【文フリ試し読み】タンポポは電車の座席に根を生やせるだろうか(10/1〜10/8)
新刊の日記本『タンポポは電車の座席に根を生やせるだろうか』から、ちょうど一ヶ月前の今ごろに書いた日記を無料公開します。
(発売時には加筆・修正が入る可能性があります)
二〇二四年十月一日(火)
いつ洗ったか思い出せないシーツを引っぺがして洗う。寝室の空気がきれいになった。
二〇二四年十月二日(水)
一年以上迷っていた畳マットを買った。
つまめるくらい薄いが表面はきちんと織られた畳だ。五畳の洋室が和室の客間に変わり、この部屋でAirbnb(民泊)をやろうとしている。
お客さんが泊まる前に寝心地を確かめないとねという理屈で、シーツがわりのタオルケットと枕を持ち込んで一晩寝る。
布団を敷くと、畳は目が数えられるほど目の前にあった。
人差し指を乗せて、つうー、つうーと目をなぞり、畳の滑らかさを感じる。鼻を近づけて嗅ぐ。今度は目に交差するように指を滑らせる。ざりざりとした感覚があり、そうだそうだ、畳で転んで擦り傷を作ったことがあったと思い出す。もう一回嗅ぐ。
見た目が美しく機能性に優れた床は数あれど、嗅いでよし、触ってよしの床は滅多に無いんじゃなかろうか。
二〇二四年十月三日(木)
変な雨だった。
降り出した、と思った瞬間に止むのをなんども繰り返す。雨の音が気になるのは、ざあざあ鳴る瞬間よりも降り始めと降り終わりだとよく分かる。本を片手に、大きくなったと思った瞬間に消えていく雨の音を聞いた。
ブランコが前後に揺れるように。波がこちらへ来ては戻っていくように。電車が来たと思ったら通り過ぎていくように。そんな速さで雨も通り過ぎていった。
二〇二四年十月四日(金)
「ありがとうgぞ」と誤入力したら「ありがとうテロテロリロリ〜♪」と予測変換された。そんな文章、絶対に打ったことない。
二〇二四年十月五日(土)
東京出張に向けて「服の練習」をする。
上から下まで着る予定の服に着替えて、風呂場の鏡の前に立つ。
髪型もメイクもアクセサリーも、ぜんぶ合わせる。そうすると「やっぱりこっちの眼鏡がいい」「アイラインは茶色じゃなくて黒にしたい」と変えたい箇所が見つかる。
そうして全身をいじくり回して気が済むと、ぶらぶら出かける。
電車の窓に映ると、風呂場の照明に照らされた自分とはまた違って見える。
チークは思ったより濃い気がして、似合うと思ったイヤリングも頭がじわじわ痛み始めたので外してバッグに突っ込んだ。
紺色のシャツと紺色のスカートの組み合わせは、遠目ではワンピース風だが近づくと素材の違いが見えてくる。それもなんだかオシャレでいい。
服装は決まった。あとはメガネとメイクの微調整だ。
二〇二四年十月六日(日)
公園のウッドデッキに子どもがうつ伏せで張り付いていた。最後に地面に寝転がったのはいつだろう。
二〇二四年十月七日(月)
Xの「おすすめ」タブを開くたびに、世の中の嫌な出来事と嫌な言葉と嫌な人をたくさん見なければいけなくてうんざりする。
しかし目を背けて黙っている人は大切にされず、怒る人の意見はしぶしぶでも取り入れられるのが今の世の中で、会社員で三十代の女の幸せは黙っているとどんどん取り上げられる予感がしている。
わたしは日々嫌なことに向き合うよりも、いつの間にか自分のいる場所が取り返しのつかない姿に変わっている方が怖い。
被災地の投票所を減らすことに反対するポストがあった。「いいね」した。
二〇二四年十月八日(火)
全角のHを出したいときは「えいち」じゃなくて「えっち」と打つと早い。なんかやだ。
こちらの日記を収録した日記本『タンポポは電車の座席に根を生やせるだろうか』は12/1(日)文学フリマ東京39で販売予定です!
サークル名:ねぎとろ丼
スペース:M-20
既刊の「子どもが欲しい、という気持ちが欲しい」「いのちって感じのご飯」も販売予定です📕
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