新型コロナウイルスについて簡潔に解説▶診療現場にいない一般的な知識を有する医師としての見解

この記事は非専門の医師として、新型コロナウイルス感染症に関する考え方をまとめたものです。最新の情報について、また、確実な情報源としては公的機関の情報をご参照ください(本文に理由を記載しますが、公的機関の情報が最も確実です)。また、明らかな事実誤認などありましたらご指摘頂ければ幸いです。

※ (3)に追記があります

(1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とは

ウイルスは DNA または RNA という遺伝子を有し、周囲にこの遺伝子を元に生成される様々な蛋白質をまとっているが、単体では増殖できないという特徴を持つ。生物の最小単位は「細胞」と言われるが、ウイルスは細胞ではなく、生物に含めるかどうかの議論がある(なお、細菌は単細胞生物である)。ウイルスは他の生物の細胞内に入り込んで、他の生物の力を借りることで増殖し、伝播していく。

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コロナウイルスは RNA ウイルスで、多数の種類があり、基本的には普通感冒(風邪)の原因となる。他の一般的な風邪ウイルスとしてライノウイルス、アデノウイルスなどがある。風邪自体は原因ウイルスが多数あり、かつ、基本的に特別な治療を要さず回復するので、薬剤の開発は進んでいなかったし、風邪に抗生剤を用いるのは誤りであるのにしばしば用いられるという医療上の問題点がある。抗生剤はウイルスに対し無効で細菌感染に対して使用するので、風邪に抗生剤を用いるのは続発性(二次性)の肺炎を合併した場合である。また、多数の原因ウイルスが存在し、各ウイルスの中にも亜種が多数あるため、ワクチン開発は困難である。

インフルエンザは、インフルエンザウイルス(RNA ウイルス)を原因とし、普通感冒よりもきつい症状を呈するが、健常成人では通常特別な治療を要さない。しかし、高齢者などのハイリスク群ではときに重症化し、肺炎の合併や死亡例もあるため、抗インフルエンザ薬による治療が行われるほか、高齢者や病院職員などではワクチン接種が望まれる

インフルエンザ以外で重篤な呼吸器感染症をはじめて起こしたのがコロナウイルスの一種であり、2003年の SARS、2012年の MERS の原因となった。この2つは感染がある程度食い止められていたが、今回の2019年の暮れから発生した新規の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)SARS や MERS ほどの死亡率ではないものの、明らかに普通風邪よりも重篤な肺炎を生じる感染力の高い感染症として広がっていった。

(日本で最初に一定のエビデンスがまとめられた本で、当時分かっていた重要なエビデンスが記載されている。現在も基本的な事柄はこの頃と変わっていない。)

ちなみに、岩田健太郎先生の著書は非常に分かりやすく解説がされていますので、オススメです。発言(の仕方)が過激であるために叩かれている場面を多くみますが、基本的に、岩田先生自身は専門家委員の先生方を批判していないですし、専門家委員の先生方も岩田先生を批判していません。感染症診療のプロフェッショナル間では大きな意見の相違はないように思います。批判をしているのは主に外野の自称「専門家」の方々です。


(2)適切な情報選択の重要性について

世界はインターネット全盛の時代を迎えており、様々な情報が簡単に入手できる。そのため、様々な人が様々なことを言い、適切な情報を取捨選択するのが困難となっている。信頼できる情報源は、一番は公的な機関である。厚生労働省のホームページの情報は基本的に事実やデータ、確実に分かっているエビデンスなどを記載しているため、最も信頼性が高い。逆に言えば、ここに載っていないことは、エビデンスが十分確立されていない、推奨されない、フェイク(偽情報)などであり、仮に正しいものであっても、ここに記載されているものよりは重要度が低いと一般に考えて差し支えない。

note 上でも専門家による情報発信がなされており、信頼性は高い。

情報の重要性として、僕自身が過去に記事を書いている。これは「子宮頸がんワクチン」に関する記事であるが、情報の取捨選択に関する考え方は同じである。情報の信頼性は大雑把に言って、①公的機関の情報>②教科書的な確立された医学情報>>③論文などの新規情報>>>>>④その他の情報という感じである。

