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我ら紙の子団 【秋ピリカ】

ある日曜日の公園。
今日もまたおじいさんの紙芝居が始まりました。
観客はいつもほんの数人だけ。
それでもおじいさんは毎週必ずやってきては楽しそうに紙芝居をします。

紙芝居を終え家に帰ると、おいじさんは決まってこう言います。

「みんな、お疲れさま」

すると突然、紙芝居から小さな影がわらわらと出てきました。
彼らはおじいさんを陰で支えている紙芝居劇団「紙の子団」です。
周囲を驚かせないよう外ではいつもこうして紙の中に隠れています。

「みんな今日も最高だったよ、ありがとう。でもすまないね。また人を集められなくて」
「おじいさん落ち込まないで。また次頑張りましょう」

みんなで一生懸命おじいさんを励まします。

「そうだね。もっと面白い話を考えるからね。それじゃあおやすみ」

紙芝居の日はおじいさんが眠った後に反省会をするのが劇団の決まりです。

「やはり意見を出し合うべきでしょうか」
「でもそれだとおじいさんを傷つけてしまうかも」

この紙芝居劇団は、元々物語を書くのが好きなおじいさんが始めました。
だから脚本を書くのはおじいさんの役目です。
みんなはおじいさんのこともおじいさんの書くものも大好きでした。
けれど近頃ではおじいさんの紙芝居を見てくれる人がどんどん減り
このままではいけないと、みんなずっと悩んでいました。
だから意見を出し合ってみんなで一緒に紙芝居を考えていきたい。
でも…

「でもやっぱりおじいさんを傷つけたくない」

結局こうしていつも同じ結論で話し合いは終わるのでした。

そしてまた次の日曜日。
今日もおじいさんとみんなはいつものように紙芝居をしていました。
ところが終幕目前でまさかの事態が起こったのです。
なんと紙芝居で使う最後の一枚がどこにも見当たらないのです。
もちろんおじいさんは大慌て。
このままでは最後の「おしまい」ができなくなってしまします。
流石のおじいさんも諦めかけた、その時でした。

「我ら紙の子団、力を合わせ最後の一枚を作ろうじゃないか!」

そこからの紙の子団の素早さといったら!
既に使った絵にアレンジを加えることで観客をほぼ待たせることなく
物語の新たな結末が完成したのです。
それでも内容を変更してしまったことに胸が痛みましたがそこは仕方ありません。
大好きなおじいさんの為に今はとにかく紙芝居を完成させることが
何より大切だと思ったのです。

その後紙芝居は無事成功、観客からは賞賛の拍手が送られました。
おじいさんは驚きながらも嬉しそうに何度も頭を下げていました。

紙芝居はこの小さな劇団員たちによって救われました。
そしておじいさんは初めてみんなの本当の気持ちを知ることができたのです。

「今まですまなかったね。もしよかったらこれからもみんなの力を貸してくれるかい?」

そこには小さな笑顔がいっぱい溢れていました。

こうしておじいさんと紙の子団で作る紙芝居は瞬く間に評判となり
後にこの公園は「紙の子公園」と呼ばれるようになりましたとさ。


(1200字)

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こちらは秋ピリカグランプリの応募作品となります。


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