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天の羽衣、まれに来て

レトロモダンな雰囲気の小さいショーウィンドウに飾られた、複雑に輝く白いストール。驚きで、見つめたまま固まった。

亡き祖母のストールと、同じ。

8年前に祖母が亡くなった後、行方不明になった美しい純白のストール。同じものが売られていないか随分探したが、結局見つからなかった。

それが、今になって。旅先で。

奇跡の発見に感動した後、我に返って、値札と財布の中身を確認した。


「いらっしゃいませ」

障子のようなデザインが施された引き戸を開けると、視界に無数の色が押し寄せてきて、少したじろいだ。カラフルなストールが、四方の壁全体に展示されている。

大正時代の小さいカフェのような外観からは想像できないほど、店内は広い。陳列棚にも、ストールがぎっしりと並んでいる。

「何かお探しでしょうか?」

奥の陳列棚を整えていたエプロン姿の女性が、声をかけてくれた。

「あの、ショーウィンドウにあったストールなんですが。あれを1つ、頂きたくて」

「ああ、プルマージュストールですね。ありがとうございます」

女性は忍者のように、店の奥に消えていった。店内をぐるぐると見渡す。ストールしかない。


「お待たせいたしました。こちら、ホワイトカラーのみの商品なのですが、よろしいでしょうか?」

「はい。大丈夫です。……あの、このお店って、ストールしか置いていないんですか?」

「ええ、当店、『天衣無縫』では、様々な作家の手作りストールを扱っております。この商品は、布からこだわって手作りされている地元の作家さんの商品なんです。今日、やっと入荷できて。とても希少なストールです。お客さんはお目が高い上に、ラッキーですね」

にっこりと笑う女性は、光沢のある純白のストールを丁寧に畳む。揺れるストールに、一瞬、七色の光が走った。



我が家に帰った日から、家にいる間は、白いストールをまとっている。

秋になると、祖母は決まってこのストールを使っていた。このストールをまとっていると、中秋の名月の真夜中に、天に帰った恋しい人と少しの間、おしゃべりできるのだとよく言っていた。

祖母は冗談や悪戯が好きだったから、親戚たちはその話を信じなかった。しかし、私は本当だったような気がしてならない。その話をする時の、少し寂しそうな祖母の表情が目に焼き付いている。

今日は、ついに中秋の名月。畳んだストールを枕元に置いて、準備完了。電気を消して、布団の上に寝転ぶ。

ススキとかお団子とかも、置いておくべきだったか。考えている内に目蓋が重くなってきた。

うとうとしてきた頃に、枕元が異様に明るくなる。あっという間にストールがふわりと浮き、私の横で動き出した。

ゆったりと回転したり波打ったりと、踊るような動きを見せたストールは、一瞬強く光った後、祖母の姿になった。元気な頃の、普段のそのままの姿。

「おばあちゃん……」

「けいちゃんは、信じてくれたのねぇ。ありがとう。ストール探すの、大変だったでしょう。あのストールは、持ち主と一緒に天に帰るから、残してあげられなかったの。ごめんね」

「おばあちゃんは……誰に会ってたの?」

「ふふふ、誰かしらねぇ」

「やっぱり……おじいちゃん?」

「どうかしらねぇ」

はぐらかしてくるおばあちゃんの声が、おかしくて懐かしい。笑いと涙が同時に出てきた。

「眠いでしょう。もうお休み、けいちゃん。呼んでくれれば、また来年も会えるから」

まだ起きていたいのに、目蓋が重くなる。

祖母の姿は発光するストールに戻っていく。再び舞い始めたストールの端が、私の頬をするりと撫でた。



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水月suigetu
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