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グラナダで探す自分と日常―福浪優子『あかねさす柘榴の都 1』


1.グラナダというまさかの舞台

「よくこの題材を選んだ!」と読み始めてからずっとわくわくしっぱなしだった。

母を亡くした日本人の少年、夏樹がスペインのグラナダにいる叔母のアルバの元で一緒に暮らす物語だ。

まず舞台にびっくりした。そもそも日本人がスペインを舞台にマンガを描くことも珍しいはず。それでいてまさかのグラナダである。

バルセロナでもマドリードでもなくグラナダ。高校で世界史を学んだ者なら誰もが「アルハンブラ宮殿!レコンキスタ!」と条件反射で叫んでしまうあのグラナダだ。

ちなみにグラナダはスペイン語でザクロを意味する。街にはザクロをモチーフにしたデザインを多く見かける。だから「柘榴(ざくろ)の都」なのだ。当然、地元のサッカークラブであるグラナダCFのエンブレムにもザクロが入っている。

2.ゆったりと流れる時間を楽しむ「チル」マンガ

夏樹の母、アナはスペイン人でありグラナダは故郷だ。母が亡くなり日本で親族から厄介者扱いされている夏樹は異国の地で時間を過ごすことで自分の進む道を探していく。

とはいえ物語は自分探しが軸ではなく、夏樹のグラナダでの日常を描いている。彼にはすべてが新鮮な経験だ。歩く道や入る店、街の人々との交流はもちろん、久しぶりに会うアルバとどのように心を通わせていくかも見どころのひとつだ。

僕が特に好きなのは料理と食事のシーンだ。夏樹とアルバは、キッチンなどが共用のピソと呼ばれる集合住宅に住んでいる。ピソには二人の他にも何組かおり、彼らと共に料理や事をすることで夏樹はグラナダの生活に馴染んでいく。

読者も夏樹と同じようにグラナダの日常を過ごしている気になるから不思議だ。ホットコーヒーをグラスで飲むシーンが出てくるのだが、僕もついグラスで飲みたくなってきた。スペインではホットでもアイスでもグラスでコーヒーを飲むそうだ。

ゆったりと時間が流れる日常が描かれているのと同じように、マンガを読んでるこちらも時間がゆっくり進んでいるように思えてくるのだ。

最近「まったりする」を意味する「チル」なる言葉が流行ってるらしいが、まさにチルしながら読むにふさわしいマンガだ。そんな言葉があるか分からないが「チルマンガ」に認定するとしよう。

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辻井凌|つじー
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