デッドフレイを泳ぐ錦鯉
口笛を吹きながら泳いでいたら、湖の底にしっかり根を張る木にぶつかりそうになった。身体を捻らせて回避する。
今日の夜はやけに明るい。水面からすぼめた口を少し出す。ぽってりと浮かぶ満月をぼやける視界で眺めた。
はくはくと息をして、乾いた冷たい空気の味を確かめる。じっと、月を見つめた。
僕はもう500年ここにいる。最初は仲間がたくさんいた。泳ぐ速さを競い合ったり、カラフルな鱗の数を数え合ったりした。でも、すぐに皆は骨になって、その骨も消えた。
独りでも僕は楽しく過ごしてきた。ずっとこのまま。それでいい。でも、月が照る日には、何か、変わる気がするのだ。変ってしまう。変わらなくては。
焦燥感に急きたてられて、僕は全身に力を込めた。満月に向かって、一気に力を放つ。僕の身体は、高く高く跳ねた。
アフリカから絵はがきが届いた。いつも通り、一切言葉の無い絵はがきには、滑らかに広がる砂漠が写っている。写真の中央には、乾いた純白の湖底も。
無事の帰りを祈りながら、湖底を撫でた。
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