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映画雑談『子供はわかってあげない』

「うっかり元気になる、かけがえのない物語」というトボケた惹句も、観終われば納得します。私もついうっかり、元気になりました。
傷つきたくない、そして傷つけたくない優しい人たちばかりの映画です。そんな人たちの大弱りになったときに見せるどうしようもない笑顔が、笑わせながらも泣かせてくれます。

『子供はわかってあげない』あまり映画に順位はつけないのですが、思い返せば2021年中に観た映画の中では最も印象に残った一本です。KOTEKOのアニメとか「半分やる」とか、小ネタも秀逸でした。

青春映画、というジャンルでよいのでしょうか、それに私が求めているものは奇抜なプロットや巧みな伏線ではなく、至極単純に主演女優の横顔です。顔立ちの整った美しさも結構ですが、むしろ不確かで頑なな表情にこそ、その年齢のその瞬間にしか出し得ない純粋さを感じます。つまりはサクタさんになりきった上白石萌歌さん、最高でした。程よく抑制されつつダダ漏れにもなっている彼女の感情の動きを、永遠に観ていたいと思います。薄汚れちまった私の心も浄化された気がします。気がするだけですが。

大人の役者陣にも存在感がありました。中でも豊川悦司さんや古舘寛治さんは、難しい立場の父親を好演しています。もともとクセのあるキャラを演じて評価の高い方たちだけに、ふたりとも普通の父親像とはどこかズレており、その健気とも思える振る舞いには哀愁さえ漂っています。あの水着にせよ宇宙戦艦ヤマトにせよ、一見して威厳ある大人風ではありませんが、男親の一生懸命なんてトホホな情けなさと表裏一体のものなのです。そりゃそうでしょう、大人だって、ついさっきまで子供だったのですよ。みんな手探りで成長していくしかありません。それに長く生きていれば、色々込み入った事情が増えてくるのです。だけどそんなこと、子供はわかってあげない。わかってるくせに。良いタイトルです。

同じ沖田修一監督の『横道世之介』も大好きな一本です。過ぎ去ってもう戻らないものは、いつだって愛おしいものだと感じさせてくれます。悲しいこともあったかも知れないけれど、思い出せばみんな笑い話ばかりなのはなぜでしょう。私にとっての世之介は、元気でしょうか。私は誰かの世之介だったでしょうか。私は元気です。面白い映画を観たので、ついうっかり、元気でおります。

上白石萌歌さん、素晴らしいです。


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