【ピリカ文庫】 水玉模様
彼に少しでも近づきたい。
でも彼の好きなものも好みの子も、私は何も知らない。
彼と仲良くなるには一体どうすれば…
頬杖をつきながら私は大きなため息をついた。
すると突然、小さな声が聞こえた。
「うわっ」
さらに今度はちょっと怒ったような口調でさっきよりも
もっと大きくはっきりと聞こえた。
「あいたたた。まったくもう」
声のする方を確かめると、テーブルの上にぽつんと一つ
水玉模様の飴玉があるのを見つけた。
しかしよくよく見ると、水玉模様の服を着た小さな人が横になって
体を丸めながらお尻をさすっている。
なんと私が飴玉だと思っていたものは「小人」だったのだ。
「あ!もしかして私のついたため息のせい?」
「そうだよ。すごい風だった」
「ごめんなさい!気づかなくて…」
「まぁいいよ。気づかないの当然だから」
淡々と話す小人から私は一瞬たりとも目が離せなかった。
「そんなに見ないでよ。なんか照れる」
「だ、だって…。それに私あなたに怪我させちゃって。湿布ならあるよ?」
「いや、そっちのサイズは無理だから」
申し訳ないと思いながらも、その返事にちょっとだけしゅんとなる。
するとそんな私を見て小人が言った。
「じゃあ一緒にこれ食べてよ」
そう言って小人は何かを差し出したが
残念ながら私には小さ過ぎてよく見えない。
「見えないんでしょ?持ったらわかるから。手出して」
小人は私の両手にそっと何かをのせた。
その次の瞬間、私の手のひらにぽんっとおにぎりが一つ現れたのだ。
「人間に渡すとそっちのサイズになるんだよ。では、食べようか」
小人はそう言うと勢いよくもしゃもしゃと食べ始めた。
私も小人の真似をして貰ったおにぎりにかぶりつく。
「あ、梅干し。私、梅干しが一番好きなんだ」
「お、そりゃよかった。一緒だな」
それから小人と私は色んな話をした。
と言っても私が一方的に話すばかりで
小人は何も言わただずじっと聞いていた。
そして最後に、最近気になっている彼のことも相談した。
話したいがきっかけもなく勇気が出ない、と。
「そうか。じゃあこれをやるよ」
そう言うと小人は身に着けていたものを外し私に差し出した。
また私の手のひらでぽんっと人間サイズになったそれは
とても綺麗な水玉模様のスカーフだった。
「素敵。でもいいの?貰っちゃって」
「いいよ。きっと必要になるだろうから」
「ありがとう。大切にするね」
「あぁ、がんばれよ」
その会話を最後に、私が鏡の前でスカーフを巻いている間に
小人はどこかへ消えてしまっていた。
私に水玉模様のスカーフと寂しさを残して。
数日後。
私は気になっている彼に今日こそ勇気を出して
声をかけてみようと決めた。
あの日小人から貰った水玉模様のスカーフは
お守りとして首元に巻いている。
こうしていると小人に守られているような気がして
不思議と気持ちが落ち着くのだ。
「よし。これで大丈夫。あとは彼が来たら…」
(き、きたっ!スーハー…まずは…深呼吸して…)
「そのスカーフ素敵だね。僕、水玉模様すごく好きなんだ」
小人がくれた水玉模様のスカーフがきっかけで
あれから私は彼と仲良くなることができた。
そして私は今、小人のお陰でとても幸せな生活を送っている。
だからこそ小人にどうしてもあの時のお礼を伝えたかった。
でもまた会えるにはどうすればいいのだろう。
…そうだ!おにぎりを作ろう!
具はもちろん、私たちの大好きな梅干しでしょ。
それを水玉模様のハンカチで優しく包んで
小人と初めて出会った場所で待っていよう。
そうすれば小人はまた私に会いにきてくれるかもしれない。
そうと決まったら早速美味しい梅おにぎりを作らなきゃ!
そんな私の姿を少し離れた所から見守る小さな影に
私はまだ気づいていなかった。
「お、具は梅干しか。そうか、一緒だったな」
(おしまい)