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大恩人のノンデリに冷めちゃった事件


最近は”蛙化”なんて言葉もありますが、人間、気持ちが冷める時は一瞬なんだなあと。そんな風につくづく実感した事件の話です。


入社して1年近く経ち、上場企業のブランド力もあって会社の売上は飛躍的に向上。僕も集客チームの一員として、会社の中でも多少は存在感を出せるようになりました。

これには会社に誘ってくれた営業(シゴデキ君・27歳)も鼻高々です。
金曜の仕事終わりにはほぼ毎週サウナに行き、「次はどんな仕掛けをしようか?」と前向きに話し合うように。向こうは当たり前のように家族同伴で、若夫婦+かわいい息子+ナゾのおじさんという謎パーティーでワイワイ遊ぶ日々が続きました。

会社のエースとして同世代には気を張っているシゴデキ君も
「俺って、nemuさんにどう見えてます?まだ伸びしろありますかね?」
と僕には健気な質問をしてくれたり。
あらためて、(可愛げのあるやつだなあ)なんて思ってました。

ただ――何事もうまくいきかけた時がない事も危ないもので。
恒例のサウナタイムでまさかの事件が起きたのです。
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2人とも髪を乾かして、服を着て。
脱衣所にある長椅子でなんとなくだべっていた時でした。スマホの写真を色々見せあっていたとき、僕の頭にある考えが浮かんだんです。
彼になら妻の写真を見せてもいいかも、と。

僕は基本、会社の人に私生活を晒さないので、これは極めて珍しいこと。ただ向こうは家族一丸でつき合ってくれているし、もう少し深い付き合いにしても良いかな……と思ったわけです。

「これ奥さんなんですよ」
すっとスマホを差し出す僕。

対するシゴデキ君の反応は、
「へー、なんかよさそっすね。さて出ますかー」
だけ。ほんの一瞥しただけで、嫁待たせてるから~と足早に脱衣所を出ていったのです。

グシャッ。
胸の奥で何かが壊れた音がしました。


事件は会議室じゃなく、足立区の銭湯で起きた!


僕はその後、体裁上は普段通りに過ごしましたが、帰りの電車内でシゴデキ君にLINEメッセージを送りました。
今後、もうプライベートで会わないと。

意味、分からない人もいますよね。
分からなくてもしょうがないと思うんですよ。

もちろんノンデリ日本代表のシゴデキ君に理解できるはずもなく、LINEで「一方的すぎて納得いかない」と喧嘩腰で反論してきました。
でも、僕の中では人生最大級の萎え感があったんです。自分が意を決して心を晒したタイミングで、あれだけ流せるのってなんなんだろう。その時点で根本的に会わないんじゃないか?って。

いや僕ら夫婦もいい年ですし、”超かわいい”とか”お似合いですね”が欲しかったわけじゃないですよ。あまりにナチュラルな無関心、近所の犬の写真見ても同じ反応なんじゃないか?ってくらいの軽い反応に、自分の中の何かがはじけてしまったんです。

この子にとって僕はあくまで人材で、人間じゃないんだなと。

最寄駅から自宅までの道ではミニミニ走馬灯が回りました。
シゴデキ一家の支度を待つために駅で1時間以上も待ったり。
小さな子どもが食べられるメニューのあるお店を一緒に探したり。
それまで何の押しつけがましさもなくやってきた善意が、反転バカバカしい自己犠牲に感じられてしまいました。
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メンヘラ対ノンデリ。
不毛なLINEは週末まで続きました。

「俺はnemuさんの奥さんに興味ないんじゃなくて、嫁に呼び止められたから行っただけです!俺は自分の嫁が大事なんで!」

「LINEで長文とか嫌いなんですよ!腹割って話しましょうよ!」

相次ぐシゴデキ君の言い訳を見るたびに
「この子の言葉って全部、自分の感情ファーストだなあ」
と僕の心はシニカルに一刀両断するばかり。
あんなに濃厚ジューシーだったのに、まるでケンタッキーの皮と肉みたいにパッサリと乖離した僕らの関係。

全然違うから、いい。
全然違うから、ダメになる。
元々違って当然なのに一発でこうなってしまうなんて。

それから半年以上も、僕らはプライベートで口をきかなくなりました。


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