妻を知り、己を知る
小学5年生ぐらいのときだろうか、授業中に男子だけがグランドでサッカーをするように言われ、女子が教室で授業を受ける中、私たち男子は無邪気にサッカーボールを追いかけた。後で聞いた噂によると、その日女子には月経の授業が行われていたらしい。女子だけが、こっそり大人になる準備のための授業を受けていたのだ。
そのため私たちの世代の男子は生理のことを学校で教わらないまま大人になっている。最近の教育事情は分からないが…。
結婚してからは月イチぐらいのペースで妻から「あぁ生理がきそう」という嘆きのような自己申告を受け、妻のからだに不調のタイミングが訪れたことを知る。ひどく辛いときには腰を叩いてくれと言われることがままあるが、具体的に何がどう辛いのかまでは分かっていなかった。
『これってホルモンのしわざだったのね』はイラストがかわいく、章はじめにマンガが書かれていたりで、読み進めやすい。
そしてエストロゲンとプロゲステロンの2つの分泌が、月経期→月経後→排卵後→月経前によって波のように増えたり減ったりし、その波が女性のからだの不調となって現れる。
男兄弟だったので母から生理の話を聞くことはなかったし、マンガやテレビドラマの登場人物が生理になるところなんてほとんど見たことがない。会社の女性からも「今日生理なんです」とフランクに打ち明けられることもなく、毎月の妻の嘆きだけの存在だった生理がどんなものか、この本を読んで、はじめて知った。
妻も会社の女性たちも月経前や月経期の絶不調が訪れても家事をしてから仕事に行き、仕事が終わってからも家で家事をして、めちゃ大変。絶好調なのは月経後のわずかな時期だけなのかと思うと女性の苦労を労う言葉をwebで調べてストックしておこう、という気持ちになる。
もう一冊は、モテてきた人生を歩んで来なかった男として気になる本『「非モテ」からはじめる男性学』。モテない男の心をキュンとさせる書き出しはよかったが、その後の非モテの歴史が犯罪者が出てくるなど想像していたよりダークだった。小田原ドラゴンなどが出てくるようなポップな系譜を勝手にイメージしていただけに•••。
そして、非モテの男性が非モテに至るまでの経緯が、当事者たちによって語られる。学生時代に男のコミュニティでからかわれたり、イジられたりした経験が非モテ男性の心に巣食うのだ。
からかいやいじりなど「緩い排除」を受けながらも非モテ男性はその狭い世界にしがみつく。非モテ男性の敵は男性である。その敵は標準的な男性像といったあやふやなものを押し付けて非モテ男性を攻撃してくる。
巧妙なやり口。そして一発逆転とも言えるモテへの欲望が発動する。そして時には女性へのストーキング的な方向へ向かってしまうこともある。
モテを渇望するこんがらがった状況を解きほぐすには、やはり狭く閉じた世界を広げること、そして「コミュニケーションのあり方を相対化」すること。
20年くらい前にみうらじゅんがテレビで「高校時代モテてたヤツの話なんて全然面白くない」と言っていたことをいまだに覚えているのだが、それもモテない自分の過去を客観視し、自ら笑い話にしても心がヒリヒリしなくなっていることが前提なのだろう•••モテてたヤツの話は自慢話ばかりで面白くない、というニュアンスだったのかもしれないが•••。
『「非モテ」から始める男性学』はモテないことで苦しむ誰かの手助けになる。かつて私が斎藤環のひきこもりの本や『フェリスはある朝突然に』を見て「やばいなぁ、俺」と思ったように。何よりも自分以外にも非モテで悩む男性がいる、ということを知るだけでも心強い。
そして鬱屈した状態を抜け出し、心新たにモテへ向かう時のために何を読むべきかと言うと『これってホルモンのしわざだったのね』が最高の恋愛マニュアル本に見えてくる。とにかく男闘呼もサッカーを中断して女子が待つ教室に戻ろう。
今月の本
『これってホルモンのしわざだったのね 女性ホルモンと上手に付き合うコツ』松村圭子(池田書店)
『「非モテ」から始める男性学』西井開(集英社新書)