マンモグラフィーを受けた男子大学生
大学の夏季休暇で実家に帰省していたときのことだったと思うが、僕はマンモグラフィーの検査を受けたことがある。
検査のきっかけ
20歳ごろになってから、それまで脚くらいしか生えていなかった体毛が、鼻の下にもヒゲが生えてくるようになり、僕は体毛をなんとか減らせないかと考えた。
安い脱毛器では効果を感じることができず、内側からのアプローチに目をつけた。そこで見つけたのが、サプリ「プエラリアミリフィカ」である。
※商品のリンクは「Amazon.co.jpアソシエイト」のものです。
※実際に飲んでいたのは、同名だけど別の商品。
このサプリは、女性ホルモンと同じ働きをしてくれるものであり、Amazonで外国産のものを取り寄せて2ヶ月ほど摂取していると、身体に変化が起きた。
乳首の上のあたりに硬いものがあるのである。そして触ると痛い。(たぶん、これがしこりというものだろう)
うつ伏せで寝ると、胸が床に当たって痛くて眠れない。洋服もタイトなものを着ると服がこすれるたびに痛かった。(当時はまだスリムな服が全盛で、オーバーサイズなんて売っていなかった)
と、日常生活に支障をきたしたので、母親に相談することにした。母には、「なぜそんな得体の知らないものを飲むのか」とひさびさにキレられながらも、大学病院に行くことになったのである。
大学病院での問診
車で母親に連れて行ってもらい、僕は一人で病院に入った。事情を説明すると、女性のお医者さんがやってきた。
プエラリアミリフィカのことを僕が説明したところ、お医者さんは「なぜ飲んだの?」と質問をしてきた。「体毛が嫌なので」と返答する。数秒のあいだ彼女は考えたあとに「ひょっとして性同一性障害とかそんな感じ?」と聞いてきた。(当時はまだその言葉が出て、2年ほどだったと思う)
正直その時は、自分でもイエスなのかノーなのか分からなかったのだが、そのときはとっさに「いやー、たぶん、そんなんではないと思いますよ」と曖昧な答えをしたように記憶している。
真正面のストレートな球を投げてくるなあと恥ずかしくなった。
診察、そしてマンモグラフィー
診察室ではまず触診をされた。室内は先ほどの女性のお医者さんと僕の2人だけである。気を使ってくれたのかも知れない。
その後、念のため胸のしこりが大丈夫なのかを検査しましょうということになり、エコー検査とマンモグラフィーを受けることになった。
マンモグラフィーの検査室に入ると部屋の中央に器械があるだけで、1人ぼっちだった。前々からものすごく痛いという話だけは聞いていたので、びくびくしながら器械のところに行く。
機器が胸の肉を挟んでくるのだが、すごい圧迫感がある。
先ほどのお医者さん曰く、痛さはお胸の大きさに比例するらしいので、痛みは怯えていたほどではなかったが、すごく締め付けてくるため、胸が苦しくて気持ち悪くなったことをよく覚えている。
検査後の診察でかけられた言葉
検査の結果はめでたいことに異常はなかった。お医者さんが言う。「このプエラリアミリフィカは分からないことが多く、男性が長期的に飲むとどういう副作用があるかを断言できない。」(このサプリは、まだ市場でそこまで見かけなかった時期である)
「サプリをやめれば胸のしこりはいずれ消えると思う。もし飲み続けるのであれば、定期的に検査をした方がよい」と。
僕はそれを聞いた時に「飲むことを止めろ」とは言わないんだなと思った。
飲むのをやめた場合、飲み続けた場合の条件分岐は示されたが、例のサプリを飲むこと自体は否定はしないのだなと。
僕はその言葉を聞いたときに、胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。つまり、嬉しかったである。
自分の意思を可能な範囲で尊重してもらえた気がした。積極的な賛成ではなかったと思うが、そっとしておいてもらえた感覚。それがたまらなくありがたかった。
後日
病院から帰ったあとのこと。
母親に「身体が心配だから頼むからやめてくれ」と数日にわたって何回も懇願されたため、結局プエラリアミリフィカを飲むのはやめることになった。
のち、胸のしこりもすっかり消えて、健康な日々に戻ることになった。
しかし、10年ほど経った今も、乳がんやマンモグラフィーのニュースを聞くたびに、あのときのお医者さんが、自分の意思を尊重してくれた言葉を僕は思い出すのである。
ジェンダーのことにしろ、他の自分の価値観では納得できないことにしろ、積極的な賛成ではなくとも他者を尊重することができるのだと感じた出来事だった。
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