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ネムノキとうつつをうたた寝

日没が迫る島で、私は今日も、ネムノキの葉を確認した。日中は、鳥の羽根のように並ぶ小さな葉が開いていたが、今は閉じている。

だらりと力なく垂れている葉に触れようとして、伸ばした手を引っ込めた。気持ち良く寝ているのに、起こしてしまっては可哀そうだ。ネムノキから離れ、波打ち際に向かって歩く。

誰もいない島には、ネムノキがたくさん自生していた。大陸の至る場所で酷い戦争が起きている間にも、この島には静かな眠りの時間が流れていたのだろう。



真夜中になった。いつも通り、砂浜に大の字に寝転がる。今日は雲が少ない。星が詰まっている夜空がはっきり見える。星の名前など1つも知らないが、美しいということは分かる。

美しい、という感覚は、何のために植えつけられたのだろう。私は、戦争のために作られたロボット兵士だった。来る日も来る日も、美しさとはかけ離れた光景を見続けた。

夜空に、一筋、何かが光った。次々に、光の筋が増えては消える。星だろうか。あれは、なんと言うのだろう。私を作った人間に、できれば天文学の基礎知識もプログラミングしておいてもらいたかった。戦闘には必要ない知識と判断されてしまったのだろう。

敵軍への罠として仕掛けていた時空転移装置で、私は、この無人島にワープしてしまったらしい。あの罠にかかった物体は、人工的に作られた時空の落とし穴にはまり、二度と出てこれないはずだ。装置が故障していたのだろう。結果的に私だけ、この島に置き去りにされた。

この島に飛ばされてから、もう数年は経過したが、ロボットや人間とは会えてはいない。海の向こうの大陸からずっと、爆発音が小さく聞こえていたが、半年前から聞こえなくなった。そして、大陸中が煌々と燃え始めたのだ。

おそらく、石油精製工場だろう。大陸中にある工場が燃え上がっていたのだ。人間が、工場を放棄してしまった。そうせざるを得ない状態になったのだろう。それは、つまり、絶滅。

がばっと上体を起こし、両目を強くつむる。ああ、また眠れなくなってしまった。

石油精製工場は、約1ヶ月間、燃え続けた。炎が消えた後は、2ヶ月間、黒い塵が空を覆い、太陽を隠した。この間に私の身体は壊れるだろうと、思っていた。私も生物と同じように、太陽光からエネルギーを得ている。二ヶ月も光を浴びなければ、確実に機能停止するはずだった。

ネムノキも枯れてしまうだろうなと思いつつ、砂浜で体育座りの体勢になり、ぼんやりしていた。しかし、太陽光が差し込んできて、私の意識は冴えてきた。ネムノキも、少し元気が無かったものの、生きていた。

私の身体は特別頑丈なので、数千年は動くだろう。きっとこの先も、静かで膨大な時間が流れていく。命令を下す人間は、消えてしまった。何をしたらいいのだろう。どうしたら、いいのだろうか。

”ネムノキっていう木の不思議な葉っぱ、知ってるか?”

仲間だった人間の兵士の言葉を思い出し、立ち上がった。ネムノキの近くまで歩く。砂に足を取られて、転びそうになった。

ネムノキは、やはり葉を閉じて眠っている。

名前は思い出せないが、東洋人だった、と思う。テントの中で待機している時、急に話しかけてきたのだ。その頃の私は、任務で必要になる知識以外は持っていなかった。

なぜか、ネムノキの魅力や特徴について力説された。夏に羽毛のような、淡いピンク色の花を咲かせるのだとか、実家の庭に立派なネムノキがあって、近所で有名なのだとか。当時は困惑した。しかし、あれは彼なりに緊張を和らげようとしていたのだと、今は分かる。

その後すぐに、別行動になった。あの彼はどうなったのか、知らない。また嫌な想像をしそうになって、ネムノキの葉に触れた。

「……君たちみたいに、眠れたらなぁ。私たちは眠れないんだ。ずっと起きてるには、長すぎる夜だよ」

やっぱり眠っているネムノキの葉の根本には、小さい綿毛のような花が一輪、咲き始めていた。


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水月suigetu
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