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【本】『神聖喜劇 第三巻』 (大西巨人/のぞゑのぶひさ/岩田和博/幻冬舎)

こんにちは、『猫の泉 読書会』主宰の「みわみわ」です。
この漫画を読み始めたきっかけは、2006年に薦めてくれた人がいたからです。

2006年、この大西巨人の『神聖喜劇』の漫画が出版されたばかりの頃、
「原作がもの凄い話なんだよ。でもそのまま読むのは、大変だろうから、この漫画で読むといいよ」と教えてくれた人がいたのです。

神聖喜劇が何だろうかと分からないまま1巻を読み始めて、太平洋戦争中の日本人の生活、とくに軍隊生活の乱雑さと人間の底意地の悪さに衝撃を受けました。

描かれている時代は太平洋戦争開始直後です。
東大中退したばかりの若者・東堂太郎は、三カ月間の軍隊の教育召集を受けて、他の陸軍二等兵と共に対馬へ渡り、訓練をうけます。
上官から厳しくて理不尽な扱いを受けつつ、仲間と寝食を共にするうちに、訳ありの東堂太郎や、他の陸軍二等兵の過去が少しずつあきらかになります。
痛快な場面もあって、超人的に記憶力抜群で、頭脳明晰な東堂の視点で、軍隊組織の矛盾や理不尽さが暴かれていきます。
実は東堂は、「一度読んだり聞いたりしたことは決して忘れない」記憶力の持ち主なのです。羨ましいですね。

その昔も、2巻まで読みました。ところどころ意味が分からないのにもかかわらず、なんだか底知れなくて面白かったです。
その一方で、残虐な表現がとても辛くて、続きを読むのが怖くなって、ついそのまま、3巻以降を手に入れることもしませんでした。

そして今、2021年。2021-2006=15年も経ってしまいました。
この本を薦めてくれた人は、病気で亡くなってしまいました。

不甲斐ないというのはこういうことを言うのです。
元気なうちに私が全六巻を読み終えて、一緒に感想を話し合えたら、きっと喜んでくれたでしょう。私が弱虫だったばかりにね。

どういうわけだか最近、ちらほらと『神聖喜劇』の話題を小耳にはさむことが増えました。後ろめたさも手伝って、3巻を探したところ、どうやら、今は文庫本で売っているようです。

私が持っていたのと同じ単行本は、キンドルになっていました。
あんなに細密な絵柄を、キンドルや文庫本で読むのは残念に思えるので、せめて古本をと探すうちに、図書館で借りることができました。

読み直すと、今の私は、この残虐な表現もがんばって受け止めながら読むことが出来ました。

昔の私は、そもそも、東堂のニヒリズムが理解できていなかったようです。それにしても現在のコロナ禍と、東堂の生きた時代の閉塞感が、見方によってはなんだかよく似ています。
だから聡明で理知的で理想主義者な東堂の、青くひりひりとした気持ちが、ずっと近くに感じられました。

人が読めるようになるまで、本はずっと待っていてくれるものなんですね。

■本日の一冊『神聖喜劇 第三巻』 (大西巨人/のぞゑのぶひさ/岩田和博/幻冬舎)
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