「関西女子のよちよち山登り 3.大和葛城山」(6)
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登和子はパン、優希はおにぎりだ。
「今日はどんな味のおにぎりなん?」
登和子が尋ねる。優希はおにぎりを一つずつ手に取り、セロファンに貼られた商品名を読み上げた。
「『クリームチーズとかつおぶし』、『とろろこんぶ』、『トマト入り』!」
「毎度毎度、変わり種をよく見つけてくんなあ」
登和子は感心した。
優希は登和子が勤める飲料メーカーの商品企画部に所属している。ラムネやサイダーといった昔懐かしの飲料を作っている会社だが、最近ご当地の名物サイダーがプチヒット中だ。
愛媛県の『甘夏サイダー』など正統派のものから、愛知県の『味噌カツサイダー』といった悪ノリしているとしか思えないものまで、どんどん意欲的に発売している。
優希は以前、京都府の『お抹茶サイダー』を企画してヒットさせたことがある。
しかし本人は少し不満げで、『こういう正統派ではなく、人に二度見されるようなおもしろ商品を作りたい』と日々奮闘していた。
そのリサーチの一環として、普段からちょっと珍しい食べ物を選ぶように心がけているそうだ。
「どこにヒントが転がってるか分からんもんなあ。そういう山ちゃんは相変わらずパン大好きやな」
登和子の手元をのぞき込んで言う。
「私、三食全部パンでいい。あ、ウソ!晩は日替わりでパスタも食べたい」
優希は声を上げて笑った。
「洋風粉もん信者やなあ!」
「いや、和風粉もんも愛してる」
「それやったら、山でもパンばっかりやなくて、パスタ食べたらいいやん」
登和子は両手でパンを持ったまま、動きを止めた。
「どうやって……山の上の食堂にパスタってあるん?」
「ちゃうくて、なんか山の上でごはん作って食べるんとか、そういうの、あるんちゃうん?」
「私の常識の中にそれはありませんでしたけど……!?」
優希は「アルコールランプのおばけみたいなやつでシュゴーッと火ぃ炊いて、小さいフライパンとかで料理するみたい」と教えてくれた。
思い返してみれば、金剛山の山頂や、交野山の手前でトイレを借りた交野いきものふれあいの里で『シュゴーッ』と何かしている人たちがいたような気がする。あれは調理していたのか!
登和子はまだまだ知らないことだらけだなあ、と空を見た。陽の光がまぶしかった。
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