誰でも使える交渉術! 『質問することの大切さ』
交渉において「質問」は極めて重要な役割を果たします。質問の持つ力を理解することで、相手との対話を有利に進め、より良い結果を導き出すことができます。それは、相手を知ることこそ、百戦を危うくしない、孫子の考え方に通じるものです。以下、質問の重要性について具体的に説明します。
1. 情報収集と理解のための質問
交渉の基本は、相手の立場、ニーズ、そして目標を理解することです。相手の立場を正確に把握できていないと、効果的な提案や譲歩ができません。質問を通じて、次のような情報を得ることができます:
相手のニーズや優先事項:
「あなたにとって今回の取引で最も重要なのは何ですか?」制約や懸念事項:
「予算面でどの程度の制限がありますか?」決定プロセスの理解:
「最終的な決定権を持つのはどなたですか?」
直接的でも、より間接的な言い方であっても、質問を投げかけることで、相手が提供する情報量が増え、交渉の全体像をより明確に把握することができます。
2. 相手の思考や意図を引き出す
質問は、相手が自分自身の考えを整理し、意見を述べるきっかけにもなります。特にオープンクエスチョン(答えが自由な質問)を使うと、相手は詳細な説明をする必要があり、その過程で新たな情報や意見が明らかになります。
「この案について、どのような懸念をお持ちですか?」
→ 相手が抱えている不安や問題点を引き出し、それに対する解決策を提示する機会が得られます。
3. 相手との信頼関係を構築する
質問を通じて、相手の話を「聞いている」という姿勢を示すことができます。相手の話に関心を持ち、理解しようとする姿勢は、信頼関係の構築に寄与します。
「具体的にはどの部分が一番気になる点でしょうか?」
→ 相手は自分の意見が尊重されていると感じ、交渉がスムーズに進む可能性が高まります。
4. 思考を整理し、問題を明確化する
質問を通じて、相手だけでなく自分自身の考えも整理できます。特に複雑な問題を扱う際、質問をすることで具体的な問題点が浮き彫りになり、解決策を見つけやすくなります。
「この提案が難しい理由を、もう少し具体的に教えていただけますか?」
→ 問題点が明確になり、具体的な対応策を検討できるようになります。
5. 交渉のペースをコントロールする
質問は交渉のペースをコントロールする手段にもなります。質問をうまく活用することで、相手に考える時間を与えたり、自分の主張に対するフィードバックを得たりすることができます。
「この案について少し時間を取って、検討していただけますか?」
→ 相手の返答によって次のステップに進むか、議論の焦点を変えるかを判断できます。
6. 論理的な矛盾やギャップを浮き彫りにする
質問を通じて、相手の主張や提案の中に論理的な矛盾や不明瞭な点を見つけることができます。これにより、相手が曖昧な立場に立っている場合、その矛盾を指摘することで自分に有利な展開に持ち込むことができます。
「もしコストが問題なら、なぜ別の選択肢を検討しないのですか?」
→ 相手が答えに困る場合、自分の主張がより説得力を持つことになります。
『交渉における質問の重要性は、単なる情報収集にとどまらず、相手の考えを引き出し、信頼関係を築き、交渉の流れをコントロールする力を持っています。効果的な質問を投げかけることで、交渉の結果をより有利な方向に導くことが可能です。質問を活用するスキルは、交渉において非常に価値のあるツールとなります。』
特に、YesかNoか、といった選択肢を限定する要求、『二元論的な要求』と言えますが、これを避けなければなりません。
特にこのような場面で『質問』が重要です。
具体的には次の例で見てみましょう。
A社がコストを下げたいという要求をし、B社の担当者が異なる対応をした場合の2つの事例を見てみましょう。
事例 1: 二元論に巻き込まれて窮するケース
A社担当者 (佐藤さん)
B社担当者 (田中さん)
佐藤さん (A社):
今回の件ですが、コストが高すぎるため、10%の価格引き下げをお願いします。
田中さん (B社):
10%ですか…。それは少し厳しいですね。せめて5%の引き下げでご検討いただけませんか?(すぐに二元論に入ってしまっている)
佐藤さん:
5%では不十分です。今期の予算削減目標が達成できません。やはり10%をお願いします。
田中さん:
ですが、弊社にも原材料費の高騰がありまして…。7%の引き下げならなんとか対応できるかもしれません。
佐藤さん:
分かりました。では、その方向で上司に相談します。
結果
B社の田中さんは、「何%引き下げるか」という議論に巻き込まれ、価格引き下げの議論に終始しました。これほどわかりやすくないにしても、相手の高圧的な態度などに動揺し、同じような交渉になってしまった経験は誰にでもあるのではないでしょうか?
この議論は最終的に妥協した形で終了しましたが、コスト削減の根本的な理由や背景には触れず、B社側の利益が減少する結果に陥っています。
事例 2: 質問を活用して建設的な議論に導くケース
A社担当者 (佐藤さん)
B社担当者 (田中さん)
佐藤さん (A社):
今回の件ですが、コストが高すぎるため、10%の価格引き下げをお願いします。
田中さん (B社):
佐藤さん、コスト削減の要求についてお伺いしたいのですが、特にどの要素がコスト高の原因とお考えですか?
佐藤さん:
実は、社内の予算削減目標が設定されており、全体の調達コストを下げる必要があるのです。
田中さん:
なるほど。では、予算削減の一環ということですね。具体的に、他のサプライヤーとの比較で特に問題視されているポイントはありますか?
佐藤さん:
比較すると、輸送費と梱包費が高いという指摘が出ています。
田中さん:
それは興味深いですね。もし私たちが輸送ルートや梱包方法の見直しを行い、コストを削減できた場合、それでご納得いただけますか?
佐藤さん:
そうですね。そこが改善されると、こちらも他の部門からの圧力が減ると思います。
田中さん:
分かりました。では、輸送と梱包のコスト削減案を提案させていただきます。それと、品質に影響が出ない範囲での見直しになるかと思いますが、そこもご一緒に検討していきましょう。
佐藤さん:
ぜひお願いします。具体的な案を楽しみにしています。
結果
個別の案件で進め方は様々かと思いますが、この議論のポイントは、B社の田中さんは、最初に「何%引き下げるか」という議論に巻き込まれず、質問を通じて問題の本質を探ることに成功したところです。その結果、コスト削減の要因を具体化し、双方にとって建設的な解決策を模索することができました。
1つ目の事例では、B社は単なる価格引き下げの交渉に終始し、利益が圧迫されました。2つ目の事例では、質問をうまく活用することで、コスト削減の根本原因に焦点を当て、価格以外の方法で双方にとって納得できる解決策を導くことができました。
このように、交渉における質問の活用は、議論を深め、対立から協力的な問題解決へと導く効果があります。
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