ただひたすらに進む。時に胸元まで伸びた草を掻き分け、たいていは膝ほどの麦のような枯れ穂の白茶けた草を踏んで。同じ歩調で、編上げ靴の下でざぐりざぐりと茎の立てる音も同じで、何処までも何処までも草原が、何処までも何処までも青空が繰り出され、背後へ流れてい