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カジュアリティーズ
ブライアン・デ・パルマ監督、マイケル・J・フォックス主演、1966年11月に起きた『192高地虐殺事件』を題材とするドキュメンタリー小説を原作とするベトナム戦争映画です。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のイメージが強いフォックスが、一転してシリアスな役柄に挑戦しています。共演はショーン・ペン、ドン・ハーヴェイ、ジョン・C・ライリー、ジョン・レグイザモ。さすがにみんな若い。
「キャリー」「スカーフェイス」「アンタッチャブル」「ミッション:インポッシブル」等、ヒット作を生み出す傍ら、不出来だったり物議を醸したりの作品も少なくないデ・パルマ監督。後にイラク戦争を舞台に、米兵による同様の戦争犯罪を描いた「リダクテッド 真実の価値」を撮りましたが、本作以上にコケました。戦争の賛否はさておき、国のために戦地で苦労した/している兵士を非難したくないという意見が米国(特に保守層)では強いのでしょう。葛藤し、孤独に耐えて、戦地での犯罪に手を染めた戦友を告発するエリクソン(フォックス)の正義感を描いた作品……というのが本作の正しい見方なのでしょうが、今回はほんの少し違う見方もできるかも、と思えました。
ミザーブ軍曹(ペン)は、銃撃戦の中ベトコンのトンネルにハマったエリクソンを助けに戻ったりと、長距離偵察に赴く前までは割と戦友思いのマトモな奴です。仲の良かったブラウン(エリック・キング)が死に、非番の外出を制限されたことで張りつめていた線がぷつんと切れるように、クソ野郎化が急加速するように感じました。クラーク伍長(ハーヴェイ)は本物の悪党。刑が一番重かったのが彼です。女性誘拐の計画を聞かされた彼がナイフをかざすとき、ミザーブに悪党精神を注入しているように見えます。ハッチャー(ライリー)は何も考えずただその場のノリに流されてるだけ。倫理観は持ち合わせているんだけども、同調圧力に潰されて犯罪に加担してしまうディアズ(レグイザモ)は、我々がもっとも共感できる人物だと思いますが、いずれハッチャーのように何も考えなくなってしまうのでしょう。
してみると、生来の悪人であるクラーク以外は、特殊な環境=戦争が生み出した怪物であり、見方を変えれば犠牲者であると言えます。戦争に関わらず自己を貫いたのはエリクソンとクラークだけ。この2人は自分から一番遠い存在だと思えました。一番自分に近いのはディアズですが、状況によってはミザーブにもハッチャーにもなり得る。本作の一番の犠牲者(casualty)は誘拐された挙句に殺されるベトナム人少女であることは間違いないのですが、ミザーブ、ハッチャー、ディアズの3人もまた(もちろん同情はできないけど)戦争の犠牲者と言えるのかもしれません。
いっぽう、正義を貫いたエリクソンも、少女を逃がす機会があったにも関わらずそれを果たせなかった負い目があります。ラスト、米国内で少女に似た学生に「悪い夢を見てたみたいだけど、もう大丈夫そうね」と言われますが、たぶん大丈夫じゃないんでしょう。彼もまた、少女を見殺しにしたこと、戦友を告発して自分だけイイコになったことの十字架を背負うことになります。
判決がくだり、退廷するミザーブがエリクソンに何か言います。以前は「覚えてろよ、必ず借りを返してやる」ぐらい言っていると思っていたのですが、むしろ「いい気になるなよ、お前も死ぬまで後悔して生きるんだぜ」とか言ってるのかもしれません。これは報復に怯えて暮らすよりもずっとキビシイ。呪詛ですね。
他の出演者についても少し。上官のライリー中尉役は「パルプ・フィクション」や「ミッション:インポッシブル」シリーズのヴィング・レイムス。さらに上官のヒル大尉を演じたのはデイル・ダイ。元海兵隊員で、「プラトーン」などに軍人役で出演するとともに、軍事アドバイザーも務めています。二枚目な従軍牧師を演じているのはサム・ロバーズ。両親はジェイソン・ロバーズとローレン・バコールです。
【追記】
クラークがドアーズの「ハロー・アイ・ラブ・ユー」を歌うシーンがありますが、この曲がリリースされたのは1968年です。