BL/百合営業はクィアベイティングなのかをただのVTuberオタクが考える記事
初めに
今回の記事では、複数のコンテンツについて触れますが、それら全てのコンテンツを私は愛しています。
誹謗中傷の意図は全くなく、むしろ、面倒くさいオタクの私や、私と似たような思考回路を持つ人々が、これからも安心して好きなコンテンツを推していけるように、言語化を試みるものです。
私は、ただのクィア当事者であるだけのオタクであって、何かしらの機関や組織に属している訳でもなければ、研究をしたり、論文を読み漁っている訳でもありません。
また、海外VTuberについて触れていますが、私は日本語以外にネイティブ並みに理解できる言語を持っていないので、何かしらの勘違いがある可能性を否定できません。充分に気をつけていますが、その事を念頭に置いてください。
今回の記事には、2つの前もって書いた記事がありますが、
VTuber界隈のオタクは、恐らくわざわざ読む必要はないです。
VTuberのオタクに向けて警告しておくと、"中の人"という単語をはじめとしてメタな話題が多く出ます。苦手な人はブラウザバックをしてください。
前2回の記事では、単語の解説などもしているので、今回の記事で「ん?」と思われることがありましたらご一読を。どちらもそんなに長い記事ではないので。また以下の記事から時間が経ち、今とは多少考えが変わっている点もあります。人間なので、ご了承いただけましたら幸いです。
自己紹介がてらののクィアベイティング言語化企画その1
パンセクオタクのクィアベイティング言語化企画その2
VTuberとは
流石にこの記事に辿り着く人は、皆んなVTuberの定義はご存知だと思うのでVTuber自体の説明は省かせていただくが、この記事を書くにあたって、触れておかなければならないのが、「中の人」の存在だ。
私だって、VTuberのオタクなので触れたくはないが、このテーマを設定しようと決めた1年前から迷って迷った結果、触れなければならないなと思ったので、触れる。
VTuberはフィクションキャラクターを中の人が演じているのか否か、そこに中の人のパーソナリティはどこまで反映されているのか。
それがこの記事を書く前提にある大きな質問だと思う。これは、VTuberが誕生した時からずっと話題になってきたし、最近ではこれがテーマで論文が出ている。ここでは、この質問に答えを出すことはないが、こういう疑問が漠然とVTuber業界全体にあることを頭に入れた上でこの記事を読み進めて欲しい。
VTuberと恋愛とセクシャリティ
VTuberには事務所所属の企業勢VTuberと、個人で動いている個人勢VTuberがいる。今回メインで触れるのは、企業勢VTuberである。
企業勢VTuberの多くは、現在進行形の恋愛の話をしない。(例外的に、婚活をしている話や、すでに結婚している話などを話題に出すVTuberもいる)
多くのVTuberは今パートナーがいるかどうかの話題はほとんど触れず(またはパートナーは居ないと否定し)、過去のエピソードトークや、願望の話や、仮定の話をする。
これは「解釈の余地」をオタクに与えてくれているのだと私は考えている。所謂、ガチ恋勢や、shipper、その他、特定のパートナーがいて欲しくない層へのファンサービスとして、「解釈の余地」を与えてくれて、好きに二次創作や妄想やその他のオタ活をしやすいようにしてくれているのだと思う。
そんな中でも、自身のセクシャリティを公言してくれているVTuberは複数いる。
それはやっぱり、過去の恋愛に関するエピソードトークや、「好きな異性のタイプ」などの定番質問が投げかけられうる中で、嘘をつきたくないから公言してくれるんだと思うし、公言することで同じクィアなオタクを勇気づける意図もあるのだと思う。実際私も、そういうVTuberたちに救われたことがある。
残酷な質問
VTuberのオタクではない人は、ここまで読んできて、ある疑問が浮かぶ人もいるかもしれない「そのセクシャリティって本当なの?」と。「オタクが喜ぶからキャラ設定としてゲイだ/レズだ/バイだって言ってんじゃないの?」と。
酷だ……
自分で書いておいてすごくダメージを受けているくらいには酷だ。
クィアなVTuberには2種類いると思っている。
公式説明文に明示があるタイプ
1つ目が、所謂、「男の娘」だとか、「中性キャラ」「おもしろオネエ」みたいなアニメやゲームの中でよく見るキャラを再生産する形で存在するVTuberだ。公式説明文などでそれらが明示されているVTuber。大抵はジェンダーアイデンティに関わる部分である。