誰も遭遇したことのない未知のウイルスであるが、既知のウイルスの仲間であり、ある程度の推測などは可能である。今まで何千年の歴史の中で築き上げられてきた医学的知識をベースとして最先端の専門家達の言うことは、そこら辺の素人が語る内容よりも余程価値があると思っている。そのことについては以下の記事で私見を述べている。


(3)COVID-19診療に従事する noter さん

以前の記事でも取り上げたが、改めて紹介したい。現場の意見は診療について考える上で何より貴重である。まず、内科救急医チャーリーさんである。現在 COVID-19 対策に関する記事を作成中とのことであるので、注目していきたい。

【追記(2020/12/20)】
内科救急医チャーリーさんが COVID-19 に関する記事をアップされましたので、僕個人のコメントをこちらに転載しておきたいと思います。有料記事として作成されているので、それをお勧めする文言を僕自身が書いてしまった以上は、それに対する僕個人の感想を述べておく必要があると思い、こちらに追記することにしました。当該記事に関する僕のコメントは以下の通りです。

お疲れ様です。記事拝見させていただきました。たしかにエッセンスだと思います。煩雑で情報量の多いものを読むよりも分かりやすいと思います。しかし、個人的には有料記事にされたことが残念であります。これは善し悪しの問題ではないのでこれ以上は申し上げませんが、医療情報を基本的に無料で提供したいと思う僕とはスタンスが違うと感じました。僕自身がチャーリー先生をオススメした以上は購入して読みましたが(すみません、そうでなければ購入していないと思います)。情報過多の中、「現場を知りたい方」の知的好奇心や疑問点に対して一定の答えを示しているとは思います。しかし、個人的な意見とではありますが、一般市民の感染対策の啓蒙になっているかに関しては疑問です。失礼しました。

(追記、以上)

花留さんは COVID-19 患者の宿泊療養施設で働いている看護師さんである。コロナは単なる風邪ではない、といつも発信してくれている。未だに単なる風邪と思っている方がいるので正直びっくりしてしまう。。


(4)多彩な症状:明らかに単なる風邪ではない

これは医療従事者の多くからしたら明白である。まず感染力について。現在、これだけ多くの人達が感染対策を意識してインフルエンザが明らかに少なくなっている中でも COVID-19 は増加している。日本はそれでもまだ少ない方である。多くの患者が出て、医療体制が追いつかない状況になれば、重症患者は救えなくなる。ニューヨークで行き場のないたくさんの遺体がトラックに詰められている状況を見れば、この事実は一目瞭然だろう。日本はまだ患者総数が諸外国よりも少ないだけである。

症状も多彩である。無症候キャリアと呼ばれる人、軽症、中等症、重症という重症度に応じた分類もある。通常の風邪症状は多いし、肺炎症状もあるが、その他に味覚異常、嗅覚異常、脱毛などなど症状の種類は100以上とも言われている。

僕は病理医なので、病理学的見地からみた症例報告を読む機会があるが、重症例に関しては明らかに風邪ではないし、通常の肺炎とも異なっている。形態的には急性呼吸促迫症候群(ARDS: acute respiratory distress syndrome)に類似し免疫の異常亢進(サイトカイン・ストーム)と考えられるケースから、ウイルス RNA がわんさか出てくるケース、これらが重なるケース、多臓器で血液凝固が亢進して血栓症を呈するケース、心筋に異常を来し心筋炎になるケース、心臓の血管に異常を来して小児で川崎病類似の病態を示すケースなど、病理学的・形態学的にみても症状・病態・表現型の宝箱状態なのである。

軽症・無症状でも画像で肺炎がみられることもあり、若年者(いわゆる若者)で症状は大したことなく回復したけれども、その後の炎症後瘢痕・間質性肺炎を生じて呼吸機能低下を示す例も少なくないようである。こんな事象は通常の風邪では起こらないし、一般の肺炎の後に生じるものよりもひどい傾向があるようである。


(5)感染経路と適切な予防法について

基本的には飛沫感染と接触感染である。空気感染(飛沫核感染)が指摘されているが、マイナー経路と考えられるので、空気感染を必要以上に恐れる必要はないし、対策も困難である。すべての可能性に対して敏感になりすぎるよりも、重要な部分に適切に気をつけることが大事だと思う。それぞれの感染がどのようなものか解説する。

