しごと⑥「金返せ!」と言ってはいけない
法律制限
金融業を題材にしたドラマや漫画などにおける描写は金融機関のダークな側面として描かれることが多いと思います。
ミナミの帝王、ナニワ金融道、闇金ウシジマくんなど個人向け金融を題材にした漫画では、債権者をあらゆる手で追い込み、時には暴力や違法な手段を使ってでも回収する描写があります。
こういった街金、闇金と呼ばれる違法業者で行われる手段を消費者金融会社が取ることは通常はありません。(個人が行き過ぎた行為をしてしまう場合を除いて)
債権管理、いわゆる取立ては法律によって厳しく規制されているため、違反すると免許取り消しになる可能性があります。
私のいたN社では法律にのっとって以下の制限を徹底していました。
・連絡する時間 =>8時~21時
・連絡する回数 =>1日に3回程度
・言動や行動 =>「返せ」と言ってはいけない。身体的、精神的脅威を与えてはいけない。
通常は電話をかけて、「お支払いが確認できないのですが?」という感じでソフトに伝えると、ほとんどのケースで支払いされていました。
しかし、電話に出ない、支払うと言っても入金が無いというケースもあり、そういった場合には直接訪問して支払いをしてもらう交渉をするのでした。
債権管理に同行
入社も3か月を過ぎたころ、債権管理の現場に同行するようにと支店長から指示があり、債権管理を担当している先輩社員と同行して債務者の自宅へ訪問することになりました。
私の所属していた大宮支店は埼玉県の全域をカバーしていましたので、大宮支店から県内の債務者のところまで車で移動して直接会って支払いをしてもらうのです。
50万円までの保証人が必要ない融資契約は電話での聞き取りや、身分証明書の確認、勤務先の在籍確認などで契約者の信用のみで貸付けできますので、本人がどのような環境でどのような生活を送っているかは直接見ることはありません。しかし、債権管理のために訪問するということは、債務者の生活環境や家族関係などを直接見ることになります。
債務者の実態
・ケース1
20代の債務者で親と実家に同居していたが、本人と連絡取れず、実家に電話して連絡を依頼するも返信無し。登録された住所に訪問すると親はいるが本人はしばらく家に帰っていないという。どうやら、近くの道路に車を停めて、車内で寝ていて、親もあっていないらしく、本人と連絡も取れていない状況。借入について話をすると、他にも借りているうえ返済が滞っていることも知っているが、代わりに払う気はない。ほぼ縁を切っている状態で、連絡してこないでほしいと断られる。
・ケース2
子供2人の4人家族で、妻が借り入れ。自宅も勤務先も電話してもつながらず。自宅に訪問したが、夜遅い時間だが電気がついていない。外から中を見ると部屋の中がゴミだらけで足の踏み場が無い状態になっている。
こういったケースでは居留守を使われることもあるので、電気メーターが動いているかを確認するが、動いていない。
・ケース3
自営業で食品加工工場を経営している老夫婦。債務者である妻がいたが、支払う金額が足りないという。こういったケースでは、最低限利息分だけでも支払いをしてもらう必要があるので、ご近所さんとか誰かに頼めないですか?と交渉する。最終的には、これしかないんですと涙を流して出したくしゃくしゃになった1,000円札を2枚回収。
心境の変化
私は、自分と同年代だったり、家庭をもっていたり、親と同じような年代の債務者のそのような実態を見てかなりの衝撃を受け、言葉を失ったのでした。
そして、そこからだんだんと、「この仕事に意味があるのか?」ということをずっと考えて悩むようになっていったのでした。
そうなってからやっと自分のやりたいことは何なのかを真剣に考えるようになっていったのでした。そして、退職を決意したのでした。
つづく