急ぎすぎた交渉の失敗!
交渉の内容を十分に吟味した場合でも、その速度、すなわち、交渉を急ぎすぎていないか、または、進展が遅すぎていないか、これを判断することも必要です。結果を焦りすぎ、早く結果を出すことにこだわりすぎる人は、交渉を学び、適切な速度を保つことが出来ます。
まず、交渉を急ぐべき場合と急いではならない場合には、それぞれ適切な判断基準があります。以下の具体例として挙げますので一緒に見ていきましょう。
A. 交渉を急ぐべき場合
時間的制約がある場合
プロジェクトの締切や市場投入のタイミングが明確に決まっている場合、迅速な意思決定が必要
例: 製品の発売スケジュールに間に合うように原材料の契約を早急に締結する。
競争環境が厳しい場合
他社との競争が激しく、早く契約を締結しないと機会を失う場合。しかしこれも、冷静な見極め・判断が必要です。
例: 有望な取引先と独占契約を急いで結ぶことで、競合他社に奪われるリスクを防ぐ。
相手が迅速な決断を求めている場合
相手側が明確に早急な回答や行動を求めている場合、遅延が関係悪化を招く可能性がある。急ぐことが最適解なのか、冷静に見極める必要がありますが、一方で、相手の感情には十分な配慮が必要です。
例: 取引先が在庫不足を解消するために早急な納品契約を希望している場合。
問題が明確で交渉の複雑性が低い場合
交渉内容が単純で、双方の合意点が明確な場合、無駄な引き延ばしは避けるべきです。さっさと次に行きましょう。
例: 標準契約書に基づく取引で、条件調整がほとんど不要な場合。
B. 交渉を急いではならない場合
相手との信頼関係が十分でない場合
信頼関係が構築されていない段階で急ぐと、その態度は強引で不誠実であり、不信感を招き、交渉が破綻する可能性が高まります
例: 初めて取引する企業との契約交渉など
交渉の内容が複雑で影響が大きい場合
契約条件が複雑で、慎重な検討や専門家の助言が必要な場合には、焦った進展は問題を引き起こす可能性があります
例: 長期的なパートナーシップ契約や大型の投資案件。
相手が感情的になっている場合
相手が感情的になっている状況では、急いで進めると対立が深まる可能性があります。一呼吸置きましょう。
例: 紛争やトラブル解決の場面で、相手が感情的な要求をしている場合。
情報が不十分な場合
必要な情報があまりに不足している場合、急いで決定すると誤った判断を下すリスクがあります。
例: 相手の財務状況や市場動向について十分な情報がない状態での交渉。
長期的な関係性が重要な場合
短期的な成果よりも、長期的な信頼関係を築くことが重要な場合、焦る必要は全くありません。
C. 急ぐかどうの判断基準
交渉を急ぐべきか否かは、以下のようなポイントに着目すると良いでしょう。
緊急性はあるか?
交渉の複雑さやリスクの大きさはどうか?
相手との信頼関係のレベルは十分か?
情報は十分に揃っているか?
長期的な影響を考慮しているか?
スピード感と慎重さ、これらのバランスを取ることで、リスクを抑えつつ、成果を得ることができます。
似たような経験がある方もいると思いますが、例えば急ぎすぎた例として、以下のストーリーを見てみましょう。
「急ぎすぎた交渉の失敗例」
中堅IT企業「A社」の営業担当である佐藤さんが、大手クライアント「B社」との契約を急ぎすぎて失敗したケース
A社のオフィスにて。
B社との交渉後に、営業部のミーティングで状況を報告する佐藤さん
佐藤:「先ほどB社との商談を終えてきました。残念ながら、契約には至りませんでした…」
田中(佐藤の上司):「えっ、どういうこと?B社は前回のミーティングでは前向きだったよね。何があった?」
佐藤:「実は、B社の担当者から細かい仕様の確認と、料金プランについて再調整を求められたんですが、『このプランで決めていただければ割引もします』と提案したんです。」
田中:「割引を提示したのに断られたのか?」
佐藤:「B社の担当者は『もう少し社内で検討したい』と言っていました。でも、来月の営業目標を考えると早く決めてほしくて、『早期契約でさらに割引します』と強引に提案しました。そしたら…」
田中:「そしたら?」
佐藤:「『こんなに急かされると不安になる』と言われて、逆に警戒されてしまいました…。『一旦保留させてほしい』という結果で終わってしまいました。」
田中:「うーん、それはやっちまったな。急ぎすぎて相手の信頼を失ってしまったようだ。B社は大口クライアントになり得る相手だよ。」
佐藤:「はい…。もっと相手のペースに合わせるべきだったと反省しています。」
田中:「まあ佐藤くん、とにかく今回の教訓を生かして次回に繋げよう。B社とは、信頼関係を築くことが優先だ。次のステップを考えよう。」
佐藤:「ありがとうございます… 次回は、相手の立場をもっと尊重して進めていきます。」
⚫︎急ぎすぎた交渉の失敗ポイント!
