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ワインの第3の風味はコハク酸?
~知られざる味わいの正体に迫る~
はじめに
みなさん、ワインの味わいを決める要素として何を思い浮かべますか? 多くの方は、アルコール、酸、タンニン、糖分などを挙げるでしょう。しかし、実はもう一つ重要な成分があることをご存知でしょうか。そう、旨味です。これまで、何度か書いてきたのですが、今回は、実験してみました。
コハク酸とは何か?
コハク酸は、アルコール発酵の初期段階で酵母によって生成される有機酸です。一般的な食品添加物としても使用されており、酸味付けや風味増強の目的で活用されています。
今回、ワイン中のコハク酸の具体的な濃度を測定することができました。
ちょっとびっくりする値だったので、そもそもコハク酸の濃度が高いとどうなるのか、確認してみたい気持ちになりました。
そこで、実験してみました!
実験:コハク酸がワインの味わいに与える影響
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使用したワイン
銘柄:ピーツ・ピュア ソーヴィニヨン・ブラン(オーストラリア・マレーダーリング産)
購入場所:ローソン
インポーター:エノテカ
ベースワインのテイスティングノート
香り:やや弱め
カモミール、芝
レモン、ライム
マンゴー、パイナップル、メロン、パッションフルーツ
レモンピール
味わい:
高い酸
短いアフター(約2秒)
わずかなアミノ酸的甘味とうま味
コハク酸添加実験
以下の濃度でコハク酸を添加し、テイスティングを実施:
① 1.0 g/L(強)
② 0.5 g/L(中強)
③ 0.2 g/L(中弱)
④ 0.1 g/L(弱)
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実験結果
1.0 g/L添加
劇的な味わいの変化
柑橘系果実味が著しく増強
トロピカルフルーツの風味は消失
アフターが2倍程度に延長(約4秒)
0.5 g/L添加
苦みの出現
柑橘系(特にグレープフルーツ)の風味増強
トロピカルフルーツ風味の減少
0.2 g/L添加
明確な苦みの存在
パイナップルとグレープフルーツの苦みが共存
0.1 g/L添加
オリジナルとほぼ同様の風味特性
ワイン中のコハク酸含有量:最新の研究から
2023年の研究によると(参考文献1):
Saccharomyces cerevisiae(一般的なワイン酵母)
生成量:200 mg/L~2 g/L
その他の酵母
通常の生成量:0.3~0.95 g/L
特定の株(Metschnikowia pulcherrimaなど):1~2 g/L
興味深い発見:コハク酸の閾値
研究によると、人間がコハク酸を感じ始める閾値は4.8mg/Lとされています(参考文献2)。これは実際のワイン中に含まれる量(200mg/L~2g/L)と比べるとかなり低い値です。つまり、普段、ワインを飲んでいる時に、コハク酸は味わっていることになります。
旨味であるグルタミン酸は、閾値よりもずっと低い値なので、ワイン単独でグルタミン酸の旨味を味わうことはできません。
まとめ
コハク酸は、ワインの味わいに大きな影響を与える重要な成分であるようです。
私が実験した結果では、
柑橘系の風味増強
苦味の付与
アフターの長さへの影響 など、がありました。
コハク酸は、様々な側面でワインの個性を形作っている可能性があります。グレープフルーツのような風味の正体が、実はコハク酸である可能性もあるかもしれませんよね。ワインの味わいの複雑さと奥深さを改めて実感させられる結果となりました。
コハク酸の実測値については、整理中ですが、近くアップしたいと思います。
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下記記事は、ピーク値になりますが、コハク酸の測定結果を書いています。読んでいただけると嬉しいです。
参考文献
1.Torres-Guardado R, Rozès N, Esteve-Zarzoso B, Reguant C, Bordons A. Succinic acid production by wine yeasts and the influence of GABA and glutamic acid. Int Microbiol. 2024 Apr;27(2):505-512. doi: 10.1007/s10123-023-00410-9. Epub 2023 Jul 27. PMID: 37498437; PMCID: PMC10990983.
2.栄 養 と食 糧 Vol. 25 No. 2 83~88 1972有機酸の化学構造と酸味閾値との関係について多 田 ひろみ,小 林 昇,岡 本 奨