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フリーズタグの希望
もうどのくらい走っているだろうか。
苦しくてたまらなかった呼吸が、妙に落ち着いている。いわゆる、ランナーズハイか。長距離走とは縁の無い人生だったから、神秘的に感じる。
足を止めずに、後ろを振り向く。「キ」は追いかけてきていない。遠くに影も無い。走る速度をゆっくり落とす。ついに立ち止まって、握り締めていたコインロッカーのカギを眺める。
あの恐ろしい不死身の化物、「キ」を消滅させる道具が入っているというコインロッカーの、カギ。電車も人も消えて、錆と植物の楽園になった駅に行くのはリスキーだが、塵のような希望も今は貴重だ。
路上には、「キ」に襲われて精巧な蝋人形のようになってしまった人間が、たくさん放置されている。
「キ」に少しでも触れられた人間は、そのままの姿で動かなくなる。亡骸?はずっと腐りもせずに、そのまま残される。地面としっかり接着されていて、移動させることもできないらしい。
やっと目当てのコインロッカーに辿り着いた。胸を高鳴らせながら、鍵を回す。ロッカーの中には、柊の葉がぎっしりと詰まっていた。
失望しながら、柊の葉を掴む。硬い葉の尖った先端が、掌に刺さった。無性に腹が立って、両手で葉をごっそり掴み取り、そのまま路上に走り出る。また一人、マネキンにしていた「キ」と目が合う。
柊の葉をぐしゃぐしゃに丸めて、「キ」に投げつけた。柊の葉がひらひらと情けなく舞って、視界を塞ぐ。
近づいてきた「キ」は、駅員になっていた。私の肩に手を置いた駅員は、心底楽しそうに笑っている。
「はい、あなたが次の鬼ですよ」
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