そもそもVTuberは「アニメやゲームなどの2次元フィクションコンテンツに登場するキャラが、リアルにいて、オタクとコミュニケーションとってくれたら嬉しいな……」という願望を叶えるために生まれてきたような側面がある。
VTuberが生まれたのが2016年。今VTuber業界を牽引する2大事務所が動き始めるのが2018年。
今でこそ、雑にクィアキャラクターを登場させると問題があると言われることがあるが、その当時の日本の、とりわけ2次元コンテンツの周囲には、そんな風潮はほぼほぼなかった。
そのために、2次元コンテンツで一定層の人気がある性別を超越したキャラを再生産する形でバーチャル空間に彼らが生まれたのは自然なことだと思う。
とはいえ、彼らをクィアと呼べるかどうかは微妙なとこである。元ネタに当たりそうな2次元キャラたちをクィアと呼ぶことは少ないだろうし、VTuber本人らがそう呼ばれることを否定することもある。
彼らがそう呼ばれるのを否定する意図を完璧に理解することは難しいが、おそらく、クィアではないノンケのオタクたちに向けて、現実世界に実在するクィアとは違う文脈で存在することを主張するために一線を引いているのではないかと思う。
現実社会で、「日本は昔からLGBTに寛容」論を主張する人たちは、テレビなどのマスメディアで活躍するオネエやゲイがいることを主張の根拠にすることが多いが、彼らがマスメディアに露出が多いからと言って、日本社会がクィアに寛容な社会とは言い難いのは今日の日本社会を見れば明らかだ。
VTuberの彼らは、現実に存在するクィアとは違う存在だと主張することで、そういった主張の根拠にされることを避けているのではないだろうか。特にVTuberはテレビに出演するタレントに比べると双方向性があるので、よりパラソーシャル関係に陥りやすい。そんな中で彼らがクィアだと、トランスジェンダーだと言うことで「知り合いのトランスジェンダーが言ってたんだけどさ」とオタクが言い出すこともあり得る。これは本当に危険なことで、下手したらトランスヘイトなどの材料になり得る。そこまでの事態には陥らなかったとしても、彼らがトランス等の代表だと思われて、そのトランスジェンダー全体が彼らと同じだと勘違いされる可能性は大いにある。
そんな事態は避けたいはずである。
もう1つ、彼らがクィアであると言わない理由としてシンプルに「中の人がクィアじゃないから」がある。中の人の存在が(公式的には)明らかになって居ないし、明らかになる可能性もほぼほぼ無い中で、この主張をすることは適切ではないのかもしれないが、可能性の1つとして提示しておく必要がある。
中の人がクィアじゃないなら、現実社会に存在するクィアとは違う存在なことは分かりやすい。おそらくは、先述した理由よりはこの可能性が高い。
そもそもクィアじゃないから、クィアじゃないのだ。
彼らが行なっていることが、クィアベイティングにあたるかどうかで言うと否であると私は考える。寧ろ、現実にいるクィアに対して線引きをするなど丁寧な配慮がなされた上で活動しているように私は思う。
公式説明文に明示がないタイプ
公式説明文とは関係のないところで自身がクィアであると公言するVTuberは割と多くいる。特に、海外のVTuberに多い。
そういったVTuberらが設定としてクィアだと語っているようには、配信を見ている限りでは思えない。
先ほども触れたが、過去の恋愛に関するエピソードトークや、「好きな異性のタイプ」などの定番質問が投げかけられうる中で、嘘をつきたくないから公言してくれるんだと思うし、公言することで同じクィアなオタクを勇気づける意図もあるのだと思う。実際に、プライドマンスに寄付を呼びかける配信やクィアを勇気付けるツイートなどを行なってくれたりしている。
つまり、自らのセクシャリティについて(悩んでいる状態を含めて)公言すること自体はクィアベイティングにあたるとは言えないと考えている。シンプルに事実を伝えているだけだから。
BL/百合営業
1番問題なのが、仲の良さをアピールするBL/百合営業だ。
これは、難しい話だ。
ハグまではOKとか、一緒に遊びに行くことを「デート」と呼ぶのはどうこうとかそんな話をしだしたら、きりがない。
人間関係の構築の仕方はさまざまである。
恋愛と友情の境目をつけないクワセクシュアル(クォイセクシュアル)クワロマンティックの人だっている。