さて、この交渉の失敗ポイントは次のようにまとめられます
失敗の原因
クライアントのニーズや検討時間を軽視し、早期契約を急いだ。
相手に警戒心を抱かせてしまい、信頼を損なった。
改善点
相手のペースを尊重し、十分な情報提供や質疑応答の時間を確保する。
契約を急ぐ姿勢ではなく、相手にとって最適な提案を優先する。
交渉を急ぎすぎると、短期的な目標を優先するあまり、長期的な信頼や関係性を損なうリスクがあります。
さて、佐藤さんは今回失敗してしまいましたが、上司の田中さんと相談しつつ、再度交渉に臨むようです。
「信頼を取り戻すための交渉」
中堅IT企業「A社」の営業担当の佐藤さん、今回は田中さんと共にクライアント「B社」の担当者である鈴木さんとの再交渉に臨みます。
場面:B社の会議室
田中(A社上司):「鈴木さん、お時間をいただきありがとうございます。前回の交渉では、弊社が少し急ぎすぎた点があったと反省しています。本日は、より詳細な情報をお伝えし、御社のご要望にお応えできるよう努めたいと思います」
佐藤(A社担当者):「鈴木さん、先日は申し訳ありませんでした。今回は、御社のニーズにしっかりお応えできるプランを再提案させていただきたいと思っています」
鈴木:「そうですか。前回少し急かされていると感じたのは事実ですが、御社の提案自体には興味がありますので、改めてお話を伺いたいと思います」
田中:「ありがとうございます。
ではまず、鈴木さんが、特にどの部分を慎重に検討したいとお考えでしたでしょうか?」
鈴木:「はい、主に料金プランの柔軟性と、導入後のサポート体制について、もう少し詳しく知りたいです。」
佐藤:「承知しました。御社の状況に合わせた複数の料金プランを用意しています。それぞれのプランで導入コストとサポート内容を比較しました。」
(佐藤が資料を配布し、説明を開始)
佐藤:「こちらをご覧ください。このプランでは、初期コストを抑える代わりに月額のサポート料金を調整しています。一方、こちらのプランでは、長期的にコストを低く抑えられる設計になっています。」
鈴木:「なるほど。具体的で分かりやすいですね。特にサポート体制の詳細が明確になっていますね」
田中:「ありがとうございます。また、導入後の御社の負担を軽減するために、初期トレーニングと技術サポートの体制も強化する予定です。この点についても詳細をご説明させていただきます。」
鈴木:「そういったサポートがあると、社内での承認プロセスも進めやすいと思います。」
佐藤:「それをお聞きできて安心しました。もちろん、追加のご要望があれば、そちらも柔軟に対応させていただきます。」
鈴木:「そうですね。この内容を持ち帰り、社内で検討させていただきます、前向きに。」
田中:「ぜひ、ご検討ください。本日は時間をいただき、ありがとうございました。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。」
A社に戻る途中
田中:「佐藤くん、今回はクライアントのペースに合わせた進め方ができたと思う」
佐藤:「ありがとうございます。なんとか冷静に進めることができました」
田中:「今日のように相手を中心に考えた交渉を続ければ、信頼関係も深まる。次回は、契約の具体的な段階まで進められるといいね。」
佐藤:「はい。次回に向けてさらに準備を整えます!」
⚫︎成功例のポイント!
さて、この挽回のための会議にはいくつかのポイントがありました。
相手のニーズを丁寧に聞く姿勢:
クライアントの懸念点を明確にし、それに応える提案を準備。交渉のペースを相手に合わせる:
前回の反省を踏まえ、急がず慎重に進行。信頼関係の再構築:
謝罪と改善策の提示により、クライアントに好印象を与える。
交渉の急ぎすぎは、「独りよがり」と表裏一体になりがちです。
常に相手がどう思っているかを知ろうとする基本的な態度は、交渉の根本と言えるでしょう。
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