吉田秀和「LP300選」(「名曲三〇〇選」)講読・鑑賞支援(No.1〜20)
(「宇宙の音楽」 〜 マショー)
この回の前置き
全体の前置き記事(上記参照)でも触れましたが、『LP300選』の最初の方の曲目は、次の二つの資料がほとんど「占領」する感じになっています。そして、その二つとも、今ではネットで読んだり聴いたりできます。
・「MM」と略されている「Masterpieces of Music Before 1750」=「音楽史 : グレゴリオ聖歌からバッハまで」
・「HMS」と略されている「History of Music in Sound」=「耳による音楽史」
そういう次第で、以下のリストも、その2資料に大きく依拠する形になります。
また、それ以外の動画については必ずしも「音楽史」的に厳密ではないものもあるかもしれませんが、悪しからずご了承ください。
No. 1- 20
(MM,HMS収録曲については書籍の関連ページも付記しました。)
1 『宇宙の音楽』
(宇宙に遍在? なお、下は関連作品?)
柴田南雄「立体放送のためのミュージック・コンクレート」"Musique Concréte for Stereophonic Broadcast"(1955)
次のページ(オンラインCDショップ?)から試聴コーナーに入れますが、30秒だけなので、あんまりよく分からないです(^_^;)。https://sound3.buyshop.jp/items/72396932
ヒンデミットの歌劇「宇宙の調和」"Die Harmonie der Welt"(世界の調和)(1957)
(パス)
2 『グレゴリオ聖歌』
レパートリーの広さで知られるCDレーベル、NAXOS。その子会社にあたるナクソス・ジャパンがグレゴリオ聖歌集の動画をいくつかあげてくれています。
その中から一つ。
その他、YouTubeを検索すれば、たくさんの動画が見つかることでしょう。
なお、グレゴリオ聖歌を全て録音しようという(?)「GradualeProject」という YouTube チャンネルがあるのを見つけました。
気になる方はチャンネル登録されるといいかも。
(正しくは「現在の Graduale である "Graduale Romanum" に含まれる全ての聖歌を録音する」ことを目的としているそうです。私には、その意味するところがよく分からないのですが、ざっくり「グレゴリオ聖歌の全曲録音」に近いものであろうかと受け止めています。)
また、「MM」「HMS」にも当然サンプル曲が入っています。
3 ノトケル(Notker [Balbulus])のセクエンティア "Sancti Spiritus assit nobis gratia"
(聖霊の恵みわれらとともにあらんことを)
HMSより、第2集https://archive.org/details/lp_history-of-music-in-sound-volume-ii-ea_various
……のチャプター6の2曲目。
(上の画像が全て表示されるまでは、音の再生が始まらないようです。また、チャプターを飛ばしたい場合、チャプター1から▶で一つずつチャプターを進めていかないと、うまくいかない感じです。以下、同様。)
耳による音楽史 第1-3 …… p79。
4 トロープス「墓場に誰を求めているのか」 "Quem Quaeritis in Sepulchro?"
(巻末リストに「セクエンティア」とあるのは明らかに誤り。)
HMSより、第2集のチャプター8の1曲目/p83。リンク自体は 3番 に同じ。
※ここの本文で、伝「チェラノのトマス(Thomas de Celano)」作のセクエンティア「怒りの日 "Dies irae"」について触れられています。上記「GradualeProject」が歌唱をあげてくれているので、この Project の演奏見本の意味も兼ねて、ここに貼っておきます。
5 オルガヌム「天のあるじ、波さわぐ海のあるじよ」 "Rex Caeli, Domine maris undisoni"
また、MMより。次の資料だとチャプター6ですが……
下の動画(同音源のよう)の方がずっと音が良いので、以下はこちらを使います。
音楽史 : グレゴリオ聖歌からバッハまで …… p33。
6 レオナンの二重オルガヌム「神をおそれよ」"Deum time"
(動画の1分30秒より)
上の動画には一応、時間指定も入れましたが、うまく機能しない場合は、動画から直に時間調整をしてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=dYNYjaBRhXU
この録音も、「LP300選」が参照した演奏そのもののようです。
=Safford Cape 指揮、Pro Musica Antiqua of Brussels による「Music of the 12th & 13th Centuries」(EMS 201、1951年)
7 ペロタンの三重オルガヌム「処女」"Virgo"
(動画の7分47秒より)
録音等の説明は 6番 に同じです。
https://www.youtube.com/watch?v=xGFUfIvOdJY
・どうやら、この曲は今では「ノートルダム楽派」(作者不詳)のオルガヌム "Virgo flagellatur" という扱いになっているようです。研究に進展があったのかもしれませんが、詳しいことは分かりません。
8 ペロタン「アレルヤ」(Alleluia, Nativitas)
次のものは Deller Consort の1960年の録音のようです。
次のものは、ベストの演奏とは言い難いですし、短時間のクリップですが。
この種の「古楽」は良い録音で聴くとがらっと印象が変わったりするものです。そんなことを、若干ながら感じ取れるのではないかと。
またMMより。
上述の参考リンクではチャプター9。
音楽史 : グレゴリオ聖歌からバッハまで …… p39。
9 《13世紀のモテット》(En Non Diu!-Quant voi-Eius In Oriente)
MMより。
参考リンクではチャプター10。
音楽史 : グレゴリオ聖歌からバッハまで …… p44。
10 ゴリアールの音楽「ヴィーナスの生写しの君よ」 "O admirabile Veneris idolum"
HMSより、第2集のチャプター9の1曲目/p85。リンク自体は 3番 に同じ。
