隣に猫。寝っ転がって星を見た。観光客が帰った後の瀬戸内の島
男木島へ行った。
瀬戸内海に浮かぶ、香川県高松港からフェリーで40分の島。
猫の島として愛されている男木島を初めて訪れたのはたしか2013年。
去勢/避妊手術を受けた60匹の猫たちがごはんをもらいながらのんびりと暮らし、観光客に甘える姿を楽しめるのは猫好きとしては天国だ。
猫がたくさんいることだけであれば他の島や地域でもいいかもしれない。
しかし特別なイベントがなくともふらっと行きたくなる、そんな男木島の魅力は豊かな自然にある。
高松の建物や明かりは、高松港と男木島の真ん中に位置する女木島に隠れており、男木島から見えるのは豊島などご近所島の数々。
穏やかな瀬戸内海と離島、それらが男木島の離島感をアップさせている。
とある秋の日、私は初めて男木島へ泊りがけで行った。
どうしても男木島の夜を体験したかった。
17時すぎ。
17時に高松港行きの最後のフェリーが出発し、日帰りの観光客はいなくなり、島全体の空気が緩んだ。
太陽が沈み始め、空へ黄金の光を輝かせていた。
桜の満開や金木犀の香りが一瞬で去ってしまうように、夕陽の一番美しい瞬間はあっという間に来ていなくなってしまう。
一緒に夕陽を眺めていた島のおじさんが穏やかに、誇らしげに言った。
「線香花火の最後みたいでしょう」
これ以上にぴったりな表現はなかった。
夕陽の最後の最後、一番小さく輝いている明かりは線香花火が最も美しく明るく光る、あの真紅だった。
夜が更け、晩ごはんを食べた後の20時。
半袖だと鳥肌が立つが、長袖に薄手のカーディガンをはおると音をたてずに吹く風が心地よい。
私は海岸まで歩いていき、堤防の上であおむけになった。
隣で猫がごはんを食べている。そっと触れると身体のぬくもりを感じた。
右耳からは虫の凛とした鳴き声が聞こえた。
左耳からは波が岩にぶつかり弾ける音が響いていた。
目には星が煌めいている。
しばらく目を閉じてみた。
よく自然の中に入ると自分の悩みがちっぽけに感じる、なんて言う。
しかしその時の私は「男木島に行きたい」という思いだけでバスを予約し、フェリーに乗って男木島でのTo Do なんて一切考えずに来たことをただただ肯定した。