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バレンタインにブルーバレンタイン

酔狂なもので、私は別れを描いた映画がそこそこ好きだ。結末に「別れ」を描いた作品は洋の東西を問わずいくらでもあるけど、お互いが選んだ離別の過程をじっくり描いたものはそう多くはない。

この手のジャンルで、個人的に代表作だと思っているのが、社会問題化する離婚と親権のゆくえを描いた『クレイマー、クレイマー』。

ダスティン・ホフマンがよい。


そして、社会的に成功した演出家と女優夫妻の離婚劇を描いた『マリッジ・ストーリー』の二作である…


と思っていた。

しかし、ここにきて第三の代表作と思えるものに出会った。


去るバレンタインの夜に、『ブルーバレンタイン』という映画をみた。

例によって本作もカップルが別れる。というかもはやそれがメイン。

末期的な関係に陥ったとある夫婦の現在形に、ふたりの初々しい馴れ初めとアツアツな時期との過去形がクロス物語が、ライアン・ゴズリング&ミシェル・ウィリアムズの温度差凄まじい名演によって紡がれている。

さて本作、上にあげた二作の別れの映画とはだいぶ違った角度に挑戦している。

それは圧倒的な生々しさと、庶民派感覚だ。

あくまで印象にすぎないのだけど、離別が主題であるかにかかわらず、離別が物語の根幹をなすような映画の多くには共通点があると思っている。

それは、お互いにどこか心にスキマがあって、それがカップルのすれ違いを生んでいるというもの。経済的な余裕ではどだい埋められそうにないようなスキマ、である。

言うなれば「お金で愛は買えない」的な。

そのようなプロットは、金銭に余裕のあるハリウッドの人びとにとって、めちゃくちゃわかりみの深い話なんだろう。
だからこそ、ハリウッドでウケるし、ウケるから世界に売り出されているのだと思う。

けど、本作は金もなければ希望もない夫婦が主人公。
ふたりが付き合いたての頃だって、「望まぬ妊娠」と向き合うなかでの生活に晴れ晴れしさなんてものはなく、なにかから逃げるように、おびえるように付き合っている。
そのため、本人たちのアツアツのシーンでも、画面の前にいる私たちには、違和感みたいなのがずーっと漂っている。なんなら、そもそもこの人ふたり相性よくないでしょ、とさえ思ってしまう。

だから、正直観ていて共感もできないし、あまり心地よいものではない。

でも。

現実ってわりとこんなもんでは?とも思う。
世の中そこまで希望に満ちてない。見たくない現実だらけ。
実のところ相性も良くないのだけど、本人たちはそれを見て見ぬふりし続けている…というような。
本作はそんな「エグい」カップルあるあるを、一組の別れから描き出している。

というか、エンディングからして、リアルさを飛び込えて恋愛そのものをおちょくっているようにみえる。絶対制作陣の性格悪い。

本作、カップルで観てはいけないとか言われているが、私としては逆だと思う。
下の記事の方が述べているように、この映画に触れることは、自分たちの関係性を見つめ直すいい機会になると思う。

やっぱり、子育てがカップル(夫婦)によって事実上担われている以上、世のなかのカップルには平和的に生きてもらわないとな、とつねづね思う。だからこそ、定期的に関係性と問題点を見つめ直す機会を設けたらいかが?と。

これは単なる老婆心。

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