接触感染は、触れたものを介して感染するが、基本的に「自分の手についた病原体が粘膜を介して感染する」と考えると分かりやすい。確かにそこら辺にウイルス粒子が落ちている可能性は否定できないが、それを気にしすぎてもキリがなく、対策のしようがない。靴の裏を舐めたり、そこら辺のものを舐めるような習性がなければ、自分の粘膜に触れるのは基本的に自分の手だけなので、手指消毒をすることで理論的にはほとんどの接触感染を防げる。基本は、石けん+流水による手洗いアルコール消毒である。

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飛沫感染は、空気感染(飛沫核感染)とは異なる。飛沫感染では、病原体が唾液など他の大きな粒子にくっついて構成される「飛沫」により感染するので、実際のウイルス粒子よりもかなり大きい(直径>5μm)。空気中を浮遊する飛沫に自ら大口を開けてアタックしていかなければ、通常は感染するような飛沫を粘膜部分に浴びることは考えにくい。そのため、一般にマスクは感染予防には実際はあまり役立たないとされる。むしろ、マスクの意味としては、飛沫を飛ばさないようにすることが第一義である。新型コロナウイルスに関しては発症前からウイルスを排出することが指摘されているので、その意味で症状がない人でもマスクをする意味はあるだろう。話しながらの会食はその意味でやはりリスクである

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以上が主たる2つの感染経路である。マスクに気を取られて、マスクを頻回に付け外ししたり、マスクをしながら鼻を触ったりというのは、かえって接触感染のリスクを高めるので、できるだけマスクの着脱は最小限にして、手洗いと併せて行うのが良いだろう。マスクによる肌荒れや免疫力低下が一部で言われているが、肌荒れはそれ自体は問題だが感染リスクを高める訳ではないので、気になる方は併せてスキンケアをされたい。また、マスク使用による免疫力低下は十分なエビデンスはないし、理論的にも妥当性にかけるトンデモ論である。

最後に空気感染であるが、これはウイルス粒子そのものなど、非常に微細な粒子(直径<5μm)が飛び、長時間空気中に浮遊するものを指す。空気感染は医師国家試験で麻疹、水痘、結核と3つ覚えるのみである。逆に言えば、この3つ以外は空気感染は原則的にしないのである。新型コロナウイルスのウイルス粒子そのものが空気中を自由自在には浮遊していない。空気感染の対策として N95 マスクが有名である。N95 マスクは医療従事者が直接 COVID-19 患者(疑いを含む)を診る際に必要であるが、それほどの近距離で濃厚な接触でなければ、通常の日常生活では不要である。なお、医療従事者が診療において N95 マスクを適切に使用するにはマスクと肌の間の隙間を完全になくすように「完璧な使用方」をしなければ意味がない。非医療従事者にそのような使い方は困難である(医療従事者でも訓練が必要である)。


(6)PCR を含む検査は目安に過ぎない

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これは、とある Twitter の投稿であるが、一般的な良識ある医師・医療従事者の多くが思っていることである。PCR は万能ではない。PCR 陰性をもって COVID-19 ではないと言うことはできないし、PCR 陽性だから COVID-19 だと言うことも 100% の確度では言えないのである。これに対しては、非医療系で PCR 法などを用いて実験を行う理学系研究者からの反論が多いが、実際の医療現場を知らない完全に的外れな反論である。

PCR 法は DNA を増幅させる方法であるが、コロナウイルスは RNA ウイルスであり、実際の検査では、はじめに RNA から DNA を逆転写し、そこから DNA を増幅して定量的に評価する方法=RT-PCR 法が用いられている。途中の作業が複雑な上に、扱う材料は非常に微量であるので、検査手技自体がそもそも簡単ではない。

検査は一般に臨床検査技師という国家資格を有する専門職が行うが、臨床検査技師のカバー範囲は多岐に渡り、PCR を適切に行える人材は多くはないピペットを扱う技術も通常は講習が行われるようなものであり、臨床検査技師の中でも、特に正確に検体を扱う技術が要求される。しかし、そもそも日本は多くの医療職が足りておらず、臨床検査技師も当然まったく足りていない。全自動 PCR 検査機の話があり、これについては導入の意義は個人的にはあるような気はしているが、詳しくないので分からない。どちらにしても機械を用いても、それに合わせた各種試薬の調製や機械メンテナンス、トラブルシューティングなど、臨床検査技師は必要である。

