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【本】『献灯使』(多和田葉子/講談社文庫)

こんにちは、『猫の泉 読書会』主宰の「みわみわ」です。

今日ご紹介するのは、詩人で作家の多和田葉子の短編集『献灯使』です。
原発事故後の近未来の日本を描くディストピア小説です。
老人たちは死ねない身体になり、生まれてくる子供たちがみんな身体が虚弱です。日本は鎖国中で、汚染された国内はいくつかのブロックに分かれていて、気楽に移動ができないようです。

この本は2014年に単行本で出版された時に読み、最近また読み直しました。読み直すたびに、違う風景が見えてくる作品です。それはコロナのせいもあると思います。
ネタバレしたくないので、詳しくは書きませんが、特に表題作は、前回読んだときとは違う結末に感じました。

ちょうど昨日は、JF翻訳家座談会によるオンラインの配信で、作家の多和田葉子さんの小説『献灯使』を翻訳した、タイ・米国・ドイツ・ノルウェー・トルコの翻訳家の話を聞きました。

一番面白かったのがノルウェーの翻訳者のお話で、『献灯使』の中に「駆け落ち」という言葉をつかった駄洒落のようなエピソードがあるのですが、なんとノルウェーには「駆け落ち」が存在しないというのです!そのため、「駆ける」の漢字に馬偏がついていることも合わせて、馬が走る様子を表すノルウェーの言葉に置き換えて翻訳したのだそうです。

それにしても、ノルウェーにはなぜ「駆け落ち」が無いのでしょう?
1.恋愛結婚が普通?
2.身分の差がほとんど無い?
3.親から子に伝えられる職業や財産が少ない?
4.駆け落ちして逃げきれる可能性が低い?

だれかノルウェー人のお友達がいたら聞いてみて、わたしにも教えてください…。


さて、『献灯使』は表題作のほかに4つの短編が収録されています。
その中の「動物たちのバベル」は、人類滅亡後に動物たちが協力して暮らしてゆく話です。

動物たちは、滅びた人間たちにはボスがいたことを思い出します。
そこで一番非力で小さなリスがこう言います。

「ボスではなく翻訳者をえらんでみたらどう? 自分の利益を忘れ、みんなの考えを集め、その際生まれる不調和を一つの曲に作曲し、注釈をつけ、赤い糸を探し、共通する願いに名前を与える翻訳者。」

不調和を「無かったこと」にしないで、きちんと向き合って面倒を見る。とても大変そうだけれど、それが大切なんですね。


■本日の一冊:『献灯使』(多和田葉子/講談社文庫)

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