僕が書評を書き続けたい理由―楠木建『経営読書記録 表』
1.「ブランド」は高峰秀子と微積で学ぶべし
経営学者である著者による本の解説とメディアに連載された書評をまとめた本だ。僕は楠木さんの書評に出会って書評に対する印象が大きく変わった。本当におもしろい書評は、書評だけのった本でも買おうと思うくらい価値がある。
彼の書評は、紹介されている本がみんな気になってくる。中にはすぐ本屋へ買いに走りたくなる本も一冊二冊じゃない。エッセイとしての面白さも兼ね備えているのが、他の書評との大きな違いだ。本の紹介や所感にとどまらず、楠木さんは自身の思考回路を書評というフィールドでさらしてくれる。これがたまらなくイイのだ。
本について深く掘るだけではなく、スライドする面白さが彼の書評にはある。本のテーマとは一見関係ない他のジャンルの引き出しからエピソードや切り口を引っ張ってきて本と接続する。こうやって物事と物事を絡めると面白い思考や洞察が生まれるのかといつも学ばされる。
たとえば中神康議『三位一体の経営』の解説を読んでみる。投資家が企業の経営論を書いた本だ。この解説で楠木さんは「ブランド」の話を書いている。そこで持ち出したのは、昭和の大女優・高峰秀子だ。
経営と役者業、いったいどこにつながりがあるのか。楠木さんは「信用と人気」という切り口で見事に結びつける。さらに微分積分の概念を用いて「信用と人気」、そして「ブランド」を考察する。ここで微積のたとえを使うのは本当にしびれた。
楠木さんは実際の経営者とも仕事をともにする機会があり、その際のエピソードも秀逸である。様々な資料から過去の経営者のエピソードを引っ張ってくるのも上手だ。オリックスを経営していた宮内義彦さんとの話には思わずクスっとしてしまった。
2.書評で脳みそをさらけ出せ!
僕は楠木さんの読書に対する姿勢や書評の書き方に大きく感銘を受けている。ご本人も僕自身もこういう表現は嫌だが、まさに「楠木信者」といっても過言ではない。
日ごろから僕は「役に立つから読書する」という姿勢に疑問に抱いている。読む前に役立つか分かる本なんぞ、世界中にある本たちのわずかでしかない。本は好きだから、楽しいから読むものだ。ついでに役に立つこともたまにある。その「たまに」にわくわくするのがいいんじゃないか。
楠木さんも読書に何か利のある目的を求めることに警鐘を鳴らしている。僕も同感だ。
かつて僕は「書評なんて読んで何になるんだ」と思っていた。よく分からぬ人が書いた本のちょっとした紹介を読む時間があるなら本を読んだほうがいいに決まっている。
そんな気持ちは、楠木さんの『戦略読書日記』を読んで一気に吹き飛んだ。本の紹介をベースにして、自分の思考を縦横無尽に書き尽くす。「本を読む」と「考える」が見事セットになった書評に僕は完全にまいってしまった。
だから僕も書評を書くときには「何を思考したか」をさらけ出すことを意識する。いつも頭を開いて自分の脳を読者に見せつける気概で文字を打ち込むのだ。
最後に楠木さんが考える「書評」を表した部分を紹介する。僕も同じ思いでこれからも書評を書き続けるつもりだ。
3.参考資料
◎中神康議『三位一体の経営』
◎楠木建『戦略読書日記』