【ドラマ感想】『らんまん』 ★★★☆☆ 3.1点
「日本の植物学の父」と呼ばれる実在の植物学者・牧野富太郎を題材とした作品。幼少期から植物へ並々ならぬ関心を抱いていた少年・槙野万太郎は植物学者になるために東京へ上京する。東京大学植物学教室へと出入りするようになった万太郎は、自身の夢である日本の植物をすべて網羅した植物図鑑の出版に向けて邁進する。
本作の主人公・槙野万太郎は植物学において他の追随を許さぬ天賦の才を有し、かつ、自身の意志を決して曲げない我の強い人物として終始一貫して描かれている。そのため、万太郎のキャラクター性は作中スタート時点からほぼ完成されており、彼の成長は作中を通してほとんど描かれることはない。
むしろ本作でその人生や生き方を大きく変化させていくのは、槙野万太郎と出会う他の登場人物であり、いわば、超人・槙野万太郎という触媒が引き起こす周囲の人間の化学変化が描かれていると言える。
例えば、万太郎の妻・寿恵子の場合、万太郎との出会いによって、人生の目標を見出し、万太郎を支えるためにその商才を開花させる。一方、万太郎を東京大学植物学教室へと引き入れた教授の田邊彰久は、万太郎の類まれなる才能への恐怖と嫉妬から身を貶していく。
主人公が周囲の人物を振り回していくという構図自体は、連続テレビ小説においてはスタンダードなのだが、本作の特異な点は、この超人によって引き起こされる他者への影響の功罪をフラットな視点で描いている点であろう。
それが故に、作中で明確に万太郎とぶつかり合う人物が作中に登場しなくなる終盤は、物語の推進力が若干落ちてしまった感が否めない。本作終盤では太平洋戦争という大きな時代の変化が描かれる。
これは、これまで自身は変わらず周囲を変化させてきた槙野万太郎が、ついにその超人性を持ってしても曲げられぬ戦争という大きな社会のうねりにぶつからなければならないという局面なのだが、こういった万太郎と戦争とのぶつかり合いが本作では尻切れトンボになってしまっており、この点が残念なところであった。
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