中国語小説の翻訳教室――神の代弁者になるために(『永不瞑目』22−28章)
欧慶春たちは車に乗り、26日の早朝に昆明市に入りました。昆明公安局は例の桂林ナンバーのトラックが、ある企業の宿泊施設に駐車されていることを突き止めていました。昼になると、関敬山が錦華大酒店というホテルに宿泊していることも分かりました。欧慶春と李春強は昼食を終えホテルから出てきた彼を追跡しますが、市内観光をするばかりで不審な点は認められません。この日は結局なにごともなく過ぎていきました。翌朝、日が昇ったばかりのころ、4台のトラックが出発しました。関敬山はトラックに乗らず、午前中に桂林市に戻る飛行機に搭乗しました。さらに桂林公安局からの連絡によると、彼は桂林に着くと真っ直ぐ帰宅したとのことです。欧慶春たちが絶望しかけたとき、さらにトラックを追跡していた人員から連絡が入ります。トラックが間もなく雲南省を出るため、各省に依頼し警官を出動させ追跡を続けることが、非現実的になったというのです。そこで李春強は北京の署長とも連絡を取り、このトラックを捜査することを決定しました。
彼らはその日の夜、現地の武装警察と共に、省境の富寧県にある旅館に停められていたトラックの強制捜査を行います。タバコの詰められた段ボール箱を調べると、密封された大量の高純度ヘロインが出てきました。彼らはすぐに運転手と関敬山の取り調べを行いましたが、どちらもタバコの運送を担当しただけだと主張します。とはいえ関敬山には不審な点が多く、また欧陽天のパソコンから印刷した文書という証拠もあるため、彼らは北京に戻り欧陽天の捜査を続けることになりました。
旅行シーズンで航空券が少なく、一日だけ観光する時間ができました。北京から来た欧慶春たちは、漓江下りを体験します。
【原文】
船至斗米滩,李春强踱至船尾。与庆春一起,背风而立。望着岸上的仙人石和望夫石,默默无言。庆春的目光随了舷边滑过的几只渔筏※1,眺向远方的峰峦云影,和山垄间的翠竹茂林,无限感慨,油然而生。她又想到了那批祸国殃民的毒品,想到胡大庆、关敬山的嘴脸,与这仙境般的山光水色,竟同日而在,同世而存。美丑对照,真是不可思议。李春强似乎也被这胜景陶醉,傻傻地在她耳边说:“山水相依,真是个谈情说爱的地方。”
庆春笑道:“天未下雨,你何来湿(诗)意?※2”
【和訳】
船が闘米灘に着くと、李春強はゆっくりと船尾に移った。慶春と共に、風下に立つ。岸の上の仙人石と望夫石を眺めながら黙り、口を閉ざす。慶春の視線は船べりを流れ過ぎる(いくつかの)筏※1を追い、遠くの山並みと雲の影、それから低い山の間に広がる青々とした竹林に目を向け、自ずと感無量になった。彼女は国と民に災いをもたらす毒物と、胡大慶や関敬山の顔を再び思い出した。この仙境のような山水と、同じ日同じ世の中に存在しているとは。美と醜悪が対照的で、不可思議としか言いようがない。李春強もこの麗しい景色に恍惚としたようで、ぼんやりしながら彼女の耳元でこう言った。「山と水が寄り添い、愛を語らうにはうってつけの場所だな」
「雨が降ってもいないのに、しっとりとして優雅な気分になったの?※2」慶春は笑って言った。
※1 「いくつかの」は省略可。
※2 同じ発音を利用した表現で、直訳はできないので意訳する。
この流れで、李春強はこの事件が解決したら、正式にプロポーズしたいと告白します。しかし欧慶春は、最後まで勝利を軽々しく口にすべきではないと言い、はぐらかします。李春強はその勝利を収めたあと、満足できる返事をしてくれと言います。
欧慶春が北京にいないあいだ、肖童はいらいらし、一人で過ごす時間が多くなりました。夜になるとナイトクラブに通い、ゲームに熱中しました。欧陽蘭蘭は彼が自宅に来てくれないので、クラブで待ち受けるようになりました。鄭文燕も彼に見せつけるように、派手な格好をしてクラブに通い、タバコを吸い(中国で女性の喫煙は稀)、他の男性客と仲良くします。肖童は彼女が堕落するのを見るに見かねて忠告しますが、堕落しているのはあなたのほうだ、邪魔をするなと言われてしまいます。口論したあと、彼女は男たちと個室に入ります。酔っ払った肖童はそれを見て、後を追います。
【原文】
包房里的灯光昏暗得有些暧昧※1,电视的画面里是一个扭捏作态的泳装少女。几个男人随着她的扭动正在胡乱唱着,而文燕则被一个大汉压在沙发上,一边笑一边骂一边挣扎。肖童指着那大汉说,你放手,你他妈混蛋!他脑子里在酒精之外还剩了一点空间※2,因此他突然认出了那人正是在郊区砖厂替欧阳天把他打得鼻青脸肿的家伙。旧恨新仇一起冲上头顶,他把文燕从沙发上拉起来,那人上来抓住他的领子,破口大骂,他顺手抄起茶几上的酒瓶※3,像砸一个西瓜那样,向下噗地一砸,那人的脸上迅速出现了几条自上而下的血的溪流※4,整个人像失去重心的米袋子一样,随即摔在沙发的一角。
【和訳】
部屋の照明はぼんやりといかがわしく※1、カラオケの画面はもじもじしている水着の少女だ。彼女が体をくねらせると、数人の男がそれに合わせてでたらめに歌う。文燕は一人の大男にソファーに押しつけられ、笑ったりののしったりしながらもがいている。肖童はその大男を指さしながらこう言った。手を放せ、このクズ野郎! 彼の頭はまだ完全にアルコール漬けになっていなかったので※2、それこそが郊外のレンガ工場で欧陽天に代わり、自分を袋だたきにした男であることにふと気づいた。重なる恨みが一気に噴き出し、彼は文燕をソファーから引っぱり起こした。男は近づいてきて彼の襟をつかみ、口汚くののしった。肖童は(無造作に)テーブルの酒瓶をサッとつかみ取り※3、スイカを叩き割るようにズンと殴りつけると、すぐに男の脳天から(顔に)幾筋も血が流れ落ちた※4。男はバランスを失った米袋のように、そのままソファーの片隅にどさりと倒れた。
※1 直訳は「部屋の照明は薄暗くややあいまい」だが、怪しげな雰囲気のことと思われる。
※2 直訳は「彼の頭の中にはアルコール以外に少し空間が残されていた」だが、意訳。
※3 「抄」(サッとつかむ)とあるので、「無造作に」は省略可。
※4 直訳は「その人の顔にはすぐに上から下に流れる血流が現れた」。「顔に」は書かなくてもイメージできるので省略可。
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