死にたい夜に読めばいい
爪切男さんの「死にたい夜にかぎって」を読んだ。
SNSやネットで評判が良かったのでずっと気になっていた作品だ。
ドラマ化もされている。
幼い頃母に捨てられ、愛を求め愛に翻弄される主人公が
幾人かの女性と出会い、そしてアスカという最愛の女性と結ばれ、最高にエキサイティングで無駄な6年間を綴ったお話である。
なんだこれは!!
ページを捲る手を思わず止めてしまうほど、しょっぱなから大暴走だ、飛ばしている。
冒頭、いきなり6年間生活を共にした最愛の女に振られ、
学生時代の回想シーンでは学校一可愛い女の子に呼び出され
告白されるのかとウキウキして向かうも、顔ダニ退治のためと称した
謎の儀式でビンタをされる。
「君の笑った顔、虫の裏側に似てるよね。」
というとんでもないパワーワードのプレゼント付きで。
この一言はその後もずっと彼の心の奥底に積もり続ける。
初体験は出会い系で知り合った車椅子の女性。
幼い頃母親が家を出てしまい、母を知らない彼は祖母のおっぱいを吸って生きてきた。
格闘家で厳しい父はのち、逮捕される。
こんなにネタに溢れる人生ならば、
落ち込んだり不貞腐れている暇なんてないのかもしれない。
呆れなのか笑いなのか共感なのかー。
最低でカッコ悪くてどうしようもない人生だけれど、
最強に楽しくて変態で無駄な生き様。
優しさと情けなさと哀愁のトリプルコンボ。
いつ何時も楽しみを見つける才能があり、どんなに辛いことがあっても
「まぁいいか」と苦しいことに鈍感な主人公は健気だが力強い。
生暖かい春の風みたいに、気持ち悪いのにどこか心地いい、そしてかすかに高揚感を感じる。
アスカよりも愛せる女性に出会えたかい?
そんなことを考えていたら、いつしか私の死にたい夜を越えていた。