【書評】伝記『イーロン・マスク』悪魔か、救世主か
自分の意思を貫くことと、他者に共感することは、究極的には相反するものだと思う。私を含め、ほとんどの人はそこを誤魔化して、バランスをとって生きている。イーロンが凄いのは他者全てを犠牲にすることを厭わないこと。
『スティーブ・ジョブズ』でも有名なベストセラー伝記作家ウォルター・アイザックソン氏が二年間密着取材して書き上げた話題の伝記『イーロン・マスク』を読みました。数々の偉業とはた迷惑な行動の裏に一貫する「人類を救う」という"使命感"。一方で他者には一切共感せず、自分にも他人にも「進化の痛み(リスク)」を求める"残虐性"。謎に包まれたイーロンの人間性が明らかになる悪魔的名著でした。
上下セットで4,800円と伝記にしてはちょっと高く、ボリュームも凄いことになっていますが、密着取材や関係者へのインタビューで明かされる濃厚エピソードが満載でイーロンファンなら絶対に買いです。「イーロンが上司じゃなくて良かった」と幸せを噛み締められること必至です。おそらくですが、いずれ映画化されることになるのではないでしょうか。
日本語訳は様々なテック系書籍の翻訳で知られる井口耕二さん。多岐にわたる技術的な内容も多いにも関わらず、翻訳本とは思えないほど読みやすかったです。イーロン・マスク公認に関わらず、信じられないことに本人のチェックは一切入っておらず、いいことも悪いことも全て怖いくらい赤裸々に書かれています。
この記事では私の感想、レビューをまとめます。
ウォルター・アイザックソン『イーロン・マスク 上(文藝春秋)』
ドMリスクジャンキー誕生秘話
共感性を喪失し、自分にも他人にも痛み(リスク)を求めるドMリスクジャンキーはいかにして誕生したのか…!? 本人公認なのに忖度抜きで悪口ばっかりだし、行動ヤバすぎて伝記なのに全く学びにならない。イーロンファン必読です!
絶対一緒に働きたくない
社会人なら背筋が凍るブラックエピソード連発で胃が痛くなり、途中からファンタジーだと思うことにしました。上巻の後半は、エネルギー革命(Tesla)と宇宙開拓(Space X)を同時進行で進めるの狂気じみててヤバいです。そして常に強い「痛み(リスク)」を欲している。自分にも他人にも。
一切ブレないビジョン
Twitterで奇行見てると忘れがちだけど、改めてイーロンは圧倒的なビションを持つ「思想家」 だからこそ偉業をいくつも成し遂げたし、成すべきことを成す為にはX騒動のようにユーザーに痛み(リスク)を強いることは「仕方ない」どころか「必然」なんでしょうね。
遂に明かされるイーロンの行動原理
あとイーロンの行動原理として凄く面白いのが、個々の人間に対しては共感性ゼロなくせに、「再生可能エネルギーで人類を救う(Tesla)」とか「火星に移住して人類滅亡リスクを減らす(SpaceX)」とか、あくまで人類全体のために行動してるところ。
リスクをとれない者は創業者にはなれない
上巻で一番印象的だったエピソードが、共にSpaceXを立ち上げた天才ロケット技師ミューラーをスカウトするときに、給料2年分を要求されたので創業者扱いしなかったエピソード。
「リスクをとれない者は創業者にはなれない」じゃないよ! イーロンが気分でクビ切りまくるからでしょ!
ウォルター・アイザックソン『イーロン・マスク 下(文藝春秋)』
人類を救うためなら何をやっても大体許される
遂に明かされるイーロンの行動原理。意外ッ! それは「俺が人類を救う」ッッ!!! (※ただし個々の人間の感情は一切理解できないものとする) 人類史に残る数々の偉業と、大迷惑な奇行・地獄のパワハラは表裏一体。悪魔的伝記でした!
マクロな人類への愛とミクロな人間への共感の欠如
マクロな人類への愛とミクロな人間への共感の欠如。この二つが矛盾なく成立してるサイコパス感がイーロンたる所以なんでしょうね。並の天才達?の心がガンガン折れていくのがヤバいです。
人類全体の利益の最大化
ロシアへの攻撃阻止のためにクリミア半島のスターリンクを止めた件。どっちつかずに見えるこの行動からも、イーロンの行動原理「人類全体の利益の最大化」が見えてきます。それにしても、個人なのにロシアにもウクライナにもホットラインあるの凄すぎる。
イーロンの得意技
イーロンの得意技の共通点として浮かび上がってくるのが、①超絶優秀で、②イーロンに絶対服従し、③昼夜を問わず無限に働くエンジニアだけを集めた少数精鋭チームをマイクロマネジメントして他者には真似出来ないイノベーションを無理矢理起こすこと。(例:Tesla、SpaceX)
イーロンの苦手分野
逆にイーロンの苦手分野は、天才だけでは作れないものだとわかってきます。要は、少数精鋭チームや自動化ではなく、大人数の社員による労働集約的な作業が求められる製品。ソーラールーフもTwitterも、圧倒的なものを作れば勝手に売れるという訳でなく、地道な営業やモデレーションが差別化の肝だということですね。
意味不明なツイートの裏側が赤裸々に明かされる
ここ2年間イーロンのツイートを追いかけてた私としては、それぞれのツイートの裏でどんな事件が起きてたのか、詳しく解説されて目からウロコの滝流れでした。気に食わないジャーナリストを凍結したり、自分の為に新ルール作ったり、絶対やっちゃいけない事のオンパレード。
地獄のパワハラフルコース
下巻は全体的に、イーロンのパワハラエピソードが満載過ぎて胃がキリキリと痛みます。
翻訳者の井口耕二さんに『メタバース進化論』読んでもらっていてめちゃくちゃ嬉しかった件
⚡ ⚡ ⚡