『バスタブで暮らす』感想
私もバスタブに逃げ込んだことがある。
あれは朝から動悸が酷く、ご飯やお風呂、睡眠すらまともにできなかった頃。
お布団は温かく微睡でこの世界から守ってくれるが、ひとたび寝れなくなると酷く苦しいものだ。
「明日も仕事でいつも通り寝ないといけない。布団に入り電気も消したのに、でも寝れない」
非常事態レベルに逆立った自律神経は、布団の生地によりさらにズタボロにされていた。
そんな時、導かれるように湯の張られていないバスタブに沈んだ。
バスタブの厚い装甲こそが滑らかに包み込んでくれた。
非常事態を非日常が曖昧にしてくれる、受け止めてくれる気がした。
主人公、磯原めだかは欲がなく希死念慮と劣等感を抱え、、ロングスリーパー、仕事鬱で引きこもりという、まさに私か?と錯覚してしまう人格だ。
社会不適合な弱者はバスタブに逃げる傾向でもあるのだろうか。
それらに惹かれ本書を購入した。
読み終えた感想としては、起承転結がしっかりしていた。
「起承」の段階ではVtuberやゲーム実況、ASMRなど現代の娯楽が登場した。
正直その段階では、「ただの文字数稼ぎ?」「こういうコンテンツからは距離を置きたい」などと考えていた。
だが実は物語として芯が通っており、ここまで昇華できるのかと感心した。
あとがきでは以下のように綴られている。
『今作は、生きづらさを抱えている人に、なんとかサバイブしてもらいたいという祈りを込めて書きました。』
本作は生きづらさを抱える主人公が生まれ変わる物語である。
磯原めだかは、生まれてきたことに失敗したのかもしれないという劣等感を抱いている。
そんなよくある感情、希死念慮だが、本作はそれに対しての1つの回答のように感じた。
そしてなにより家族愛が羨ましいなと思った。
この小説は家族をテーマにしている。
最近、家族の生や死に対して希薄になってきている。
社会的家族関係が歪になり、社会常識的に自立すべきという点で律しているが、本当はすべてを許し、甘え、楽になりたい。
私ももし女の子だったなら、めだかのように母親に甘えられただろうか、などと時代錯誤なことを考えてしまう。
私も鬱を克服し、めだかのようになれるだろうか。
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