多様な人がいる中で、「(メンバー間で)こういう行動をしたからクィアベイティングだ!」とは言えないのではないかと思う。ハグだろうが手を繋ぐだろうがキスだろうが、互いの同意があればオタクの見えるところでやってもクィアベイティングにはならないのではないだろうかと私は思う。
ビジネスや営業などではなく、友人と友情の上でキスなどをしたいと思って、それに互いが同意している可能性があることをただのオタクでは判断ができない。また、オタクの見えないところで本当に恋愛関係になっていて、何かしらの理由により表にできない中で、どうにか表に出てきた仲の良さが結果としてBL/百合営業とみなされてしまっている可能性も0%ではない。
オタクとしては、どんな関係性であれ、メンバー間のありのままの仲の良さをオタクの前でも見せてくれたらそれでいいし、そう信じたいが、そうともいかないのであろう。
ともかく、仲良しアピール(BL/百合営業)ではクィアベイティングとは言うのは難しいのではないだろうかというのが私の見解だ。
明確なクィアベイティング
本人のセクシャリティや性自認に関することや人間関係に関しては、外から見ることしかできないオタクが「クィアベイティング」と非難するのは慎重になるべきという話をここまでしてきたが、1つだけ明確なものがある。
「結婚」だ。
現在の日本では、同性カップルに法的な効力を持った婚姻制度は存在していない。同性婚の法制化を目指して、多くの当事者やアライや弁護士が動いている真っ最中である。
同性婚が法制化されていないがために、過去から現在に至るまで、様々な悲しい出来事が日本中で起こっている。
そんな中で、同性同士で「結婚しました」「結婚します」などのワードを用いて人を呼び込む行為は非難されるべきだと考える。
当人同士が本当に付き合っていて、同性パートナーシップ制度等を利用することをそう宣言するならもちろん問題はない。
だが、大抵はそうではなく、エイプリルフールなどのエンタメ要素として、知名度を上げたり売り上げを得るためなどの商業的な目的で使われる。
今なお、同性婚が法制化されていないことで苦しんでいる人たちが存在しているのにだ。
人を呼び込んだ先で、「とは言いましても、今の日本では法的に認めれられた結婚はできないので、法制化に向けての署名に賛同してください」などの活動があるなら賛否両論が起こるとは思うが許されるかもしれない。
そうでもない限り、同性メンバー同士で「結婚」というワードを使って人を呼び込む行為はクィアベイティングにあたると私は考える。
オタクの視点に立ってみても、本気で2人が末長く仲良くしていくことを願いながらずっと応援いたら公式から「結婚」というワードが出されて、「パートナーシップ宣誓したのかな」とワクワクして本当にご祝儀を包む気持ちで詳細を見たら、エイプリルフールの嘘だとか、妄想だとか、釣りだったときの気持ちを考えてみて欲しい。
それこそ、Queer‐baiting、クィアネスを餌にして純粋に2人の仲を応援する気持ちのオタクを裏切った訳である。
どんな関係性であれ、メンバー間のありのままの仲の良さをオタクの前でも見せて欲しいだけなのに。
裏切りや嘘が明確に存在しているならクィアベイティングである。
結婚はもちろん、「付き合っている」とエイプリルフールなどで明確な嘘をつくこともクィアベイティングに当たるだろう。
まとめ
本人自身のSOGIや周囲の人間関係に関して、オタクを含めた外野がクィアベイティングと言うことは、本人に意図しないカミングアウトを強要する事態になってしまいかねない可能性もあり、とても慎重になるべきであると私は考える。
だが、同性婚が法的効力を持っていない今の日本で、特別な配慮や支援もせずに「結婚」というワードを使って人を呼び込む行為はクィアベイティングにあたると言えるのではないだろうか。
2023/12/16 4:20頃 誤字脱字の修正を含む追記をしました。
2024/04/0114時頃追記
クィアベイティングそのものの是非などについての私の考えといただいたコメントに対する応答を含めたこの記事の続篇です。
rinp12さんの記事の紹介
rinp12さんは、法学的見地からクィアベイティングについての記事を書いていらっしゃいます。
私とは比べ物にならないくらい緻密に論を展開しているので、ぜひご一読ください。というか、ただのオタク(私)のモヤモヤ言語化記事なんかすっ飛ばしてこちらを読んだ方がこれからの(オタク)人生においてタイパが良いです。
特に3本目の6章では、私の知識不足で言葉足らずだったところを丁寧に言語化、定型化してくださっているので、私の記事を読んでくださった方には目を通していただきたいです。