モノと物語 #1:僕のじいちゃん
また来てしまった。
僕はため息をつきながらいつもの絵の前に立った。
日本から留学に来ていたルームメイトがどうしても行きたいと一緒に行ったメトロポリタン美術館で、この絵のことを思い出したのだ。
「これ、僕のじいちゃんにそっくりなんだよ。」
「マジで?髭すげえな。」
その時はそんな会話をしただけだった。
大学を卒業し、ニューヨークで働くようになってからもたまにここに来ている。というより、自然と足が向いてしまうのだ。
絵の中のじいちゃんはダンマリで、僕が何かを問いかけても答えてくれないが、それが寂しくもあり、少しありがたくもある。
人と関わるのは比較的好きな方だが、たまにはただ話を聴いてほしい時もある。
今日はそんな日だ。
人間誰しもそんな日があるのではないだろうか。
「じいちゃん、今日は昔みたいに頭を撫でて欲しくて来たんだ。もういい歳の大人だけど、たまには良いだろう?今週もしっかり働いたんだ。」
心の中でつぶやいた。
じいちゃんのつぶらな瞳が「仕方ないなぁ。」と言っているような気がした。
その時だった。
「あの…この絵、好きなんですか?」
一人の女性が声をかけてきた。
「あぁ、はい。」
僕は素っ気なく答えた。
「私もなんです!この、クリクリの瞳が可愛くて。」
女性は切れ長の目をキラキラさせ、僕のじいちゃんのチャームポイントを褒めた。
「先月もいらしてましたよね?長いことじーっと絵を見ていたので、気になってしまって。」
どうやらこの女性は先月も僕を見かけたらしい。
月に一度来るか来ないかのこの場所で、2度も会うなんて珍しい。
「じいちゃん、これは仕事を頑張ったご褒美かい?」
粋なじいちゃんのやりそうなことだ。
そう思いながら、僕は絵に向かって心の中でつぶやいた。
いつも最後までお読みいただき、ありがとうございます。
モノと、そのモノの周りで起きる一瞬の出来事をショートストーリー「モノと物語」として描いています。
古いものも新しいものも、モノがあるということは物語も無数にあり、面白いですよね。
書いてほしいモノがありましたら、コメントにて教えていただけると嬉しいです。
書けそうなモノから物語を綴っていきますね。
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