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もぐらのペンタグラム・タイル
丹念にこねた土を、並べた五角形の型に入れていく。空気が入らないように、しっかりと。全ての型の表面をならして、ほぅと息を吐く。
作業が一段落して、僕はしゃがみながら自分の盛大に汚れた両手を眺めた。僕の手はいつもこうだ。この、もぐらのトンネルの中では気にならないけれど。
土色の壁一面にめり込んだ、大きな丸い時計の長い針が、もうかなり動いている。そろそろ、次の作業に取り掛からねば。トコトコと僕は歩き出し、外の釜で焼き固めたタイルを保管している部屋に入った。
床に広げた形も色も様々なタイルから、僕は次々と目当てのタイルを手に取る。そして、木の板の上に配置していく。今回のメインは、少し大きい黄金色の五角形のタイル。そのタイルを囲むように、三角や四角、六角形のタイルをバランスよく並べる。
よし。出来た。タイルを板に固定して、タイルとタイルの間を充填剤で埋めていく。
出来上がったばかりのタイルの絵を背中に乗せて、体に縛りつけ、僕は部屋を出て走った。途中、他のもぐらとすれ違う。それぞれのもぐらと「おはよう」と声をかけ合った。僕たちもぐらの、唯一の挨拶の言葉。
目的地に到着した僕は、トンネルの壁にタイル版を張り付ける作業に没頭した。
「おはよう。精が出るねぇ」
お爺ちゃんもぐらの声が後ろから聞こえた。僕のタイルを初めて褒めてくれたもぐらだ。今も、ほぼ唯一のファンでいてくれている。
「おはよう。お爺ちゃん。今回のはどうかな。面白い?」
「うんうん。良いねぇ。特に五角形のタイルの色が。際立ってるよ」
嬉しい言葉にニヤニヤして、僕は仮止めしたタイル板から離れた。お爺ちゃんの横に立ち、トンネルの奥から延々と続くタイルの絵巻物を眺める。
所々にアクセントとして配置した黄金色タイルは、星のつもり。日が暮れないと外に出られないもぐらの空は、いつも夜空だ。
はっきり見えないけれど、僕は空にたくさんの優しい黄金色の星があると知っている。感じ取れる。こうすれば、皆も、きっと、いつか星を感じることができるだろう。
「お爺ちゃん、これからも絶対、僕、タイルを作って張ってるよ。もぐらのトンネルの壁を全部、夜空にするまで。誰に馬鹿にされても、止めらんないんだもの。怖くなるくらい、楽しくって仕方ないんだ」
「ああ、そうしたらいい。ワシをずっと面白がらせておくれよ」
僕とお爺ちゃんは、ニヤッと笑った。
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