中国語小説の翻訳教室――神の代弁者になるために(コラム6「長編翻訳に適した環境づくりと実践 」)
長編の翻訳はマラソンと同じで、一定のペースを保ち走り続けなければなりません。今日はやる気があるからたくさん翻訳しよう、最近は気が乗らないからしばらく充電しようなどとは考えないでください。訳文の質にムラが出る、それまで維持していたペースが乱れる、翻訳の感覚を取り戻せなくなるといった弊害があります。忙しくてどうしても毎日時間を捻出できないという人は、短編を翻訳するべきでしょう。
毎日一定の時間と精力を確保できる人は、長編にチャレンジしましょう。別の趣味の時間、もしくは睡眠時間を一時間でも削れば十分です。筋トレやランニングと同じく、翻訳のノルマを無理なく作ります。翻訳を優先事項として、自分の生活を再構築します。毎日やらないと気がすまない、一日でも休むと罪悪感が出るところまで続けられれば習慣化します。翻訳の時間が、一日で最も尊い濃密な時間になります。
翻訳中は、いかなる干渉も誘惑も受けてはなりません。フランスのバルザックという文豪は、借金取りが現れない深夜に目を覚まし仕事をしていたそうです。そこまで早起きする必要はありませんが、早朝はテレビ番組も放送されていませんし、知り合いや友人から連絡が来ることもありません。愛する煩わしい家族も寝静まっています。後はインターネットを絶てば完璧です(検索は後でまとめて行うのもあり)。心を落ち着け、新たな気持ちで翻訳を再開しましょう。
さて、開始時は新鮮で楽しい長編の翻訳も、あまり長いとダレてきます。ペースが落ち、スタミナと意欲も失われていきます。専門知識が必要な部分、風景描写などの翻訳が苦しくなってきますが、適当に直訳しないでください。神から与えられた試練だと思い、粘り強く戦い、打ち勝ってください。これによって得られる充足感が、長編翻訳の醍醐味とも言えます。憧れの作家と一年も二年も昼夜を共にした経験は、あなたの人生の血となり肉となるはずです。
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