11 宗教歌ラウデ「無慚な口づけを嘆こう」"Plangiamo quel crudel" 及び 「おお、天の処女」"O divina virgo"
廉価CDで著名な Brilliant Classics が上げている長尺動画に入っていました。
公式がつけているトラックリストが全く間違っているのですが、幸いコメント欄に正しいリストをつけてくれている人がいます。
"Plangiamo quel crudel basciare" が 01:46:59 から。"O divina virgo, flore" が 04:32:59 から。
後者については、次のような動画もありました。
さらにまた、HMSでは第2集のチャプター12の4曲目(無慚な〜)と3曲目(おお、天の処女)/p98,p97。リンク自体は 3番 に同じ。
12 ベルナール・ド・ヴァンタドルン(Bernart de Ventadorn/Ventadour)の歌「雲雀が……」"Quan vei l'aloete"
またHMSより、第2集のチャプター9の2曲目/p86。リンク自体は 3番 に同じ。
13 ガス・ブリュレ(Gace Brulé)の歌「私には出来ない」"Je ne puis pas"
HMSより、第2集のチャプター9の3曲目/p87。リンク自体は 3番 に同じ。
14 コラン・ミュゼ(Colin Muset)「冬がもどってくるのをみると」"Quand je voi yver"
またHMSより、第2集のチャプター9の5曲目/p88。リンク自体は 3番 に同じ。
15 プロヴァンス地方のルフラン「恋の心をもつものは」"Tuit cil qui sunt"
HMSより、第2集のチャプター10の2曲目/p90。リンク自体は 3番 に同じ。
16 ティボー・ド・ナヴァール(ティボー四世 Thibaut IV)「わが望みのすべて」"Tuit mi desir"
Wikipedia では「テオバルド1世 」。
この人は、音楽だと「Thibaud de Champagne」(シャンパーニュ伯)の名で出てくることが多いみたいです。王様ともなると、いろいろな名前があって、どうも紛らわしいです。
曲はHMSより、第2集のチャプター10の3曲目/p91。リンク自体は 3番 に同じ。
17 モニオ(Moniot d'Arras)「五月だった」"Ce fut en mai"
(動画の一曲目)
もう一つ。雰囲気を楽しむ感じで。
巻末リストの記載では「Music of the 12th and 13th Century の中から、米国盤 EMS 210(廃)」。
(参考)
巻末リストのこの箇所で「No.3〜17」について、次のようなコメントがあります。
「これらのレコードは全て廃盤になっている。ただしその中でトゥルバドゥールに関しては、《トゥルバドゥール中世恋愛詩人の詩と音楽》と題するいいレコードがある。クレマンチック・コンソートの演奏 V-VIC 2290〜2。」
18 アダン・ド・ラ・アール(Adam de la Halle)のシャンソン「ロバンとマリオンの戯れ」"Li Gieus de Robin et Marion"
次のリンクは Safford Cape による1956年の録音。巻末リストの記載とは番号に食い違いがある感じですが「1番から16番まで」収録というのはこの盤のことではないかと。
https://archive.org/details/lp_le-jeu-de-robin-et-marion-13-rondeaux-1_adam-de-la-halle-pro-musica-antiqua-saffor
またHMSより、第2集のチャプター10の1曲目/p89(抜粋)。リンク自体は 3番 に同じ。
巻末リストの記載では
米国盤 Decca Archiv 3002(全曲盤)(廃)。
Grammophon の《アルヒーヴ・レコードによる音楽史》には1番から16番までが収録されている Archiv EPA 23(廃)。
《中世ヨーロッパの世俗音楽》に入っている。 K-SL7002 or ドイツ盤 Telefunken SAWT 9504。
19 ナイトハルト(Neidhart von Reuental)「時は五月」"Mayenzeit"
(なお、推薦盤は6番,7番と同じ「EMS 201」ですが、こちらは動画では見つかりませんでした。)
(参考)
ここの本文でHMSにあるフラウエンロープ(Frauenlob / Heinrich von Meißen)の作品(Leich)についての話が出ます。HMSの抜粋は「われは王座の上に見たり」という箇所だそう。
第2集のチャプター11の2曲目/p94。リンク自体は 3番 に同じ。
20 マショー(Guillaume de Machaut)「わが終わりはわが初め、わが初めはわが終わり」"Ma fin est mon commencement, mon commencement est ma fin"
(この曲の演奏としては「一風変わっている」かも。でも、こういうのもアリかなと。)
また、HMSより、第3集https://archive.org/details/lp_history-of-music-in-sound-volume-iii-a_various
……のチャプター2の1曲目(抄録っぽい?)
耳による音楽史 第1-3 …… p150。
※この曲(「わが終わりはわが初め」)にしても、その他の曲にしても、あるいは、この先に待っている300番までの全ての曲についても当てはまることですが。
曲名や作曲者名で検索すれば、きっといろいろな記事や動画が見つかることと思います。
それは、当該曲がヒットすることもあれば、同じ作曲家/同じ時代/同じ演奏家の動画が出てくることもあるでしょう。
そういったところを入口に、知見を広げていくのも、たいへん「LP300選」的なのではないでしょうか。いろいろ試してみることをおすすめします。
※それから──他で書いたことと矛盾するかもしれませんが──MMやHMSはさすがに古すぎ、音が悪すぎ、作品の概要は教えてくれても、その真価を感得できる感じではないことがしばしばです。
「LP300選」のような本の最大の恩恵は「自分の知らない《名曲》と出会わせてくれる」ことにあるはず。退屈な印象が先立つようでは、その点むしろ逆効果ですらあるかも。
古楽の演奏には大きな進歩もありましたので、もっと新しく、生き生きとした演奏をCDやサブスクに探すのも大いにアリでしょう。