なお、PCR 法は現在最も信頼性の高い検査であるが、絶対ではない。岩田先生も PCR 自体が無意味だとは言っていない。PCR を盲信する「PCR 原理主義」に反対なのである。これは初期から言われていることだし、そもそも医療上の検査を行う上で基本的な考え方なのである。

検査で 100% の正確性というのはまずあり得ないので、検査の限界(感度、特異度)を十分認識した上で、症状や病歴、他の検査の結果などを総合的に考えて対処することが重要である。

実際の診察において「検査値や画像ばっかり、パソコン画面ばっかりみて、ちゃんと診察してくれない」という状況に不満を持つ患者さんは多いだろう。その通りである。患者さんの背景、身体所見を含めて全体を診ないとより正しい診療はできないだろう。それが一転、なぜ PCR のことになると、「PCR 検査をしてくれ」となるのであろうか。不思議な矛盾だ。PCR 検査は絶対ではない。患者さんの背景や文脈に応じて解釈しないと意味をなさない。ましては、素人が自分で採取した検体でどれだけの信頼性があるのだろうか・・・不思議なのである。それよりも自分にできる確実な感染対策を行うことの方が余程重要なのである。

なお、海外留学中の友人や海外の医師の話を聞く限りでは、PCR を行う政策の違いはあっても、医療現場での PCR の用い方において日本と海外で基本的に差はない


(7)受診や治療、ワクチンについて

まず、受診について。政府の GoTo の施策など疑問を感じることはあるが、受診に関しては是非政府の方針を遵守してほしい。どんなルールがベターかという議論はさておき、それ以上に、一定のルールに従って受診がなされることの方が重要だと思うからである。医療現場は逼迫している。僕のいるような地方都市でも、そういう状況になってきている。報道される新規感染者以上に、たくさんの疑いの受診者がいて、病床数が MAX に達していないと言っても、医療現場は通常運転の状況をすでに遙かに超えている。だからこそ、一定のルールを守りつつ行動して欲しいと思う。

治療について。これは現在も現場レベル、研究レベルで模索中であり、何が本当に正しいのかなんて分からない。治療に関しては詳しくないが、最初の訳の分からなかった状態よりも、戦い方は分かってきていると思う。しかし、人工呼吸器や ECMO などの高度医療資源には限りがある。これらによって一命を取り留める患者は、今後このキャパシティをオーバーすれば漏れなく助からなくなる。そうすれば一気に死亡率は上がることを理解してほしい。

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ワクチンに異論を持ち懐疑的な人、ワクチンを福音かのように思っている人、様々だ。正直に言って、これはきっと誰にも分からない。通常はワクチン開発に何年もかかるのが、この数ヶ月で何とか開発されている。それは今の医療状況が特殊だから、これだけの期間で開発されていることは素直に前向きに捉えていいと思っている。ただし、確かに実際の効果や副作用などについてがこれからの検証が必要である。現時点で開発されたワクチンの良し悪しを判断することは困難である。この逼迫した状況だからトライしていかざるを得ないであろう。治療法もワクチンも今後さらに発展していくことを願うしかないし、そのためには進んでいくしかないという状況だと思う。


(8)最後に

疑問点などあれば分かる範囲でお答えしますので、コメントいただければ幸いです。情報は確度の高い順に重視していく必要がありますが、世間では根拠のない話も玉石混交の状態です。分かっていること、分からないこと、僕の能力として分からないのか、一般的に医学知識として分かっていないのか、それを踏まえて可能な範囲でお答えします。変に不明なことをあたかも正しいかのようには発信しないように気をつけますが、誤りがある場合には根拠を添えてご教授いただければ幸いです。

今回の記事はコペルくんwithアヤ先生アドベントカレンダーの企画で作成したものです。他にも医学・医療に関連して扱いたい項目はたくさんありますが、なかなか記事を仕上げるのにもエネルギーが必要です。また、12月に入り感染者が増加している現状を鑑みて、今この話題を僕の記事でも発信する必要があると感じていました。どうか、客観的な情報をより重視して行動するよう気をつけていただければ幸いです。


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