フィンランド版『西洋骨董洋菓子店』か?―福田星良『ホテル・メッツァぺウラへようこそ 1』
1.ヘルシンキでもなくラップランド
心地よさと不安が同時にせり上がってくるマンガだった。
舞台は支配人のアードルフとシェフのクスタの2人がフィンランドで営む小さなホテルだ。そこに迷いこんできた若い日本人のジュンがそのホテルで働くことになり物語が進んでいく。
まず舞台がラップランドというのがそそる。フィンランドといえばヘルシンキが最も有名な地名だろう。南端にあるフィンランドの首都である。
かたやラップランドはフィンランドの北端にある地域を指す。正確にはラップランドはスウェーデン、ノルウェー、フィンランド、ロシアにまたがっており、このマンガでいうラップランドはフィンランドのラッピ県だろう。
この地域は、冬は寒く大雪で町は閉ざされ昼も短い。自然が特に猛威をふるう地域で人間がどのように生きているのか。日本人でありながらしっかり描写されている。
2.ホテルが舞台である魅力
このマンガ、実は主要人物3人がやってることは各話変わらない。宿泊の準備をし、料理を作り、宿泊客をもてなす。それだけだ。
しかし泊まりにくる客が毎話違う。そこに物語が生まれる。異なるタイプの客と触れ合うことを通して3人の人間性や過去が見えてくるのだ。物語全体がユーモアと温かさに包まれている。
ホテルを舞台にした作品は、客それぞれの人生が垣間見えることで生まれる物語と、それに吸い寄せられるようにして生まれるホテル側の人間の物語が同時に進んでいくことがウリである。前者は各話の短い物語、後者はマンガ全体を通した長い物語となり読者を飽きさせない。
3.不穏な空気から連想した『西洋骨董洋菓子店』との類似性
しかし、ただハートフルなだけがこのマンガの特徴ではない。時折みせる不穏さや影のある雰囲気が物語を彩っている。
ジュンは未成年ながら全身に刺青がほどこされている。回想シーンでは孤児だったときにヤクザの親分に引き取られて育てられるも、その親分が何者かに殺されたことが明らかになっている。
そもそもなぜラップランドまで迷い込んできたかも判明していない。実の母親がフィンランド人だったかもという程度の情報だけだ。客として来た警察官に極度な警戒心を抱いてることからも何か犯罪が絡んだ秘密を抱えてることを予想させる。
またアードルフとクスタの2人の詳しい素性もまだ明かされていない。彼らにもなにか過去に関して影を漂わせるセリフがところどころ差し込まれている。間違いなくただのあったかマンガで終わるはずはないだろう。
訳ありの男性数人が接客業と飲食業を営むという点でよしながふみの『西洋骨董洋菓子店』を連想させるような作品だ。『西洋骨董洋菓子店』も自らの過去と向き合い折り合いをつける主人公たちの姿が描かれた。『ホテル・メッツァペウラへようこそ』はどんな結末を迎えるのだろうか。たのしみである。